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ノート(133) 検察側が証拠により証明しようとしていた事実とは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

~裁判編(6)

勾留174日目(続)

証拠調べに入る

 人定質問や起訴状朗読、罪状認否が終わると、「証拠調べ」という手続に移る。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法の大原則の下、立証責任を負っているのは検察官だから、まずは検察側が起訴した事実について間違いがないと立証することが求められる。

 その際、検察側は、「検察官が証拠により証明しようとする事実は次のとおりです」というお決まりのセリフを告げ、被告人の身上経歴や犯行に至る経緯、犯行状況、犯行後の状況などを物語式に記した「冒頭陳述要旨」を読み上げる。

 そのうえで、「以上の事実を証明するため、証拠等関係カード記載の各書証及び証拠物の取調べを請求します」というお決まりのセリフを述べ、捜査報告書や供述調書などの証拠調べを請求するわけだ。

 書面読み上げ方式の場合、法廷内でその書面を手にして目で追っているのは検察官、弁護人、裁判官、書記官だけだ。被告人も初めて聞くわけだが、耳で追うだけだし、公文書だけに言い回しが固く、検察官が早口であるなどにより一瞬でも聞き逃すと、自分の事件に関することなのに、何を言っているのか途中から分からなくなるといった事態に陥りやすい。

被告人にも配布

 この点、新任明けに赴任した水戸地検で公判を担当した際、検察側に対して冒頭陳述要旨を裁判官や書記官、弁護人分のみならず被告人分まで用意させて被告人にも配布させ、検察側が読み終えると、何か間違いや言っておきたい点がないか、被告人に確認するという裁判官がいた。

 証人尋問で検察官や弁護人が証人に書類を示していると、フワリと裁判官席から証言台まで下りてくるということも頻繁だった。かなり珍しい部類の裁判官だったが、若手のころに指導を受けた裁判長のスタイルを踏襲しているという話だった。

公判前整理手続を経た場合だと

 一方、公判前整理手続が行われた事件であれば、検察側がその手続の中で「証明予定事実記載書」を提出している。初公判における検察側の冒頭陳述要旨とほぼ同じ内容だから、裁判官や被告人、弁護人もあらかじめ予想がつく。

 裁判員裁判では、裁判員に分かりやすい審理を行うため、書面の読み上げ方式ではなく、パワーポイントなどを使ったプレゼンテーション方式の冒頭陳述が行われている。

 また、公判前整理手続の中で検察側の証拠調べ請求や個々の証拠に対する弁護側の意見提示、裁判所による証拠の採否も終わっているので、公判前整理手続を経ていない事件と比べると流れがやや異なる。

冒頭陳述の内容は…

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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