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ニルヴァーナのジャケ写 45年前のスコーピオンズ騒動との法的な違いは?

前田恒彦元特捜部主任検事
ジャケ写のモデルであり、ニルヴァーナの元メンバーらを提訴した男性(写真:Splash/アフロ)

 30年前に発売されたニルヴァーナ「ネヴァーマインド」のジャケット写真をめぐる裁判が話題だ。ロックファンの中には、45年前のスコーピオンズ「ヴァージン・キラー」騒動を思い起こした人も多いのではないか。

「児童ポルノ」だと問題に

 「ヴァージン・キラー」のジャケットは、少し股を開いて床に座り、手を後ろについて胸を反らした少女の全裸写真が使われ、性器部分にガラスのヒビが入れられたデザインだった。

 アルバムタイトルとも相まって、米国など多くの国で「児童ポルノ」に当たるのではないかと問題視され、発売当初からバンドメンバーの写真に差し替えられた。

 しかし、日本では1999年に児童買春・児童ポルノ禁止法が制定されたにもかかわらず、2007年までオリジナル盤のジャケットで発売されていた。それだけ日本は児童ポルノに対する意識が薄かったと言える。

 スコーピオンズでリードギターを務めていたウリ・ジョン・ロートも、インタビューの中で次のように語っているほどだ。

「『狂熱の蠍団/ヴァージン・キラー』(1976)のジャケットは酷かった。当時はまだ社会の規制や検閲が大きな問題になる前の時代だったけど、本当に酷いと思った。ただ、それが功を奏したのか、『ヴァージン・キラー』はスコーピオンズにとって初めて日本でゴールド・アルバムになったんだ」(BARKS

無関係のメンバーまでも

 一方、ニルヴァーナの「ネヴァーマインド」のジャケットは、全裸の赤ちゃんがプールの中で1ドル札の方を見ながら泳いでいるというものだ。「ヴァージン・キラー」と違い、性器まで見えている。

 そこで、モデルだった男性は、児童ポルノに当たるとして、元メンバーやカメラマンらに多額の損害賠償を求める裁判を起こした。

 驚いたことに、発売時にはすでにバンドを脱退し、アルバムジャケットと何の関わりもない元ドラマーのチャド・チャニングまで訴えられている。さすがは訴訟社会の米国だ。

 ただ、米国では性的ではない乳児の写真は児童ポルノには当たらないという。性的な文脈で児童が使われているか否かに判断の重きが置かれているという話もある。その意味では、「ヴァージン・キラー」とは法的な評価が異なる。

軸足を「虐待」に

 そのため、男性の弁護士は、児童ポルノに当たるという主張に加え、カメラマンらが赤ちゃんだった男性をプールに投げ込む際、男性の咽頭反射を刺激し、性器を強調させたといった「虐待」の側面に主張の軸足を置いている。

 カメラマンの話では、赤ちゃんをプールに入れるのは一度限りと決められており、人形で予行演習も行ったという。それでも、赤ちゃんを丸裸にし、浮き輪などを付けないまま大人が深いプールにドボンと投げ込んでいるわけだから、虐待に当たると評価される余地はある。

 賠償金目あての提訴だと批判の声も上がっているが、「裁判は水物」と言われるほど裁判官の考え方や相手の対応、時勢の状況などに左右される。裁判の行方とともに、「ネヴァーマインド」もジャケットの差し替えに発展するか否かが注目される。(了)

(参考)

 拙稿「ニルヴァーナのジャケ写、モデルが児童ポルノと提訴 日本で摘発はあり得る?

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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