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小6女児誘拐事件、被害者の同意があったらどうなるか 今後の捜査の行方は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 大阪の小学6年の女児が栃木で保護された事件。逮捕された男は一緒にいただけで誘拐していないと容疑を否認しているという。女児がSNSで男の誘いに応じたからだとされる。今後の捜査は――。

同意の有無は関係なし

 刑法は、未成年者略取誘拐罪について次のように規定している。

未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

 「略取」とは暴行や脅迫を手段とした場合、「誘拐」は騙したり誘惑を手段とした場合をいう。一般に誘拐と聞くと前者をイメージするだろうが、刑法は略取と誘拐を使い分けている。

 そもそも、この未成年者略取誘拐罪は、未成年者本人の身体の自由のみならず、親ら本人を監護する者の監護権をも刑罰によって保護しようとしたものだ。

 したがって、小6はもちろん、19歳であっても、また、暴行や脅迫に及ばず甘言を弄して誘い出しただけでも、親ら監護者の同意がない限りは、未成年者の同意の有無に関わりなく犯罪が成立する。

 犯人が家出をそそのかし、実際に家出した未成年者を自宅に住まわせるといった事件がその典型だ。

犯人の目的が重要

 ところで、略取誘拐罪は、次のとおり犯人の目的によって罪の重さが大きく異なる。

・働かせて金を得るなど営利目的や、わいせつ、内縁を含めた結婚、生命・身体への加害目的の場合

 →懲役1〜10年

・身の代金が目的の場合

 →無期懲役又は懲役3〜20年

・国外移送が目的の場合

 →懲役2〜20年

 被害者を殺害すれば殺人罪、監禁すれば監禁罪も成立する。特に身代金目的で児童を略取誘拐し、殺害したうえで身代金を要求していれば、たとえ被害者が1名であっても、死刑が選択されることがある。それだけ卑劣かつ悪質な犯罪だからだ。

 一方で、被害者の安全を守るため、身代金目的の犯人が自ら被害者を安全な場所に解放した場合、必ず刑が軽減されることになっている。

 逮捕された男はSNSで女児と知り合って誘い出し、大阪から栃木に移動したうえで女児のスマホや靴を取り上げ、女児が靴下のまま逃走して交番に助けを求めるまでの間、自宅に住まわせていたという。

 また、男の自宅には、今年6月に茨城県内で捜索願いが出されていた女子中学生もいたという。

 ひとまず警察は容疑が堅い女児に対する未成年者誘拐罪で男を逮捕したが、今後の捜査いかんにより誘拐の目的が明らかとなれば、適用される罰則が変わるかもしれない。男の自宅における生活状況などによっては、監禁罪の成立も考えられる。女子中学生に対する略取誘拐罪での立件も視野に入ってくる。

 一方、未成年者誘拐罪にとどまった場合、告訴がなければ起訴できないとされているから、捜査段階で示談が成立して親が告訴を取り消したら、不起訴で終わることになる。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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