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ノート(159) 100円ショップや大手百貨店の下請けも 刑務作業の意義とは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~確定編(10)

受刑21/384日目(続)

「刑務所ブランド」

 全国各地の刑務所では、刑務作業の一環として、受刑者の手により、さまざまな製品が作られている。例えば、洗剤や革靴、バッグ、財布、家具類、神輿、バーベキューコンロ、七宝焼、南部急須、焼酎サーバー、湯呑、煎茶、乾麺、生しいたけ、ガラスペン、文鎮、ブックカバー、名刺入れ、便せん、苔盆栽、積み木、屋久杉の印鑑箱などだ。

 いずれも品質がよく、同程度の日本製品に比べると割安という点で共通している。こうした製品を一堂に集め、刑務作業に関する展示や実演などが行われる「矯正展」と呼ばれるイベントも、例年、全国各地の刑務所や拘置所、駅、ショッピングセンター、公園などで開催されている。

 審査会で大臣賞などを受賞した最高峰の製品や、商標登録されている函館少年刑務所の「マル獄」シリーズ、広島カープとコラボしたユニフォームデザインの「キラキラ反射ポーチ」など、バラエティに富んだ製品も多数展示される。その場で購入することもできる。

 売上は主に次の原材料費として使用されるほか、犯罪被害者支援団体の活動に助成されており、たくさん売り上げたからといって、受刑者に支給される作業報奨金の額が変わるわけではない。それでも、自分たちの工場で作った製品の評価が上がれば、それだけ作業を通じた更生意欲も高まる。

「日本製」として流通

 この点、刑務所のような場所で犯罪者である受刑者によって作られた製品など使いたくないと思う人もいるだろう。

 しかし、先ほど挙げた「刑務所ブランド」の製品など、全体のごく一部にすぎない。刑務所では、外部の民間業者から注文を受け、労働力を提供し、それらの業者が販売する製品を製造・加工したうえで、各業者に納品しているからだ。

 民間業者の「下請け」として受刑者が組み立てや封入、梱包作業などを行っている製品は世の中にあふれかえっており、皆さんも知らず知らずのうちに手にし、自宅やオフィスなどで実際に使っているはずだ。

 100円ショップで「日本製」として販売されている商品、例えばシャープペンやボールペン、フラットファイル、洗濯バサミ、着火口が長い使い捨てライターなどがそれに当たる。

 民間業者からすると、安価で安定した労働力が得られるわけだし、刑務所に労務管理を全て任せられ、福利厚生費や保険料、工場建設費や維持費などの経費を要せずローコストだ。

 何よりも「日本製」であることを最大の売り文句にできるなど数多くのメリットがあり、既に全国で2200社を超す企業に利用されている。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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