「お悔やみ欄を見て連絡しました」手紙が話題 人の死に付け込む卑劣な詐欺の手口

(写真:アフロ)

 夫を亡くした妻あての手紙が話題だ。故人から違法な荷物を預かっており、保管料を振り込めば処分するが、拒否すれば警察に通報するという。事実であれば、典型的な「お悔やみ詐欺」にほかならない。

【手紙の内容は】

 この手紙の要旨は、次のようなものだ。

「お悔やみ欄を見て連絡しました。荷物を預かる貸しスペースの仕事をしていますが、亡きご主人から預かった荷物があります。中身を確認したら、児童ポルノのDVDでした」

「当方で処分し、なかったことにするか、警察に届け出てご主人の名誉を傷つけることにするか、ご選択ください」「児童ポルノは罪が重く、警察やマスコミがうるさいので、内々に処分することをおすすめします」

「荷物の利用料金は解約時に精算することになっており、14年分で16万8千円になります。手紙到着から3営業日以内に指定口座に入金してください。入金の確認ができ次第、DVDを処分します。確認がとれなければ、警察に提出します」

 この手紙には、振り込み先として具体的な銀行名や口座番号、名義人が記載されているほか、問い合わせ先としてメールアドレスも書かれている。ネット上で拡散されるや、またたく間に特定作業が進められた。すでに預金口座の凍結や警察への通報も行われている模様だ。

 ただし、この人物が勝手に名義を使われたイタズラの可能性もある。本物の詐欺なのか否かは、これから警察の捜査で明らかになるだろう。

【「お悔やみ欄」は個人情報の宝庫】

 いずれにせよ、こうした文面の手紙は昔からよくあり、「お悔やみ詐欺」と呼ばれている。

 いまだに地方の新聞の「お悔やみ欄」には、故人の氏名や死亡日時、享年、通夜や葬儀、告別式の日時・場所、喪主の氏名や住所といった情報が掲載されている。地方ほど冠婚葬祭のつきあいを重んじているからだ。

 遺族が直接ないし葬儀会社を通じて新聞社に掲載を依頼するが、「お悔やみ広告」のように黒い大枠で囲まれたものでもない限り、掲載料は不要だ。

 遺族には、故人の友人や知人らに訃報を素早く、かつ一気に伝えることができるというメリットがある。できるだけ多くの人に故人を見送ってもらいたいという遺族の思いもある。スマホに接しない高齢者からすると、新聞の「お悔やみ欄」は貴重な情報源だ。

 しかし、広く訃報を伝えるわけだから、犯罪者にとっても、犯罪を計画し、実行するための貴重な情報源になっている。その典型が、通夜や葬儀、告別式の時間帯を狙った喪主方への空き巣狙いだ。

 これについては、玄関に忌中紙を貼らず、戸締りもしっかりとし、隣近所に声をかけ、テレビや電気をつけっぱなしにしておくとか、信頼できる知人らに留守番を頼むといった防犯対策が重要だ。

【実は古典的な手口】

 このほか、次のようなさまざまな形態の「お悔やみ詐欺」も多い。手紙ではなく、「お悔やみ電報」を使ったり、電話をかけてくるといったパターンもある。

(1) 架空請求

 「故人に金を貸していたので、返済してほしい。期限までに振り込みがなければ、あなたを裁判で訴えます」というもの。かなり高額な場合が多い。

(2) 商品の送りつけ

 「故人が注文していた商品を送りますので、代金を支払ってほしい。期限までに振り込みがなければ、あなたを裁判で訴えます」というもの。さほど高額でない数珠などが選ばれ、代金引換郵便で送りつけてくることも多い。

(3) 架空受注

 「香典返しを安い金額で引き受けます。代金は先払いでお願いします」というもの。振り込んでも何もしてもらえず、業者は行方をくらませる。霊園や墓石を手配するといったパターンもある。

(4) 物品の預かり

 今回の手紙のようなもの。覚せい剤など「まさか故人に限って」という物品よりも、「故人ならもしや?」と思わせ、社会に対して恥じらいもある「わいせつDVD」が多い。

【ターゲットとなるのは】

 こうした「お悔やみ詐欺」のターゲットになりやすいのは、特に高齢の女性だ。

 もはや故人に真偽を確認するすべはない。頼りにしていた夫を突然に亡くし、悲しみのあまり気が動転し、冷静さを失っている。葬儀や告別式などで身も心も疲れ果て、判断力も鈍っている。

 しかも、香典で手もとにまとまった金がある。子どもたちも独立しており、そばに相談相手もいない。一方で、世間様にだけは迷惑をかけたくないという思いが強い。だまされやすい典型だ。

 そこで、詐欺師グループは、「お悔やみ欄」に掲載されている故人の氏名から故人が男だと判断し、享年が高齢であるのを見て妻も高齢だろうと見たうえで、先ほどのような手紙や電報などを送りつけるわけだ。

 これは、「オレオレ詐欺」のような特殊詐欺グループがターゲットを絞り込む流れと似ている。彼らは電話帳を見て少し古風な名前の女性に片っ端から電話をかける。

 高齢だと推測できるし、もし夫が元気で一緒に生活しているのであれば、夫の名前が掲載されているはずだからだ。そばに相談相手や話し相手がいないだろうということで、だましに入るわけだ。

【だまされないためには】

 先ほど挙げたような「お悔やみ詐欺」にだまされないためには、まず第一に、こうした詐欺が世の中で横行しているということをよく知っておくべきだ。そのうえで、元気なうちに家族の間で情報を共有しておくべきだ。

 死後に故人の債権者などを語る手紙が届いても、すぐに一人で判断せず、必ず家族や友人らに相談するといった姿勢も重要だ。

 不安をあおるような手紙であれば、実物を持参し、警察や国民生活センター、各自治体の担当窓口、弁護士などに気軽に問い合わせるとよい。葬儀会社や保険会社の担当者らに相談するのも一考だ。

 また、そもそも新聞の「お悔やみ欄」は利用しないか、もし利用するとしても掲載する情報を絞り込むべきだ。例えば、故人の氏名や死亡日時、享年に限り、喪主の住所は掲載せず、葬儀会社を窓口にするといったものだ。

 喪主の住所を掲載する理由は、通夜や告別式に参列できない者に対し、弔電や香典の送付先や後日の弔問先を伝えるためだが、それよりもデメリットのほうがはるかに大きい。

 なお、もしすぐに詐欺だと見破り、実害が生じなかったとしても、そうした手紙などを廃棄せず、警察に届け出ておくことが望ましい。

 情報がストックされ、広く警戒を呼びかけることになるし、詐欺未遂事件として捜査が行われ、次の新たな詐欺を阻止できるからだ。詐欺グループの預金口座が凍結されれば、活動資金をはく奪することにもつながるだろう。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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