なぜ電車内で中1女子に体液をかけた小学校教頭が「暴行罪」で逮捕されたか?

(提供:studiolaut/イメージマート)

 電車内で面識のない中学1年の女子生徒(12)に体液をかけたとして、小学校教頭の男(59)が逮捕された。罪名は強制わいせつ罪ではなく、暴行罪だった。なぜか――。

事案の概要は?

 報道によれば、次のような事件だ。

「9月16日午後5時ごろ、小田急線下北沢-登戸駅間を走行中の急行電車内で、中学1年の女子生徒(12)の右手首に体液をかけた」

「当時電車内は帰宅ラッシュで混雑していた」

「容疑者は女子生徒の近くに乗車し、下腹部を露出。そのことに気付いた女子生徒が、顔をそむけたところで犯行に及んだとみられる」

出典:産経新聞

「容疑者はそのまま立ち去った。泣いている生徒から話を聞いた駅員が110番通報。駅などの防犯カメラから…容疑者が浮上した」

「容疑者は『体液が出たのは間違いないが、短パンだったのでかかってしまったかもしれない』と容疑を否認している」

出典:毎日新聞

強制わいせつ罪は?

 事件の状況からすると、報じられている「体液」とは精液のことだろう。女性の身体に精液をかけるのは「わいせつな行為」にあたると考えられる。男の弁解も荒唐無稽なものだ。

 しかし、たとえ性的満足を得るための犯行だったとしても、強制わいせつ罪に問うことは難しい。

 すなわち、刑法は強制わいせつ罪について次のように規定している。

「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする」

 被害者が13歳未満であれば、暴行・脅迫を手段としていなくてもアウトだ。女子生徒は12歳だった。ただ、少なくとも犯人において被害者の年齢を認識している必要がある。男と女子生徒は面識がなく、制服姿だけだとその年齢まで把握するのは困難だろう。

 もちろん、この点の認識がなくても、わいせつ行為の前提として暴行・脅迫があればアウトだ。ただ、被害者の抵抗を困難にさせる程度のものでなければならず、精液をかけただけだとそれには至らない。

迷惑防止条例違反は?

 もっとも、電車やバスでの痴漢行為を禁じている迷惑防止条例違反に問われることはあり得る。

 被害者を著しく羞恥させたり、不安を覚えさせるような方法でその身体に触れることのほか、「卑わいな言動」を禁じているからだ。

 社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語・動作のことであり、精液をかける行為もこれにあたると考えられる。

 罰金刑だけを見ると、暴行罪が最高で30万円までであるのに対し、事件の舞台となった神奈川県の場合、100万円まで言い渡せる。

 ただ、逆に懲役の最高刑は1回限りの事件だと1年が上限なので、懲役2年まで言い渡せる暴行罪のほうが罪が重い。

 被害者の衣服や持ち物などに精液をかけて汚し、使えなくさせていれば、最高刑が懲役3年とさらに重い器物損壊罪に問うことも可能だが、今回のように手首にかけた場合だと器物損壊罪は成立しない。

 そこで、性欲を満たすためとみられる「体液事件」の場合でも、まずは容疑が確実な暴行罪で逮捕されているというわけだ。

 今後の捜査次第ではあるが、男が容疑を認め、罰金で終わらせるという展開になった場合、迷惑防止条例違反で起訴することも考えられるだろう。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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