スリムクラブら闇営業で処分の訳 骨までしゃぶり尽くす反社会的勢力の恐ろしさ

(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 芸人の闇営業問題が泥沼化の一途をたどっている。同情的な声もあるが、わずかでも反社会的勢力と関係を持つと、当然ながらこうした結果が待ち受けている。それほど彼らとのつながりは危うい。なぜか――。

【暴力団は「社会悪」】

 反社会的勢力の中核は暴力団だ。殺人や傷害、監禁、恐喝といった暴力的な犯罪はもちろん、賭博や覚せい剤密売、管理売春、高利の闇金融などにも幅広く手を出す。

 振り込め詐欺や高級車の窃盗、金の密輸、アワビの密漁、ダフ屋など、活動資金を得るためであれば手段も選ばない。まさしく「社会悪」にほかならない。

 もっとも、暴力団を「必要悪」と見る向きもあったし、芸能界は暴力団と切っても切れない関係にあった。芸能事務所が暴力団傘下だったり、暴力団によって興行が仕切られ、身辺警護が行われていた例もあったからだ。

 しかし、1992年施行の暴力団対策法によって風向きが大きく変わった。警察の取締りが厳しくなり、暴力団と癒着する関係者にも捜査のメスが入るようになった。

 1997年に神戸のホテルで山口組若頭が傘下組員に射殺された事件では、隣のテーブルに居合わせた無関係の一般人までもが流れ弾で命を奪われた。いざとなると平気で人を殺すのが暴力団の本性だということを決して忘れてはならない。

 警察と協力を密にして関係の解消を進め、彼らを孤立させ、活動拠点や資金源を絶ち、その撲滅を目指すのが社会のあるべき姿勢であり、現に多くの企業などがこれを実践した。

【不透明な存在へと変容】

 一方、活動領域を制限された暴力団は、生き残りのため、看板を変えたり、地下に潜るといった手段に出た。

 彼らが立ち上げた「フロント企業」を拠点にし、金融業や土建業、不動産業、飲食・風俗業、産廃処理業などを装いつつ、暴力や威力、詐欺的な手法で不当に金を要求するやり方だ。

 「エセ同和」や「エセ右翼」のように、社会運動や政治活動を隠れ蓑にもする。正規の暴力団員ではなく、周辺関係者として動くことで、暴力団か否か簡単には判別できなくなる。資金獲得の手段も巧妙化した。

 こうなると、暴力団やその関係企業だと知らないまま、何らかの経済取引を行い、結果的に彼らとつながりを持ってしまう可能性がある。実際には暴力団員だと分かっていても、「気づかなかった」と弁解することも考えられる。

【政府指針が転機】

 そこで、2007年に政府の犯罪対策閣僚会議が新たな指針を示した。

 暴力団対策法のように対象を暴力団に限定せず、その周辺関係者や密接交際者、人脈や専門知識を生かして資金獲得に協力している共生者らをも含め、広く「反社会的勢力」にまで規制の網をかけようというものだ。

 そのうえで、彼らの撲滅のため、次のような基本原則を明らかにした。

(1) 組織としての対応

(2) 外部専門機関との連携

(3) 取引を含めた一切の関係遮断

(4) 有事における民事と刑事の法的対応

(5) 裏取引や資金提供の禁止

 (1)は、社内規則などに反社会的勢力との断絶に関する規定を設け、企業倫理ではなく法令遵守に関わる重大な問題ととらえたうえで、組織全体で対応するという姿勢が重要だというものだ。

 担当者ら個人の判断に任せると、不安感や恐怖感などから不当な要求に応じ、ズルズルとつきあい続けることになってしまうからだ。

 また、(2)も、企業が単独で彼らと立ち向かうのではなく、警察と緊密に連携したり、各都道府県の暴力追放運動推進センターや弁護士会の民事介入暴力対策委員会などに援助を求め、横のつながりによって関係を断とうというものだ。

【暴力団排除条例が拍車】

 特に重要なのが(3)だ。たとえ企業にとってメリットがあったとしても、また、相手が反社会的勢力でなければ何ら問題のない一般的な取引であったとしても、とにかく彼らとは初めから一切関係を持つべきでない、という強い姿勢が打ち出された。

 そのために効果的だとされたのが、あらかじめ取引相手の素性をよく調べることと、反社会的勢力の排除に関する条項を契約書などに盛り込んでおくことだった。

 相手方に自らが反社会的勢力でないことを申告させ、違法・不当な行為に及ばないことをも誓約させておくわけだ。これらに応じなければ契約を締結しないで済むし、あとから虚偽だと分かれば契約を解除できる。

 2011年までに全国の都道府県で制定された暴力団排除条例も、こうした動きに拍車をかけた。

 企業だけでなく、芸人のような個人事業主にも暴力団に対する利益供与を禁止するなど、さまざまな規制を加えているからだ。

 東京都では、誕生会や結婚式などの名目で多数の暴力団員が集まる行事に出席していれば、密接な関係があるということで、その者自身も「暴力団関係者」と認定される。

【断固かつ毅然とした態度が重要】

 先ほどの(4)や(5)の点も、反社会的勢力との関係を断絶するために重要だ。彼らは弱者に強く、強者に弱い。甘い顔や気弱な態度を示していると、必ず付け込まれる。

 不当な要求が自らの不祥事を理由とするものであっても、その事実を隠すために裏取引に及べば、さらに付け込まれてしまう。虚偽であれば断固拒否し、事実であればすみやかに警察に相談するなど、毅然とした態度をとらなければならない。

 警察庁も、取引相手が反社会的勢力の関係者か否か相談された場合に備え、暴力団情報を提供する際の手続などについて通達を作成している。現場の警察では積極的に運用されているところだ。

【リスクばかり】

 反社会的勢力とつながりを持つことは、こうした時代の流れに真っ向から逆らうもので、リスクしかない。特に芸人は利用されやすいから、注意が必要だ。彼らの力を誇示するのに使われたり、広告塔にされる可能性が大だからだ。

 もちろん、闇営業そのものは所属する事務所との契約内容に左右される話だ。しかし、事務所を通す場合と比べると、どうしても営業先に対する事前のチェックが甘くなるし、仲介者との関係で断りにくくなる。反社会的勢力の排除を盛り込んだ契約書など望むべくもない。

 そればかりか、自らが犯罪に及ぶ温床にもなりかねない。ギャラを所得として申告していなければ脱税だ。過少申告加算税などを支払って修正申告で終わるとしても、強い社会的非難は免れない。

 また、反社会的勢力が覚せい剤密売や特殊詐欺などを組織的に行って得た資金は、組織犯罪対策法が規制する「犯罪収益」に当たる。ギャラ名目で受け取った場合でも、芸人の認識次第ではその収受罪が成立する。

 反社会的勢力との関係が明るみに出れば、所属事務所から契約を解除されたり、高額な損害賠償を請求されるなど、民事的な責任も発生する。

【骨までしゃぶり尽くす】

 反社会的勢力がその本領を発揮するのは、彼らとの関係を断とうとした段階からだ。あとから彼らの素性を知った場合でも同様だ。

 結果的ではあっても、彼らと接点をもったこと自体がスキャンダルになるし、脱税などの負い目もあるからだ。それらをネタにし、関係を切るから最後に手切れ金をくれなどと要求される。宴席などで撮影した写真が動かぬ証拠だ。

 もちろん、これで最後だと思って金を渡すと、今度はそれをネタに脅される。金づるだということで何度も金をせびられ、ズブズブと泥沼にはまる。

 金だけで済めば幸運なほうだ。急に断固たる態度に出れば、彼らのメンツを潰し、強い反発を招くことになる。

 暴力団との関係を断とうとした銀行の支店長や上場企業の役員らが襲撃され、中には殺害された者までいるほどだ。意に沿わない相手に発砲したり、刃物で傷つけたり、それこそ手榴弾まで投げ込むようなことをするのが彼らのやり方だ。

 事務所の取り分が多いことから、事務所の仕事だけだと生活できないといった事情があったのかもしれない。この点は、改めて解決すべき話だ。

 それでも、事務所との契約問題だけでなく、反社会的勢力と関係を持つおそれをも考慮して闇営業がタブーとされてきた以上、このルールに反した芸人は自業自得と言うほかない。

【「対岸の火事」ではない】

 今でこそ吉本興業の芸人が話題だが、こうした闇営業は芸能界に蔓延しているものだから、今後も続々と週刊誌にネタが持ち込まれるはずだ。暴力団排除条例が全国で出揃った2011年以降に反社会的勢力の宴席などに出席している事実が発覚すれば、また大きな問題となるだろう。

 芸人に限らず、今度は歌手や俳優らが槍玉に挙げられるかもしれない。ほかの芸能事務所にとっても「対岸の火事」で終わるような話ではない。この機会に徹底的な浄化に向け、芸能界全体で真剣に取り組むべき問題ではなかろうか。

 ところで、以上のような反社会的勢力に関する話を知り、自分には関係がないと思っている人も多いだろう。しかし、彼らは思いのほか身近なところにいる。さまざまな取引を通じ、企業の担当者に言葉巧みに食い込もうとしている。

 繁華街の客引きも危険だ。酔いが回っているサラリーマンや地方客、世間知らずの学生に狙いをつけ、安さを売り文句にして居酒屋やパブなどに連れて行く。飲食後の請求額は高いが、支払えないほどでもなく、ゴネても時間がかかるだけだから妥協して支払う。

 客引きが違法カジノや規制薬物の使用、未成年との性交などを誘い、実際に違法行為に及ばせたあと、脅して口止め料を要求するといったケースも多い。暴力団員が縄張りごとに彼らを管理し、上納金などを得ているわけだ。

 軽い荷物を運んだり、電話で簡単なやり取りをするだけの楽な仕事だという触れ込みなのに、時給が高いといった求人も危険極まりない。特殊詐欺や覚せい剤密売の手足である可能性があるからだ。軽い気持ちで応募して氏名や連絡先などを伝えてしまえば、抜けられなくなる。

 何ごとも「君子危うきに近寄らず」という慎重な姿勢が重要だ。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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