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ノート(117) 国賠訴訟の被告となった心境

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

~整理編(27)

勾留98日目

差入代行業

 12月28日のこの日は拘置所の御用納めだったが、この日までに自費で購入していた「郵便書簡」が手に入った。「ミニレター」と呼ばれるもので、通常のハガキの3倍のスペースがある便せん部分と、封筒、62円切手を兼ねており、折りたたんで袋とじにし、糊付けして発送する。

 開封する際にハサミなどで綺麗に切り開かなければならないのがハガキと比べてやや面倒だが、重さ25g以内であれば中に写真や紙片などを同封して送ることもでき、安価で便利なツールだ。内側の便せん部分に文面を記載するが、拘置所では検閲があるので、封をせずに刑務官に渡し、発送手続を行うことになっていた。

 また、支援者から差し入れられた毛布も独房に入った。日用品や本、衣類などと違い、布団や毛布、枕は差し入れ後にダイレクトに本人に渡されず、X線検査などのあと、いったん拘置所による「領置」、すなわち預かりとなる。

 差し入れを受けた本人は、必要なときに拘置所に対して願せんで「仮出し」という手続を願い出て、許可を受けたうえで、居室に入れてもらう必要がある。年末に向けて寒くなることを見越し、前もってその手続を行っていたため、無事に許可されたというわけだ。

 毛布を差し入れてくれた支援者は、僕が特捜部時代に参考人として取調べを担当した関係者だった。逮捕歴や受刑歴があったため、中にいる人間がどのような時期にどのような物を欲し、しかも中で何が役に立つかということをよく理解しており、衣類や本など本当に必要な物を絶妙なタイミングで差し入れてくれていた。

 拘置所近くの「差入れ屋」とは別に、逮捕歴や受刑歴のある者による独自のノウハウに基づいた差入れ代行業が立派な商売として成り立つのではないかと思ったものの、それで手数料収入を得ている業者がすでに存在すると知り、驚かされた。

御用納め

 御用納めの拘置所は接見や面会、戸外運動などが年内最後になるし、保釈が許可されて釈放される者も多い。横並びの居室も出入りが激しく、拘置所全体がバタバタとしていて落ち着かない雰囲気だった。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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