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買い物や通勤は…新型コロナ「緊急事態宣言」が出たら、何が処罰の対象に?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 新型コロナウイルス対策として、「緊急事態宣言」のタイミングが焦点となっている。実際に出された場合、どのような行為が処罰の対象となるか――。

可能な措置は?

 緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等対策特別措置法という法律に基づく。

 国民の生命や健康を保護し、その生活・経済に及ぼす影響を最小にするための特別な方策であり、対策本部長である総理大臣により、具体的な期間や区域などを指定して出されるものだ。

 これにより、解除が宣言されるまでの間、国や地方自治体などは、さまざまな措置を行うことが可能となる。

 代表的なものを挙げると、次のとおりだ。

(1) 住民に対する外出自粛の要請

(2) 学校や学習塾、福祉施設、映画館、劇場、野球場、展示場、百貨店、スーパーマーケット、ホテル、旅館、体育館、博物館、美術館、図書館、キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールなどに対する使用制限やイベント停止などの要請・指示

(3) 予防接種の実施や病院不足を補うための臨時医療施設の開設

(4) 運送業者などに対する緊急物資運送の要請・指示

(5) 医薬品や食品、衛生用品など政令で定める物資の所有者に対する売渡し要請・強制収用

生活に直結する規制も

 このうち、特に普段の生活に直結するのは(1)や(2)ということになるだろう。

 ただ、(1)は、知事が住民に対して自宅などから外出しないように求めるというものだが、条文には「生活の維持に必要な場合を除き」「みだりに」といった前提条件が付けられている。

 すなわち、食料品や日用品の買い物に行くとか、出勤のために会社に向かうといった外出は対象外であり、よく言われる「不要不急」の外出を控えようというだけだ。

 しかも、単なる「要請」にとどまり、「指示」「命令」まではできない。要請を無視して外出し、繁華街を出歩いても、諸外国のように罰金や禁錮といった刑罰を科すことはできない。

 (2)も、知事が施設の管理者やイベントなどを開催する者に対し、使用制限やイベント停止などを「要請」できるというのが基本だ。

 「正当な理由」がないにもかかわらず、その要請に応じない場合に限り、ようやく「指示」までできる。

 こうした要請や指示に従わなかったからといって、刑罰によるペナルティはない。

何が犯罪になる?

 もっとも、特措法にも罰則規定はある。もっぱら、先ほどの(5)の物資に関するものだ。

 すなわち、知事らは医薬品や食品など必要な物資の生産業者や販売業者などに対し、その保管を命じることができる。

 もしこの命令に従わずに物資を隠したり、運び出したりすれば、刑罰が科される。ただ、最高刑は懲役6ヶ月、罰金でも30万円までと軽い。

 また、物資を強制収用したり、その保管を命ずる際、知事らは立入検査を行ったり、報告を求めることができるが、これを拒んだり、妨害したり、虚偽の報告をした者も、30万円以下の罰金が科される。

 新型コロナ対策としては、外出禁止令を含め、もっと強制力を伴った強力な措置が必要であり、今のままだと規制が緩すぎると感じる人もいるだろう。しかし、むしろ特措法は、国や自治体などによる権力の濫用を防ぐため、わざわざ次のような規定を置いている。

「国民の自由と権利が尊重されるべきことに鑑み…対策を実施する場合において、国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は…対策を実施するため必要最小限のものでなければならない」

 それこそ、諸外国が行っている「ロックダウン(都市封鎖)」など、わが国の特措法の下では到底不可能だと言わざるを得ない。

 知事が新型コロナ患者のいる場所などの交通を制限・遮断できるという感染症法の規定はあるものの、最大72時間までだし、これで都市全体を封鎖できるわけでもない。

 まさしく新型コロナ対策は私たち一人ひとりの自覚に委ねられているわけで、新たな立法措置が行われない限り、これがわが国における規制の限界ということになる。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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