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ノート(160) 指示違反を繰り返す受刑者は「ヒコーキ」で保護室送りに

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~確定編(11)

受刑26/384日目

「満期上等」

 3食付きで安全な寝場所まで確保されている刑務所には、自分は悪くないと開き直って反省せず、初めから仮釈放を求めず、刑の満了日である満期まで居座ろうとする者も少なからずいる。

 彼らは刑務官の指示に従わず、作業をサボるなど犯罪に当たらない程度のルール違反を繰り返し、何度となく懲罰を受ける。仮釈放が近い受刑者の足を引っ張るため、「喧嘩両成敗」という刑務所内のルールを逆手にとり、口論を仕掛けて共に懲罰を受け、その者の仮釈放を阻止させようとすることもある。

 こうした行動パターンや発想を獄中用語で「満期上等」と呼ぶが、それでも執行刑期の最終日を過ぎたら必ず釈放しなければならない。

 犯罪者の改善、更生や社会復帰には何よりも本人の自覚と発奮が不可欠だが、刑務所としても彼らには効果的な策をとれず、他の受刑者から隔離し続ける以外に手の施しようがない。

 このような者のほか、精神・身体の疾患で社会生活が送れないなど様々な事情から仮釈放のレールに乗らず、満期まで服役する受刑者が有期刑全体の半数近くに上っているというのが刑務所の実態だ。

 仮釈放と違って満期釈放には保護観察という釈放後のフォローアップ制度がないので、出所後に再犯に至る可能性も高まる。

 1舎2階の受刑者用の区画のうち、28室が僕の居室だったが、空き部屋を挟んで30室に収容されていた20代の受刑者も、こうした「満期上等」の人物だった。

 例えば、朝夕の点検で刑務官の呼びかけを無視したり、日中も定位置に座らずに居室内を勝手に歩き回ったり、ギフトボックスを製作するといった簡単な刑務作業すら拒否したり、夕方以降はラジオ放送で流れる曲に合わせて大声で歌うなどしていた。

 そのたびに刑務官から舎房全体に響き渡る大声で怒鳴り上げられ、「○○をするな!」「××をしろ!」と注意されていたが、その一瞬だけは静かになるものの、刑務官が去ってしばらくすると、同じことを繰り返していた。

「ヒコーキ」を目撃

 こうして静岡刑務所への移送後、初めてとなる週末を迎えたが、土曜日に事件が起こった。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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