不法入国した若者の救済制度「DACA」撤廃:アメリカン「ドリーム」の行方

「DACA」の撤廃に反対する若者のデモ(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領が決めた、不法入国した若者の救済制度「DACA」の撤廃が全米を揺るがしている。救済は人道的な問題ではあるが、国内世論が割れている結果だ。長年議論されてきたこの問題を振り返ってみたい。

(1)「DACA」とは

 「DACA」とは「幼児不法入国者送還猶予措置(Deferred Action for Childhood Arrivals)」の略であり、不法移民(非合法移民)のうち、いくつかの条件に当てはまる若者に限っては在留を認めるという制度である。オバマ政権が2012年6月に大統領令で決めた。

 この制度で救済されるのは、具体的には、(1)16歳までに入国、(2)2012年6月現在30歳未満、(3)5年以上米国に居住、(4)アメリカの高校を卒業するか米軍や沿岸警備隊の勤務経験がある人、という条件を満たす場合である。その場合、2年間(更新可)に限り、国外退去処分の対象から外し、米国内での就労も可能にする。ただし、市民権が与えられるわけではない。

 不法入国したのは、自分の意志でなく、親の都合である。しかも、入国後、罪を犯すこともなく、善良に過ごしてきた若者には罪がない。そのため、何らかの救済の対象にしないといけないという考えに基づいたのがこの制度だ。この制度でヒスパニック系を中心とした約80万人の若者が恩恵を受け、強制退去の恐怖から免れてきた。

(2)大統領令の限界

 このオバマ前大統領の大統領令をトランプ大統領が大統領令で撤回するというのが今回の発表である。9月5日の発表によると、対象者には3月5日まで、約6カ月の猶予期間が与えられるが、その後には個々の申請者の有効期限が切れると同時に、法的には不法滞在者となっていく。ただ、3月5日までに議会がDACA対象者の処遇に関する新法を制定すればそちらが優先される。

 議会がそれまでにDACA対象者の処遇に関する新法を制定しなければ、対象者は滞在許可が失効した時点で不法滞在者となる。

 今回のトランプ政権によるDACA撤回の発表を受け、すぐにニューヨークやバージニアなど15州とワシントンDCが、今回のトランプ政権によるDACA撤回の無効を求めて連邦裁判所に提訴した。また、多くの移民を抱える、シリコンバレーのテクノロジー企業を中心に反対の声が高まっており、DACA撤回反対に対する抗議集会も続いている。オバマ前大統領も声高に批判した。全米の大学も対象となる学生の保護を強く打ち出し始めている。

 大統領令はあくまで「小手先」の行政命令に過ぎない。大統領が変われば変更できる大統領令の限界を改めて明らかにした。人の移動という国の根幹にも関連する移民政策は基本的には議会が法律としてルール作りをしなければならない。議会が動かず、オバマ前大統領の苦肉の大統領令として生まれたのがDACAであり、オバマ氏も2012年当時「あくまでもこれは暫定的な措置」と何度も強調していた。

(3)不法移民をめぐる意見の対立

 ピュー・リサーチセンターによると、2014年現在、アメリカにいる不法移民の数は1100万人程度と推計されている。アメリカの人口が約3億人強であるため、人口の3.5%を超える。だが、不法移民の数は1990年には350万人程度だった。その後、ヒスパニック系を中心に合法移民だけでなく、不法移民も急増して今に至る(リーマンショック前の2007年が不法移民の数は1200万人程度とピークだったが、ここ数年、微減ではある)。

 不法移民はアメリカ経済の急伸に伴い、低賃金労働者として経済を支えてきた。不法移民はメキシコ国境の各州に集中する。同じくピュー・リサーチセンターによると、カリフォルニア州の労働人口の9%、ネバダ州は10.4%、テキサス州8.5%と特定の州の場合には産業構造上、不法移民なしで動けないような状況になっている。

 この四半世紀もの間、対策を先送りしてきた議会の責任は大きいが、その背景には様々な意見の対立が顕在化してきた。不法移民そのものは増えても、膨大な国境警備の予算は常に十分でなかったほか、「DACA」の対象となる不法入国した若者の救済制度が「不法移民に対する恩赦(アムネスティ)」につながるとして、保守派議員、特に不法移民が急増する南部の国境沿いの諸州選出議員が常に反対してきた。不法移民が急増する各州では「移民は同化できない」とする住民からの拒否感もあった。

 逆に上述のように、不法移民は低賃金労働者として必要だったため、農業やサービス業などの一部の産業界からは規制に反対する声も強かった。さらに、人権的な配慮から全米各地の群や市の自治体約200は「聖域都市(サンクチュアリ・シティ)」として、若者に限らず、不法移民そのもの摘発を行わない寛容政策を取り続けてきた。不法移民の強制送還は連邦政府の役割だが、連邦政府機関の取締りに「聖域都市」では地元警察は協力しないことを宣言してきた。また、「聖域都市」に限らず、不法入国した若者についても、高校までの公教育は無償で提供されてきた。

(4)決まらない「ドリーム法」

 「DACA」はあくまでもオバマ前大統領の暫定的な行政判断だが、そもそも議会にはこれに相当する法案(通称「ドリーム法」)が2001年(第107議会)から議会で論じられており、様々な修正を加えて何度も提出されてきた。しかし、上述の意見の対立でこれまで成立に至っていない。ドリーム法とは「Development, Relief and Education for Alien Minors(DREAM)」の頭文字から名づけられており、市民権授与を含む非合法移民の若者を救済する移民制度改革と大学教育促進を目指すものであった。国外退去処分の対象から外し、米国内での就労も可能にするだけでなく、州立大学の州内出身者授業割引制度の適用や大学奨学金の受給条件の緩和も法案の争点だった。

 ドリーム法の対象者を「ドリーマー」と呼んでおり、不法移民の若者救済そのものが社会運動化していった。運動では、若者たちが自ら不法移民であることを告白しながら、不法移民だがアメリカ社会を大きく発展させてきたことをPRする「カミングアウト集会」はDACAが始まる直前の数年間はピークに達した。フィリピンからの不法移民でありながら、ワシントンポストの元記者でピューリッツァー賞も受賞した、アントニオ・バルガス氏らが告白運動の中心となり活動してきた。それもあって、国レベルの「ドリーム法」はなかなか成立しないものの、州レベルでは、カリフォルニア州のように、不法移民に対して、大学教育の際の州内出身者割引適用、各種民間奨学金申請を認めるようなケースも出てきた。

(5)「ドリーム」の行方

 今後の争点は、議会が救済措置の立法に乗り切れるかどうかにかかっている。救済措置もこれまでと同じように「ドリーム法」と名付けられるかもしれない。

 いまのところ、世論は地域差が大きく、不法移民に対する公共サービスの負担が直撃する南部諸州の反対はすでに起こっている。ヒスパニック系だけでなく、黒人、アジア系を含めたマイノリティの影響力は今後さらに強まり、米国の社会・政治構造をも変化させる、とも予想されている。ただ、ヒスパニック系の増加は共和党にとっても新しい支持層の獲得につながるため、南部諸州の反対はあっても、何とか期限までに成立する可能性もある。南部諸州の議員を説得するために、米墨国境の壁は予算的に難しいとしても、何らかの国境警備の強化案なども同時に提出されていくのかと想像される。

 多くの共和党議員の資金的な後ろ盾となっているコーク兄弟も対象の若者たちの救済を強く呼びかけ始めた。さらに、9月中旬からDACA廃止を宣言したトランプ大統領自身がやや柔軟な姿勢を示しており、民主党側との妥協を何度も示唆している。トランプ氏の妥協は税制改革などとの「取引」も念頭に置いているのかもしれない。

 様々な思惑の中、「ドリーム」の行方はどうなるか。注目したい。