なぜ2年も前の事件で? 槇原敬之氏、これからの捜査や裁判はどうなるか

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 覚せい剤などを所持したとして、ミュージシャンの槇原敬之氏が逮捕された。沢尻エリカ氏の逮捕後、警視庁が再び有名芸能人の検挙に向けて動いていると言われる中での電撃的な逮捕劇だった。

なぜ2年も前の事件で?

 ただ、気になるのは現行犯ではなく、次のとおり2年も前の所持容疑による逮捕だったことだ。

(1) 2018年3月、当時の自宅である東京港区のマンションで、約64.2mlの危険ドラッグ「ラッシュ」を所持

 →医薬品医療機器等法(旧薬事法)違反:最高刑は懲役3年

(2) 同じ年の4月、同じマンションで、約0.083gの覚せい剤を所持

 →覚せい剤取締法違反:最高刑は懲役10年

 実はこの2018年3月には、槇原氏の個人事務所で代表を務めていた男性が覚せい剤事件で警視庁に逮捕されている。槇原氏の公私のパートナーとされる人物だ。槇原氏が1999年に覚せい剤事件で逮捕された際、共犯として逮捕され、同じく執行猶予付きの有罪判決を受けた。

 警視庁は、この男性に対する捜査の過程で関係先を捜索し、(1)(2)の事実を把握した。男性がこの薬物について槇原氏のものだと供述したことや、その後の入手先などに対する慎重な捜査により、槇原氏の立件に至った。当時の自宅からは、規制薬物を使うためのガラス製のパイプも押収されているという。

 このタイミングでの着手となったのは、警視庁が槇原氏を泳がせて機をうかがう中、新たに規制薬物を入手、使用したといった直近の情報が入り、捜索で発見されたり、尿検査で検出される可能性が高いと踏んだからではないか。

 2月13日に初公判を迎えた田代まさし氏の場合も、まず警察は2か月前のホテルでの所持容疑で逮捕状を取り、逮捕時にも所持していたとして併せて現行犯逮捕し、さらに尿検査で陽性反応が出たということで使用罪で再逮捕している。

 槇原氏の担当は沢尻氏と同じ警視庁の組織犯罪対策5課であり、有罪判決により沢尻氏の件が一段落するまで待ったという見方もできる。2月は警察の薬物乱用事犯取締強化月間でもある。

 また、東京地検の麻薬係検事から否認のままでも起訴できるといったゴーサインを得るため、事案や証拠の内容説明、要求された補充捜査の実施などに時間を要したことも考えられる。すでに検事も複数回にわたって男性らの取調べを行い、心証を得たうえで供述調書を作成しているのかもしれない。

運命の分かれ目は?

 槇原氏が今回の容疑を認めているか否かは不明だが、先ほどの男性らの供述内容のほか、覚せい剤やパイプなどが槇原氏のものに間違いないという客観的な証拠に基づく裏付けが重要となる。

 例えば、覚せい剤を小分けしている「パケ」と呼ばれるビニール袋やラッシュが入っていた小瓶、押収されたパイプなどから槇原氏の指紋やDNA型が検出されたといった事実だ。これがあれば、さすがに「知らない」「自分のものではない」といった弁解は通らなくなる。

 とはいえ、やはり運命の分かれ目となるのは、今回の逮捕に伴う捜索で新たに覚せい剤などが発見されたのかという点と、尿の鑑定結果だ。

 警視庁はいずれについても明らかにしていないが、こうしたケースの場合、必ず関係先などに対する広範囲の捜索を行うし、逮捕直後に本人の尿を採取して鑑定している。まず簡易検査キットを使って予試験をし、「陽性」や「判定不能」だと「科捜研」、すなわち科学捜査研究所で本鑑定を実施する。1週間くらいで鑑定結果が出るが、ここで「陽性」だと完全にアウトだ。

 容疑が事実であれば、前回の裁判後、いつから、どのような経緯で再び規制薬物と接するようになり、だれから入手し、どの程度の頻度で所持・使用していたのか、といったことが捜査の焦点となる。

今度は実刑?

 今回の逮捕劇を受け、一部マスコミでは「もし起訴されたら実刑だろう」といったコメントも散見される。

 しかし、懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を受けた前回の裁判からすでに20年が経過している。その後、槇原氏は音楽活動など通常の社会生活を送ってきた。

 こうなると、仮に覚せい剤の所持や使用で起訴されて有罪になったとしても、大量所持の余罪が発覚したとか、密売に関与していたといったことでもない限り、再び執行猶予が付く可能性が高い。実際の裁判でも、よく見られるケースだ。

 現に、槇原氏の個人事務所元代表の男性も、2018年3月の逮捕後、再犯として所持・使用の容疑で起訴されたものの、同種前科が1999年と古いものであるとして、2018年6月に懲役2年、執行猶予3年の判決を受けるにとどまっている。

 いずれにせよ、「薬物依存症」という病の完治は極めて難しい。容疑が事実であれば、こうした薬物仲間との付き合いを完全に断ち、環境を一新し、周囲の支えを受けつつ、また一から治療を進めていく必要があるだろう。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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