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実刑判決でも1億円で再保釈 秋元議員、衆院選の出馬や選挙運動はどうなる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:中尾由里子/アフロ)

 カジノ汚職をめぐる収賄や証人買収に問われた秋元司衆議院議員に対し、東京地裁は懲役4年の実刑判決を言い渡す一方、1億円の保釈保証金で再保釈を許可した。秋元議員は辞職せず、衆院選に立候補する意向だという。

控訴と再保釈がポイント

 しかし、この有罪判決が確定すると、秋元議員は失職することになる。刑期中は公民権が停止され、さらに刑期の終了から5年間は選挙権を、10年間は被選挙権を失う。当然ながら、衆院選に立候補することもできなくなる。

 そこで、これを避けるために弁護団が控訴するはずだ。もともと全面無罪を主張していたわけだから、むしろ控訴は当然の流れと言えるだろう。

 ただ、秋元議員は保釈中だった。実刑判決の言い渡しにより保釈の効力がなくなるので、閉廷後、東京地検の係官に身柄を拘束されている。

 さっそく弁護団が再保釈を請求し、東京地裁は許可した。前回の保釈保証金は8000万円だったから、2000万円ほど積み増しを求められたことになる。

 検察側の抗告に対し、東京高裁がどう判断するかが重要だ。もし拘置所に収容されたままだと、地元の選挙区を回って有権者に直接訴えるといったことが不可能になるからだ。面会や手紙で支援者にメッセージを伝えるといった程度で、実りのある選挙運動ができなくなる。

 一方、再保釈中であれば、事件関係者との接触こそ禁止されるものの、選挙運動自体は自由に行うことができる。

「獄中立候補」の前例も

 もちろん、再保釈中に控訴審に向けて再び証人買収に及ぶなど、保釈許可条件に違反すれば、再保釈は取り消され、拘置所に収容される。そうなれば、いわゆる「獄中立候補」という形になるだろう。

 それでも、過去には国政に「獄中立候補」をし、当選した人物がいる。元総理の田中角栄氏だ。法務政務次官だった1948年に炭鉱国管疑獄で逮捕、起訴されたものの、1949年の衆院選に拘置所から立候補した。投票日の10日前にようやく保釈され、短期間の選挙運動で再選を果たしている。

 地方選挙では、投票日まで保釈されず、全く選挙運動ができなかったにもかかわらず、当選した例がある。元和歌山市長と元熊本県相良村長だ。それぞれ汚職事件で逮捕、起訴され、勾留中に市議会議員選挙や村長選挙に立候補し、拘置所で当選を果たした。

 なお、勾留中でも、選挙権を行使し、投票することは可能だ。不在者投票の方法による。投票用紙などは、自らないし不在者投票の管理者である拘置所長を介し、選挙管理委員会に請求すればよい。記載を済ませ、投票用封筒に封入した投票用紙は、拘置所が選管に送付する決まりだ。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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