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紅白歌合戦や年賀状、年越しそばやおせち料理も? 拘置所の年末年始の様相とは

前田恒彦元特捜部主任検事
東京拘置所(写真:ロイター/アフロ)

 東京地裁は、収賄容疑で特捜部に逮捕された秋元司議員について、2020年1月4日まで10日間の勾留を認め、弁護側の準抗告も棄却した。拘置所で過ごす年末年始の様相は――。

拘置所は9連休

 「行政機関の休日に関する法律」により、土日祝日と12月29日~1月3日は拘置所も休日だ。2019年は12月27日が御用納め、2020年は1月6日が御用始めだから、その間、9連休となる。

 12月26日に福岡拘置所で死刑が執行されたが、休日は絶対に執行できない決まりなので、その前の駆け込み執行だったというわけだ。

 連休中、刑務官は当番制となり、交代で休みをとるが、勤務する職員の数が減るため、弁護人との接見や家族との面会、居室の外に出て行う運動、差入れや物品購入の手続も行われない。

 収容されている被疑者や被告人らも、単独室だと約3畳ほどの居室から一歩も外に出ることがない。室内奥にむき出しの洋式便器が設置されており、さながら広めのトイレの中で寝起きするイメージだ。

 ただし、連休中でも少なくとも2回程度は入浴の機会が確保されている。浴槽に柑橘系の香り漂う入浴剤が投入されているのが、いつもと違う点だ。新聞を購読していれば、年末年始でも刑務官が毎日居室まで届けてくれる。

 御用納め当日は、年内の最後の機会だということで、接見や面会のラッシュとなる。保釈が許可されて拘置所を出て行く被告人の姿も夜半まで続く。

取調べは可能

 一方、特捜部は連休中でも関係なく取調べを行うことができる。これに対し、本来であれば弁護人は接見できない。

 しかし、アンフェアだという批判もあり、1年前のカルロス・ゴーン氏のときは、拘置所も特例措置として接見を認めた。秋元議員もこのパターンになるはずだ。

 年末年始の取調べは珍しいが、ゴーン氏の事件のほか、2007年に防衛事務次官らを逮捕した防衛汚職事件のような前例もある。

 元日だけは休んでよいということだったが、それでも捜査班の中でただ1人だけ元日も拘置所に出向き、防衛事務次官の取調べを行った検事がいた。

 当時の捜査班のNo.2で、現在は特捜部長を務めている森本宏氏だ。森本部長の指揮する特捜部が2年連続で越年捜査になったのも頷ける。

クリスマスは特別

 連休前の12月24日の夕食は特別メニューだ。例えば、フライドチキンやスパゲッティナポリタン、クリスマスツリーをイメージしてカットやデコレーションされたキュウリのスライス、コーンスープといった彩り鮮やかなもので、これにショートケーキがつく。

 パンではなく、白米7:麦3の米麦飯とセットになっているところが拘置所らしい。少しでも季節感を出すため、1日の食費が1人あたり約533円という限られた予算内で、様々な工夫が凝らされているわけだ。

 年末年始には、キャンディーやビスケット、チョコレート、スナック菓子、ようかん、ミルクティーなども支給される。だれからも差入れがなかったり、金がなくて自費で購入できない者も多く、公平のため、祝日ごとに菓子類が支給される決まりとなっているからだ。

年越しそばやおせち料理も

 大晦日も同様だ。米麦飯やおかずのほか、年越しそばが支給される。といっても、カップ麺にお湯を注ぐスタイルだ。

 1年間で大晦日だけは、就寝時間が午後9時から午前零時前に変更され、ラジオの聴取時間もそこまで延長される。チャンネルは選べず、NHKの紅白歌合戦が流される。居室にはテレビがないから、読書と並んでラジオが最大の娯楽だ。

 正月三が日は、就寝時間こそ午後9時に戻るものの、起床時間が1時間ほど遅くなる。元日の起床時間には、正月っぽい雰囲気の音楽が流される。

 年賀状や喪中欠礼も、トータルで20通まで、といった特別な発信枠が認められている。本来なら休日は外部から届いた郵便物を検査する職員がおらず、本人に交付されない決まりだが、年賀状に限り、1月1日や2日でも手渡される。

 三が日の食事も、肉類を中心とした人気のおかずが並ぶ。やや黄色がかった米麦飯ではなく、全て白米が支給される。普段の米麦飯と比べるとキラキラと銀のように輝いて見え、まさしく「銀シャリ」と呼ばれるとおりだ。

 特筆すべきは、元日の昼食時におせち料理の折り詰めや雑煮が支給されることだ。おせち料理は仕出し業者が製造し、百貨店やスーパーマーケットなどで1人用として普通に販売されている立派なものだ。

 イカやマグロの刺身のほか、数の子や鴨肉、紅白かまぼこ、黒豆、なますなども入っており、種類・内容とも豪華だ。社会内で食べていけず、寝床の確保すらままならない者からすると、こと食事に関しては夢のような話だろう。

とにかく寒い

 ただし、現実はそう甘くない。冬の拘置所内は極めて寒いからだ。

 東京拘置所には暖房もあるが、職員がいる廊下部分だけで、被疑者や被告人らの居室内には設置されていない。廊下から薄っすらと暖気が入ってくる程度だし、水道の水も手を切るような冷たさだ。

 まさに天然の冷蔵庫であり、拘置所から毛布2枚が貸し出されるものの、それだけだと防ぎきれない。年末年始を前に発熱保湿性の高いタートルネックやタイツ、ダウンウエア、手袋といった防寒着の差入れがあったか否かで大違いだ。

 居室は寒いが、事務棟にある取調べ室は暖房が入っていて快適だ。いつしか検事と会話ができる取調べの時間を心待ちにするようにもなるわけだ。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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