検事長を懲戒処分せず、退職金6000万円支給は温情? 本来のあるべき処分とは

(写真:西村尚己/アフロ)

 賭け麻雀で検事長の地位を追われたものの、処分は懲戒にあたらない訓告で、基本額と調整額を合わせて約6000万円とみられる退職金も全額支給される黒川弘務氏。東京高検のルールだと、本来はどうあるべきか――。

賭け麻雀は?

 東京高検には「非違行為」、すなわち職員の非行や違法行為を防止し、対策を立てるための地域委員会があり、東京高検管内の職員向けに「品位と誇りを胸に」というルールブックを作成し、配布している。

 人事院が定めている「懲戒処分の指針について」をさらに具体化したものだ。

 ここには、大前提として、最高検が示した「検察の理念」が掲げられている。例えば、次のようなものだ。

「国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を自覚し、法令を遵守し、厳正公平、不偏不党を旨として、公正誠実に職務を行う」

 そのうえで、国家公務員法の「職員は、その官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」という規定を踏まえ、その代表例として、次のような行為を挙げている。

(1) 職務に直接関連するもの

 業務上横領、職権濫用、運転業務中の交通違反・事故、カラ出張などの不正経理等

(2) 職務に関連するもの

 職務中の暴言、飲食物等の供応の受領、収賄、セクハラ等

(3) 職務と関連しないもの

 勤務時間外の交通違反・事故、麻雀等の常習賭博、わいせつ行為等の犯罪行為等

 しかも、このルールブックは、わざわざ次のような注意喚起までしている。

「信用失墜行為については、刑事罰の対象となる事案が多く、そのほとんどは刑事罰に加え免職などの懲戒処分を受けることになります」

記者との接触は?

 また、国家公務員法が職務上知り得た秘密の漏えいを禁止し、違反者に刑事罰を科すとしていることから、このルールブックでも、改めてその点に関する注意喚起が行われている。

 そのうえで、このルールブックは、国家公務員倫理法や倫理規程を踏まえ、「利害関係者」との間の行動規制などについても定めている。

 重要なのは、そこでいう「利害関係者」に関連して、次のように規定していることだ。

「以下の者については、『利害関係者に当たらない。』とされていますが、職務の公正さを疑われるような接触は厳に慎むべきであるとされています」

「マスコミ関係者」

処分の基準は?

 ルールブックの最後では、非違行為に及んだ職員に対する具体的な処分の基準などを示している。

 まず、処分について、次のように分類している。

(a) 国家公務員法に基づく「懲戒処分

 免職、停職、減給、戒告

(b) 法務大臣訓令により上級職員が行う「監督上の措置

 訓告、厳重注意、注意

 そのうえで、ルールブックは、先ほどの人事院の指針を踏まえ、最低でもこうした処分になるという標準例として、次のように記している。

(i) 賭博:減給か戒告

(ii) 常習賭博:停職

(iii) 秘密漏えい:免職か停職

 (a)の懲戒処分のうち、免職になると退職金の減免が可能だ。例えば、黒川氏の場合、退職金は次のようなものではないかと思われる。

(基本額)東京高検検事長の俸給月額130万2000円×勤続37年で調整率を乗じた後の自己都合退職に基づく支給率41.7663=5437万9722円

(調整額)幹部職員なので基本額の8.3/100451万3516円

(合計額)5889万3238円

 もし黒川氏に対する処分が(a)の免職だと、この全額を不支給にすることもできる。

今回のケースにあてはめると?

 もちろん、具体的な処分の決定に際しては、非違行為の動機、態様や結果、故意・過失の度合い、日ごろの勤務態度や非違行為後の対応などを含めて総合的に判断されることになる。先ほどの標準例よりも重い処分にすることも可能だ。

 そうすると、黒川氏のケースの場合、勤務延長を決めた閣議決定が法的に有効で2月以降も東京高検のトップである検事長だったということを前提とすると、さすがに単なる監督上の措置である訓告にとどめるのは軽すぎで、少なくとも懲戒処分が妥当ではないか、ということになる。

 賭け麻雀は犯罪だし、記者が提供したハイヤーの利用も何らかの便宜に対する見返りと評価する余地がある。記者との蜜月関係にもメスを入れなければならない。

 減給や停職か、それこそ秘密漏えいや贈収賄と評価されるような記者との癒着があったとして免職に値するのか、黒川氏に対する適切な処分を決するためにも、前提となる事実関係について、単なる「内部調査」でお茶を濁すのではなく、きちんとした「捜査」が必要であることはいうまでもない。(了)

(参考)

 拙稿「賭け麻雀認めた検事長、定年後勤務延長なしなら「民間人」? 今後の捜査に影響

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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