マスクの新規制は「転売ヤー」に大打撃 転売サイト側を共犯として立件も

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、品薄状態のマスクがインターネット上で高額転売されている。既存の法律を駆使して取り締まることもできるが、より厳しい新たな規制措置が望まれる。その内容と限界は――。

使い勝手が悪い古物営業法

 コンサートチケットのダフ屋行為であれば、チケット不正転売禁止法や各自治体の迷惑防止条例で取り締まることが可能だが、マスクやアルコール消毒液、トイレットペーパーなどは対象外だ。

 一方、古物営業法の「古物」は中古品だけでなく、未使用でも使用のために取引されたものであれば構わないから、公安委員会の許可を得ずに転売を繰り返せば、最高刑が懲役3年の無許可営業罪にあたるという見方もある。

 古物商の許可区分に関する古物営業法施行規則にはマスクや消毒液といった消耗品が挙げられていないが、何が古物にあたるのかを定めた規定ではないからだ。

 しかし、最初から他人に転売するために薬店などでマスクを大量に買い占め、そのまま転売サイトで転売したといった「よくあるケース」だと、そもそも「古物」を仕入れたことにはならない。

 仕入れ後の段階から「古物」になるとしても、これを販売するだけだと、古物営業法は明確に規制の対象から除外している。盗まれた物の売買を防ぎ、早期発見を図ろうとした法律であり、店舗で正規に販売されている新品が盗まれた物である可能性は乏しいからだ。

物価統制令がある

 では、そうした物品の高額転売が野放しになるかというと、必ずしもそうではない。物価統制令があるからだ。次のような規制内容になっている。

規制される行為

● 価格等を不当に高価な額で契約し、支払い、受領すること。

● 暴利となるべき価格等を得る契約をし、そうした価格等を受領すること。

刑罰

 懲役10年以下または罰金500万円以下

 この物価統制令は、戦後の混乱期である1946年に物価高騰を抑制するため、制定されたものだ。勅令ではあるが、法律としての効力を有しており、今でも銭湯の料金は物価統制令によって規制されている。

 重要なのは「価格等」とされている点だ。価格のみならず、送料や保管料、加工賃、修繕料などを含めたトータルの金額で判断される。

 たとえ箱入りのマスクを定価と同額の1000円で販売していても、上乗せする送料が10万円であれば、10万1000円という金額が判断基準となるわけだ。

 しかも、規制の対象となる物品などに何ら制限がないから、マスクや消毒液、トイレットペーパーなども広く含まれる。「業として」といった縛りもないから、転売行為を反復継続する意思は不要であり、1回限りの高額転売でもアウトだ。

 問題は、「不当に高価な額」「暴利となるべき価格等」がいくらなのか、すなわち(a)何をベースとし、(b)どの程度の利益を乗せると規制の対象になるのか、という点だ。

 最高裁の判例によれば、(a)は政府による統制価格か、この定めがなければ通常の取引価格や適正価格ということになる。一般には物品の定価が基準となるだろう。

 また、(b)については、定価170円の劇場入場券を仲間とともに買い占め、200~300円で転売し、物価統制令違反で起訴されたダフ屋について、不当に高価であるとして有罪を維持した最高裁の判例が参考となる。

緊急事態には不十分

 すなわち、今でもマスクなどを高額転売している転売屋を物価統制令で検挙することは可能だ。確かに刑罰法規としての陳腐化は否めないが、使える規制がある以上、使わない手はない。

 しかも、最高刑は懲役で10年、罰金で500万円とかなり重い。時効は7年だから、昨今のマスク高額転売は、今後しばらくの間、捜査や起訴の対象となりうる。

 とはいえ、冒頭で挙げたチケット不正転売禁止法だと定価を1円でも超えていれば規制の対象になるが、物価統制令の場合、「不当」「暴利」にあたるか否かを捜査で見極める必要がある。

 また、規制を実りあるものとするためには、転売屋だけでなく、彼らに活動空間を提供している転売サイトなどにも網をかけなければならない。

 さらにいえば、今回のように国民の健康に直結する緊急事態の場合、転売価格の多寡を問わず、需給バランスが安定するまでの間、必需品であるマスクの転売行為そのものを規制する必要性が高い。

 確かに物の価格は需要と供給の関係で決まるものだし、誰とどのような売買契約を締結しても自由だというのが本来の姿だが、意図的な買い占めで供給不足や高値取引が作出され、公正な自由競争の原理が働かなければ本末転倒だ。

 そこで政府内で検討されているのが、しばらく使われずに休眠状態となっていた国民生活安定緊急措置法を活用することだ。

2本の柱

 すなわち、この法律は、1973年の第1次オイルショックの際、トイレットペーパーの買い占め騒動などもあって物価が高騰したことから、これに対処するために制定されたものだ。

 この法律による規制は、政府による「特定標準価格」の指定と、これを超過した販売に対する課徴金のペナルティのほか、次の2点が大きな柱となっている。

(1) 売渡しなどの指示

 政府が生産・販売業者などに対し、数量や販売先、価格などを定めた上で売渡しなどを指示でき、指示に従わない業者を公表できる。

(2) 譲渡などの制限

 政府が指定した生活関連物資などについて、政令で必要な事項を定め、割当てや配給、使用、譲渡、譲受を制限・禁止でき、違反者に対して最高で5年以下の懲役または300万円以下の罰金を科すことができる(両者の併科も可能)。

 このうち、すでに政府は(1)の措置を進めており、業者からマスクを買い取るとともに、感染拡大が懸念される地域に対して緊急配布する方針だ。

「転売ヤー」に大打撃

 今回、新たに政府が検討しているのは(2)の措置だ。マスクを指定物資とした上で、個人や業者を問わず、また、転売価格を問わず、転売行為そのものを政令で禁止し、違反者に対して懲役5年までの範囲内で具体的な罰則を設けるという。

 通販サイトで小売販売する薬店などは対象外だし、先ほどの物価統制令に比べると懲役5年でも最高刑は半分にとどまるが、転売が暴利によるものか否かを問わないという点は極めて大きい。転売行為さえ確認できれば、転売者を検挙できるからだ。

 わざわざ開店前から薬店などに並んでマスクを買い占めても転売できず、在庫を抱えるだけであれば、転売屋による買い占めも沈静化するだろう。

 しかも、転売サイト側にも網をかけられる。転売が行われていることを知りつつ、手数料目当てに放置していれば、共犯としての刑事責任を問うことができるからだ。 

警察の「やる気」も重要

 政府は3月10日に必要な政令を閣議決定し、早ければその週のうちに施行した上で、安定供給が確認されるまでの間、転売規制を続けるという。マスク同様に品薄が深刻になれば、アルコール消毒液などの転売規制も検討する方針だ。

 こうした政令の制定を見据え、転売サイトでは「駆け込み転売」が数多く見られる。しかし、この政令の有無を問わず、転売価格が不当に高価であれば、物価統制令で検挙されうることに変わりはない。

 政府の対応が遅きに失した感は否めないものの、予定どおり政令が制定されれば、警察は新たな武器を手にすることになる。警察の「やる気」も重要だ。

 「一罰百戒」的に検挙されれば、広く実名報道され、社会からも激しいバッシングを受けるに違いない。目先の利益を追うマスクの転売など、やめておいたほうが身のためだ。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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