「3日に1回」女性を狙い体当たり、男は「歩きスマホを注意」 トラブル防止に法規制が必要か
歩きスマホによるトラブルが話題だ。加害者のみならず被害者にもなり得る。9月26日にも、歩きスマホの女性を狙って体当たりを繰り返していた男が、傷害容疑で警視庁に逮捕されている。
「注意を促すため」
会社員である49歳の男の供述によれば、男は2年前に歩きスマホの女性にぶつかり、階段から落とされる被害を受けたという。そこで、歩きスマホの女性を見ると、3日に1回くらいの頻度で体当たりするようになった。
逮捕容疑は、2019年6月、東京メトロ千代田線・二重橋前駅のホームで、歩きスマホをしていた30代の女性に対し、右肘を突き出して体当たりし、胸部に全治3週間のケガを負わせたというものだ。
防犯カメラの映像などから犯人としてこの男が特定され、逮捕に至ったが、「注意を促すためだった」と供述して容疑を認めているという。
6月以降、このホームだけでも同様の事件が相次いでおり、30代の女性が骨を折る重傷、50代の女性が頭部を負傷する被害を受けている。
被害者となるケース
このように、歩きスマホの側が被害者となるケースも数多く発生している。今回のように単に体当りされてケガを負わされるという場合だけでなく、歩きスマホを狙った「当たり屋」もいる。
すなわち、歩きスマホにぶつかって大げさに転倒し、ケガをしたから金を払えといった要求をしたり、はじめから画面にヒビが入っているスマホをバッグの中に入れておき、衝突の衝撃で壊れたから弁償しろといった要求をするパターンだ。
「当たり屋」のプロは自分の方からぶつかっていかず、ヘッドホンを装着して歩きスマホをしている注意散漫な「カモ」を見つけると、その進路の前に後ろ向きで立ち、あえて追突されて勢いよく前に倒れ、「膝を痛めた」と大騒ぎするなど、巧妙な手口を使う。
これだとお互いに正面衝突した場合よりも歩きスマホの落ち度が大であると見られるからだ。彼らのその場での請求額は5千円とか1万円といった程度であり、あきらめて支払ってしまうように計算ずくで犯行に及んでいる。
このほか、歩きスマホによる「自爆事故」、すなわち階段やプラットホームからの転落、転倒などで自らが大ケガをすることも多い。
加害者となるケース
駅のプラットホームや構内、ショッピング街、階段、路上などを歩いていて、歩きスマホとすれ違いざまにぶつかりそうになり、ヒヤッとした経験をした人は多いだろう。現に衝突したとか、転倒させられてケガまでさせられたといった人もいるのではないか。
特に片手に持ったスマートフォンの画面を注視し、SNSのメッセージを作成するといった操作を行いつつ、両耳にイヤホンをつけ、音楽を聞きながら歩いている相手は怖い。
歩きスマホの側が別の歩行者とぶつかり、転倒させるなどしてケガを負わせれば過失致傷罪(最高刑は罰金30万円)になるし、死亡させれば過失致死罪(同罰金50万円)だ。不注意の程度がひどければ、重過失致傷罪や致死罪(同懲役5年)が適用されることになる。民事上の損害賠償責任も降りかかってくる。
今回の男は故意に体当たりしているばかりか、女性に重傷まで負わせており、しかも自分よりも弱い女性ばかりを狙ったもので、言語道断だ。「注意を促すため」ということであれば、立ち止まって口頭で注意すれば足りるわけだから、実力行使に出た以上、傷害罪の中でも特に情状が悪い。厳重処罰が求められる。
それでも、「歩きスマホには迷惑させられているから、気持ちだけはわかる」という人も多いだろう。
法規制が必要か
このように、歩きスマホはトラブルの温床にほかならない。まずはマナーで解決すべき問題ではあるものの、そろそろ法律や条例による規制を真剣に考えるべき時期に来ているのではないか。
衆議院でも、2016年に所属議員が政府に対して歩きスマホに関する次のような質問を提示している。
このときの政府答弁は「事故の発生状況等を踏まえつつ、慎重に検討すべきものと考える」といったものだったが、その後の3年間で歩きスマホによるトラブルは一向に解決に向かっていない。
法律や条例で規制する場合、「歩きスマホとは何か」という定義から固めなければならないが、例えば罰則こそないもののすでに「交通安全基本条例」で規制を開始している京都府では、次のような規定を設けている。
「歩行者は、道路を通行するに当たっては、交通安全に関する法令を遵守するとともに、歩きスマホ(その操作を指で画面上をなぞることにより行う携帯電話又はそれに類似する機器を操作しながら歩行することをいう。)のように車両への注意力が散漫となる行為は慎むなど、道路交通に危険を生じさせないように努めなければならない」
歩きスマホに対してどの程度のペナルティを科すべきかなど、慎重に検討すべき問題は多々あるが、先ほど述べた当事者間の口頭注意から暴力沙汰に発展することも考えられるので、警察官が歩きスマホに対して警告できるようなシステムの構築も必要ではなかろうか。(了)