「きしょいよ」「しね」児童の持ち物に落書きの教諭、上履き隠した疑いも…その罪と罰

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 東京都あきる野市の小学校教諭(38)が児童3人の上履きを自らのロッカーに隠したとして逮捕された。すでに児童の絵の具セットや防災頭巾に「きしょいよ」「しね」などと書いた容疑でも逮捕されている。

どのような事件?

 この小学校では、教諭が赴任した3年前から児童のリコーダーなどがなくなったり、落書きされたりする事件が約100件も起きていた。2020年9月17日には、黒のサインペンで児童の絵の具セットに「きしょいよ きみ」、防災頭巾に「しね」などと落書きされる事件まで発生した。

 ただ、これまで教諭が担任するクラスでは被害がなく、この落書きも別のクラスの児童に対するものだった。

 9月23日、学校関係者からの相談を受け、警察が校内に防犯カメラを設置したところ、人目につかない午前5時台に出勤する教諭の不審な動きが明らかとなった。

 そこで警察は、9月26日に絵の具セットと防災頭巾の件で教諭を逮捕し、職員用更衣室にある教諭のロッカーを捜索した。すると、2019年5月から2020年6月の間になくなった別のクラスの児童の上履き3点、それもそれぞれ片足分だけが発見された。

 警察は、10月15日、この上履きの件で教諭を再逮捕した。余罪についても解明を進めている。

 一方、警察によると、教諭は絵の具セットと防災頭巾の件について「ほかの教諭があまり仕事をしないので不満があり、憂さ晴らしで落書きした」と認めているものの、上履きの件については「心当たりがない」と関与を否認しているという。

何罪になる?

 教諭の逮捕容疑は、いずれも器物損壊罪だ。

 器物損壊罪の「損壊」とは、その物の効用を害する一切の行為をいう。物理的に壊すだけでなく、心理的に使用できなくしたり、その物が本来持っている価値を低下させたり、長期間にわたって隠してしまう行為も含む。

 したがって、絵の具セットや防災頭巾にサインペンで「しね」などと落書きする行為は「損壊」にあたる。

 一方、上履きについては、ひそかに児童の下駄箱から持ち出しているということで、窃盗罪が成立するのではないかと疑問を抱く人もいるだろう。

 確かに、刑法は窃盗罪について「他人の財物を窃取した」と規定しているだけだ。

 しかし、それに加えて「不法領得の意思」、すなわち「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思」まで必要だというのが裁判所の立場だ。

 自分や家族で使うとか、売り払うのではなく、同僚を困らせるために同僚が担当する児童の上履きを隠したり廃棄したりしてやろうと考えて犯行に及んだということであれば、「不法領得の意思」がないから、窃盗罪は成立しない。

 最高裁の前身である大審院が大正4年(1915年)に「不法領得の意思」を定義し、窃盗罪の成立を否定した事件も、小学校教諭が校長を失脚させるため、学校保管の教育勅語謄本を持ち出し、教室の天井裏に隠したというケースだった。

 今回の事件の場合、警察は同僚への嫌がらせ目的で児童の上履きを片足分だけ長期間にわたって隠したことでその効用を喪失させたとみており、窃盗罪ではなく、器物損壊罪を適用したというわけだ。隠匿が長期にわたると、児童の成長に伴ってサイズが合わずに履けなくなるという点もポイントだ。

刑事処分や懲戒処分は?

 器物損壊罪に対する最高刑は、懲役で3年、罰金で30万円だ。ただ、窃盗罪と違い、告訴がなければ起訴できない決まりだ。

 教諭が犯人だと断定できなければ嫌疑不十分で不起訴になるが、たとえ断定できたとしても児童側の告訴が取り下げられれば不起訴で終わる。

 では、犯人に間違いないという証拠が固まったうえで、なおも告訴が維持された場合、教諭の処分はどの程度のものとなるか。

 この点については、過去に起きた同種の事例が参考とされるだろう。

 例えば、同僚を困らせるため、同僚が担任を務めるクラスから児童の体操着やノートなどを持ち出して廃棄した横浜市の小学校教諭の場合、2018年に器物損壊罪で略式起訴され、罰金10万円に処されるとともに、教育委員会から停職12か月の懲戒処分を受け、依願退職している。

 今回の教諭も、こうした処分で終わるのではないか。

児童のケアを急げ

 いずれにせよ、最優先すべきは児童の心のケアだ。

 何の落ち度もないのに持ち物を隠され、「きしょいよ」「しね」などと落書きされ、いじめに遭っているのではないかと不安になった児童の心の痛みやつらさは察するに余りある。

 現在、この小学校では、スクールカウンセラーやあきる野市の心理士による対策チームの力を借り、児童にアンケートやカウンセリングを行うなどし、全力で心のケアを行っているという。

 こうした児童の心のケアを急ぐとともに、児童が安心して通学できる環境の整備が求められる。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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