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公務員でない「民間人」ですら収賄で逮捕されることアリってご存じでしたか?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 山梨で特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人の理事長や評議員ら8人が社会福祉法違反で逮捕された。理事選を巡って20万円の「賄賂」が受け渡されたという贈収賄の容疑だ。なぜか――。

「みなし公務員」にはあたらず

 賄賂というと、刑法に規定されている公務員の単純収賄罪や受託収賄罪、加重収賄罪などがその代表だ。

 この規定は、公務員だけでなく、法律で「みなし公務員」とされている者にも適用される。公務員の職務を代行していたり、業務の内容が公務に準ずる公益性や公共性を有しているからだ。

 例えば、駐車監視員や自動車検査員、日本銀行や日本年金機構、国立大学法人、国立病院機構、都市再生機構、国民生活センターの役職員などだ。

 これに対し、社会福祉法人の理事や評議員など、完全な民間人は「みなし公務員」にはあたらないから、刑法の収賄罪を適用できない。

個別の法律で対応

 しかし、たとえ民間の業務であっても、一定の公益性があり、公平性や透明性が求められる仕事も多い。そこで、個別の法律の中で、特別な収賄罪を規定している場合もある。

 日本郵政、日本郵便、NTT、高速道路会社、成田・関西・中部国際空港、日本たばこ産業の役職員や、競馬、競輪、競艇、オートレースの選手などがその例として挙げられる。

 社会福祉法人も、2016年の社会福祉法改正で経営組織のガバナンス強化などが図られた際、収賄罪が導入された。

 具体的には、評議員や理事、監事らが、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受、要求、約束した場合、5年以下の懲役か500万円以下の罰金に処される。贈賄側は、3年以下の懲役か300万円以下の罰金だ。

 刑法でいえば受託収賄罪の形態にあたるが、そちらは7年以下の懲役であり、罰金刑がないので、社会福祉法の収賄罪は民間人を対象にしたものということで、刑罰が軽くされている。

 今回の事件は、理事長ら3人が社会福祉法人の運営を牛耳るため、理事の選任権を有する評議員5人に理事長の推薦候補者を選ぶように依頼し、各20万円を渡したとされるものだ。現に、依頼どおりの人選が行われている。

「玄人受け」する立件

 贈収賄は汚職の「汚」という漢字にちなんで警察や検察で「サンズイ」と呼ばれるが、水面下で秘密裏に行われる犯罪だけに、端緒をつかんで内偵捜査を進め、逮捕に至るまで苦労するので、値打ちが高い。

 今回はこの社会福祉法人の前理事長が3700万円に上る横領事件を起こしたことで警察の捜査が入った結果、現理事長らによる理事選での工作活動まで発覚した。

 しかも、社会福祉法という特別な法律が規定する収賄罪を適用した珍しい事件だし、法改正後の全国初適用例でもあるので、「玄人受け」する立件だ。

 あまり知られていないが、公正な商取引を守るため、会社法にも収賄罪の規定がある。

 例えば、株式会社の取締役や監査役、支店長、営業所長、契約締結権限などを委譲された部長や課長らが、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受、要求、約束した場合、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処される。

 仕入先から市価よりも著しく高い価格での納品をもちかけられ、これに応じてリベートを受け取ったような場合、会社法の特別背任罪に加え、収賄罪にも問われることになるので、注意を要する。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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