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「五輪観戦はコカ・コーラ製品で」「他社製はラベル剥がして」 法的根拠は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:ロイター/アフロ)

 児童や生徒のオリンピック観戦が予定されている茨城県鹿嶋市。競技場に持ち込むペットボトルはできるだけコカ・コーラ社の製品とし、他社製ならラベルを剥がすようにといった内容の依頼文書が話題となっている。

規約にメーカーの指定なし

 もしこうした文書の存在が事実であれば、その法的根拠が問題となる。この点、東京オリンピック組織委員会は、ペットボトルなど競技場への持込禁止物品に関する規約を定めている。これに違反すれば、入場を拒否され、退場処分を受ける場合もあり得る。

 しかし、この規約では、次のとおり例外的に持ち込めるペットボトルや飲料について、具体的なメーカーや商品名までは指定されていない。

「ガラス容器、缶、紙パック・アルミパック等、ペットボトル・水筒(1人当たり、いずれか1本で容量750ml以下のペットボトル・容量750ml程度の水筒を除く)」

「飲料(1人当たり、いずれか1本で内容量750ml以下のペットボトル・水筒については、原則試飲の上持ち込可)、凍結した飲料、アルコール飲料」

東京五輪は「特例措置」

 そもそも、近年のオリンピックでは、競技場への飲料の持ち込み自体が一律で禁止されてきた。液体爆発物によるテロを防止するとともに、IOCの最高位スポンサーとして競技場内での清涼飲料水の独占販売権を取得しているコカ・コーラ社に対する配慮からだ。

 しかし、東京オリンピックの場合、猛暑の時期と重なるため、観客の熱中症対策が重要となった。そこで、コカ・コーラ社とも協議し、「特例措置」として、先ほど挙げた容量や本数の限度で例外的に飲料の持ち込みが認められた。

 結局は無観客開催となったが、東京都では「持ち込み可」とする引き換えに自らコカ・コーラ社のペットボトル入りのミネラルウォーターを大量に買い上げ、無料で入場者に配布するといった計画もあったほどだ。

会社名を表示した物は?

 一方で、この規約には、持込禁止物品として次のようなものも挙げられている。

「特定の会社又は企業の宣伝を目的として、特定の会社名、製品名等を表示した物(特定の会社、製品等を連想させる物、無許可のチラシ、パンフレット、プロモーション素材を含む) 」

 スポンサーであるコカ・コーラ社以外の製品のラベルがこれに当たるとして、剥がさなければ入場を拒否するといった措置に出ることも一応は可能となっている。

 ただ、商品の説明ラベルがチラシやパンフレットのように特定の会社や企業の「宣伝」を目的とした物と言えるのかについては疑義がある。さすがに組織委員会からも、そこまでやるといったアナウンスは出ていない状況だ。

過剰な配慮が問題になったことも

 現に、2012年のロンドン大会では、こうしたスポンサーへの過剰な配慮が大きな問題となった。組織委員会の会長が「ペプシのロゴ入りのTシャツを着ている観客は競技場に入れないだろう」などと発言し、物議を醸したからだ。

 ロンドン市長が「常軌を逸した規制だ」と批判し、組織委員会やIOCも直ちに「観客の服装は自由」といった声明を出して火消しに回ったが、商業主義に走るオリンピックの実情が浮き彫りになった一件だった。

 今回のケースも、もし実際に児童や生徒らに依頼文書が配布されているのであれば、スポンサーに忖度した過剰反応ということになる。誰の指示でどの部署が何のためにそうした依頼を出したのか、責任の所在を明らかにする必要があるだろう。(了)

【追記】

 本稿の配信後、次のような続報が出ている。今後、組織委員会担当者による発言の趣旨が問題となるだろう。

「市教委によると、市立学校のうち1校が15日付で『(持ち込む)飲料はペットボトルの場合、コカ・コーラ社製の飲料でお願いします』とする文書を配布した」

「9日に組織委が会場を視察した際、担当者が各校の教職員に『コカ・コーラ社製以外のペットボトルは持ち込み禁止で、それ以外はラベルをはがして』と発言したのを受けた通知という」

「文書はツイッター上などで拡散し、市に苦情が殺到した。市教委は『誤解のある表現だった』としている。市教委は学校にラベルをはがすことのみ求めていたという」(毎日新聞

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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