東京など大半の会場で無観客となるオリンピック。飲食がセットになったホスピタリティパッケージの購入者には既に紙チケットが届いているという。無効だが「幻の2020五輪」としてプレミアムがつくのではないか。

 一方、一般の購入者の場合、有観客でチケットがなお有効であり、購入時に紙チケットを希望していた場合に限り、ホームプリントで入場できる代わりに大会後に郵送されるが、無観客による無効分については大会後に自動払戻しとなり、紙チケットの発行もない。

 ただ、二転三転する東京五輪の組織委員会のことだから、「記念に手もとに置いておきたい。どうせ印刷しているのであれば、手数料を支払うから、紙チケットを送ってもらいたい」といった声が高まれば、この方針も変更されるかもしれない。

 このほか、関係者筋から開会式や閉会式など価値の高い紙チケットが外部に出回る可能性もある。たとえ無効なものでも、コロナ禍による無観客という経緯をたどった歴史的な大会の未使用品であり、世界中のコレクターからの買取需要が見込まれるからだ。

規約に「落とし穴」が

 もし紙チケットを転売しようとした場合、まず問題となるのは、チケット不正転売禁止法に抵触するのではないかという点だ。しかし、この法律で転売が規制されるチケットは、その提示によって興行を行う場所に入場できるものに限られている。

 無効になったチケットでは会場に入れないわけだから、たとえ転売したとしても、この法律で処罰されることはない。もっとも、「東京2020チケット購入・利用規約」には、次のような「落とし穴」がある。

「すべてのチケットの所有権は当法人に帰属するものであり、チケットが無効となった場合…には、当法人はチケット保有者に対してチケットの返還を求めることができます」(4条1項)

「チケット保有者は…チケットを第三者に転売することはできず…チケット転売の申出や広告をしてはなりません」(35条1項)

 「当法人」とは組織委員会のことだ。この規約によれば、有効・無効を問わずチケットそのものは販売後も委員会のものであり、保有者は競技の観覧権を有するだけということになる。

 キャッシュカードやクレジットカード、スマホのSIMカードに関する約款でそれらの所有権が銀行やカード会社、通信会社に帰属し、ユーザーは借り受けているだけという法的関係と類似している。

保有者の不安解消を急げ

 この規約を杓子定規にあてはめると、無観客のためチケットが無効になった場合でも、委員会からその返還を求めることができるという変な話になる。一方、刑法では、そうした委託信任関係に基づいて手もとにある他人の所有物を所有者に無断で転売すれば、横領罪で処罰されることになっている。

 紙チケットの法的な位置づけがどうなるのか、委員会からは何の説明もないから、先ほどの規約に立ち返らざるを得なくなる。委員会が被害を訴えることなど考えられないが、コレクターに転売したい人だけでなく、記念にとっておきたい人も多くいるはずだ。

 委員会には、翻弄されてきた購入者に配慮し、たとえ無観客のため無効になったチケットでも、当初から紙チケットを選択していれば改めてその希望を聞き、払戻し金から手数料などを差し引いて郵送するといった柔軟な対応が望まれる。

 併せて、既に手もとにある者も多くいるわけだから、「所有権を放棄し、返還も求めない。売るなり保管するなり、自由にしてもらって構わない」といったアナウンスを行い、不安の解消を急ぐべきだろう。(了)