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国税局と銀行が競争した前作「半沢直樹」から7年 税の徴収制度はどう変わったか

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 7年ぶりの続編となる「半沢直樹」。前作は計画倒産や脱税で不正蓄財に及んでいた会社社長のハワイの別荘などを国税局と銀行のどちらが先に差し押さえるかが見ものだった。その後、税の徴収制度はどう変わったか。

徴収権限が及ぶ範囲

 前作はあくまでフィクションであり、差押えのスピード感も現実離れしていたものの、国税局が目指す税徴収の方向性とは合致していた。

 すなわち、国税局は、国税徴収法に基づき、財産の差押えや換価などにより、滞納者から税を徴収している。

 ただ、この法律の効力は、わが国の行政権の及ぶ地域内に限られる。不動産の場合、その所在地がどこかにあるかで決まる。

 したがって、前作で描かれていたように、わが国の国税局がハワイなど国外にある滞納者の不動産を自ら差し押さえ、換価することなどできない。

「徴収共助」の活用

 しかし、国外に巨額の資産を隠匿しているのに、ここから税を徴収できなければ、税負担の不公平感が増す。そこで編み出されたのが、「徴収共助」という手法だ。

 各国の税務当局が自ら国外の資産を差し押さえるのではなく、その国の当局に差し押さえや換価を依頼し、滞納税分の送金を受けることで、税の徴収を行おうというものだ。

 わが国も、2011年に多数国間条約に署名している。関連する国内法規が施行され、条約が発効したのが、まさしく前作の放映時と同じ2013年だった。

 それから7年を経たが、国税局はこの制度の活用事例を一つ一つ積み上げている。

 2018年にも、日本在住の親から数十億円の贈与を受けたものの、約8億円の贈与税などを滞納していた男性について、その徴収に成功した。

 東京国税局がオーストラリアにある預金口座の存在を察知し、同国の税務当局に徴収共助を要請したうえで、これを差し押さえてもらったという事案だった。

「国外財産調書」の提出

 一方、国税局がこうした制度を効果的に活用するためには、国外の資産の所在や金額などを正確に把握できなければならない。

 そのため、前作の放映時と同じ2013年に、「国外財産調書」の提出制度が始まった。

 所得額の大小とは無関係に、12月末時点で国外に総額5000万円超の財産を保有する者に対し、確定申告の期限までにその種類や数、価額などを書面で提出させるものだ。

 しかも、2014年分からは、故意による不提出や虚偽記載に対し、最高で懲役1年の刑罰が科されるようになった。

 現に、2019年7月には、所得税を脱税するとともに国外の銀行口座の預金7300万円を国外財産調書に記載しなかったとして、会社役員が大阪国税局に刑事告発されている。

現実がドラマに追いつく

 現在、国税局は、富裕層による国外の隠匿資産に対し、監視と調査を強化しているところだ。

 コロナショックに伴う赤字経営の続出で税収減が予想される中、「とれそうなところから集中的にとる」ということで、今後、徴収共助をますます積極的に活用し、国外財産の差し押さえや換価が進められるはずだ。

 ようやく、現実がドラマの世界に追いついてきたということになるだろう。

 ただ、前作では嫌味な黒崎駿一統括官率いる国税局査察部が半沢ら銀行の後塵を拝する設定となっており、それはそれで痛快だった。続編が描く出向先での半沢の活躍ぶりにも期待したい。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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