日米安保条約破棄示唆:トランプ流「取引」か

日米安保条約破棄の考えを側近に示していたといわれたトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領が日米安保条約破棄の考えを側近に示していたという情報は「個人的な会話の内容」であり、まだ深読みは避けた方がいい。ただ、トランプ氏のこの衝撃的な発言はそもそも2016年の大統領選挙の時のものとほぼ同様の趣旨であり、トランプ流の「取引の材料」にみえる。

(1)「取引の材料」

 日本に在日米軍駐留経費の全額負担に応じなければ、米軍撤退など、日米間の合意を解消し、核保有も含め、自主防衛を促す可能性があるトランプ氏の発言は、日米交渉に対する取引の材料にみえる。同盟を揺るがすことで日本の参議院選挙後の貿易交渉の譲歩(「安保と経済の取引」)を狙っているようにもみえる。

 トランプ氏の立場からみれば日本側に在日米軍の負担増の必要性をめぐる論議が起こること自体が、圧倒的に有利である。ブラフのような発言であっても日本側に議論を巻き起こし、負担増の可能性を引き出せたら、それこそトランプにとっては“儲けもの”であろう。さらに、貿易交渉などで「日本からの譲歩を引き出せる」かもしれない。

 アメリカ国内の発言としても巧妙である。トランプ氏の熱狂的な支持者の白人ブルーカラー層の心をつかむ発言であることだ。この層はなんとなくではあるが、「アメリカが無理をして日本を守っている。その経費を負担すべきなのは当然だ」と思い込んでいる節があることをいつも話していて感じる。

(2)在日米軍の役割

 トランプ発言は東アジアの安全保障を合理的に理解したものとは到底思えない。米軍駐留経費に占める割合の中で日本側の負担は75%に達しており、すでにほかの多くの同盟国よりも日本側は負担しており、さらなる増額で「駐留米軍経費の全額負担」は通常は考えにくい。日米安全保障条約は片務的なものではなく、日本を超え「極東における平和と安全」のために米軍は駐留している。

 アメリカの対中国、対北朝鮮政策の最前線としての在日米軍の役割、そして日本の自衛隊との緊密な情報交換はアメリカの東アジア政策の核である。ベトナム戦争では在日米軍はまさに最前線となり、アメリカは日本経由で北ベトナムと戦った経緯もある。現在のアメリカの中東政策においても、日本は優れた中継基地だ。日本という戦略的に非常に重要な場所を利用できるというメリットを含め、日米同盟の役割を少しでも意識していれば、このような発言にはなりにくい。そもそも、もし本当に破棄するとしたら、6月はじめにトランプ政権が打ち出したばかりの「インド・太平洋戦略」も大きく見直さなければならない(が、そこはトランプ流なので何とも判断しにくい)。

(3)現実的な安保破棄の難しさ

 もし、仮にトランプ大統領が三軍の長として日米安保条約そのものを改定することを命じた場合、連邦議会がそれをすぐには許さないだろう。もし撤退となった場合、自衛隊の能力を高めていくという選択肢が考えられるが、現在と同レベルの防衛能力にするには配備などに時間がかかる。「力の空白」は東アジアの安全保障のリスクを高めてしまうため、条約改正やあるいは米軍の部分撤退はトランプ政権が終わるまでにまとまるとは思えない。日本の核兵器保有の実現性についても、NPT(核兵器不拡散条約)体制を根幹から揺るがすため、実際には想定しにくい。日本や韓国が核を持つことは東アジアの地政学的なリスクが一気に高まるため、アメリカにとっても長期的な介入に引き込まれる可能性がある。また、日本の核武装については唯一の被爆国として、日本国内の世論が許さないだろう。

(4)言葉による外交

 外交や安全保障は言葉のゲームでもある。日本側の不安を高めてしまうという意味で、今回の発言がもし本当だったとすると、日米同盟をみる日本国内の世論は今後大きく変わるかもしれない。もしかしたら「日米同盟」が崩れてしまうというイメージは少しずつ国内の安保法制議論をめぐる世論にも影響を与えていくかもしれない。さらに、「駐留米軍の撤退の可能性」が、たとえほんの少しでも実際に見えてきた段階で、中国を含む近隣諸国の出方も変わってくるであろう。そうなると、東アジア、南アジアの地政学的なリスクが非常に高まる。

 現状では現実的な安保破棄はかなり難しいとみられる。在日米軍などをめぐるトランプの一連の発言について、日本としては、過度に反応すべきではないだろう。