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米国で性犯罪者に275年半の拘禁刑 「ワンストライクアウト法」とは?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

 米国オレゴン州の裁判所で、少女4人に対する性犯罪に問われた34歳の男に対し、275年半の拘禁刑が宣告された。「ワンストライクアウト法」と呼ばれる特別な法律に基づく。

どのような事案?

 報道によれば、次のような事案だ。

「オレゴン州ダグラス郡の裁判所で6月1日、検察官が『前代未聞』と表現する判決が下された」

「問われたのは4人の少女に対する29件の性犯罪だ。犯行は2014年8月から2020年1月の間に行われたとされる」

「7件の第一級ソドミー罪(自然に反する性行為)と3件の第一級性的暴行罪でそれぞれ25年、3件の第一級性的虐待罪で[それぞれ]75ヵ月、1件の第一級性的暴行未遂で45ヵ月、1件の第二級性的虐待罪で36ヵ月の懲役刑となり、合計で275年6ヵ月の懲役となった」

「検事は『被害者一人一人に犯した罪を正当に判断してほしい』と主張。『彼女たちは決して同じではありません』と、何人もの少女が一生立ち直れないようなトラウマを抱えていることを訴えた」

COURRiER Japon

 米国では受刑者に刑務作業の義務がないので、「懲役刑」という表現は不正確であり、一般には「拘禁刑」と呼ばれる。ただ、公判を担当した検察官が「前代未聞」と語るほど、悪質な事件であることは確かだ。

量刑が「青天井」

 わが国では、2017年の刑法改正で性犯罪の厳罰化が図られた。しかし、強制性交等罪の最高刑は懲役20年のままで変更されなかった。性犯罪に限らず、それが刑法における有期懲役の上限だからだ。

 複数の事件で併せて有罪になれば、最高刑が1.5倍増しの懲役30年まで引き上げられるものの、被害者を死傷させない限り、たとえ何十件に及ぼうと無期懲役はない。

 一方、米国では、有罪になった犯罪ごとに刑を決め、単純に合算するシステムになっている。まさしく「青天井」だ。

 2013年にも、オハイオ州で女性3人に対する誘拐や監禁、性的暴行など900超の事件で有罪になった男が、「終身刑1回+拘禁刑1000年」を宣告されている。

「ワンストライクアウト法」とは?

 ただ、それでも1件ごとの刑期が情状を酌量して3年とか5年といったものであれば、たとえ合計しても簡単には275年半といった数字にはならない。

 先ほどの記事には触れられていないが、オレゴン州には「ワンストライクアウト」「ワンストライク・ユーアーアウト」などと呼ばれる特別な法律が存在する。住民投票を経て1995年に可決されたものだ。

 これによれば、第一級殺人罪や第一級性的暴行罪といった特定の重大犯罪の場合、たとえ初犯で1件しか起こしていなくても、また、犯人にどれだけ有利な情状があろうとも、この法律に規定されている刑期を下回る量刑は許されない。

 しかも、オレゴン州には、有名な児童性虐待事件の被害者の名を冠した「ジェシカ法」と呼ばれる法律がある。「ワンストライクアウト法」と組み合わせれば、12歳未満の被害者に対する性虐待は1件あたり必ず25年の拘禁刑になる。2件で50年、3件で75年だ。

 こうした法律は、被害者団体の請願に基づいて制定されたものだ。裁判官が犯人に温情をかけ、寛大な刑期を言い渡したとしても、彼らの改善や更生には繋がらず、むしろできるだけ長く社会から隔離したほうが、それだけ社会が守られるという理屈に基づく。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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