ノート(82) 捜査中の事件で自殺者が出た場合の特捜部の内情

(ペイレスイメージズ/アフロ)

~回顧編(7)

勾留28日目(続)

【捜査は粛々と】

 既にこの連載でもお話ししているとおり、特捜部が本格的な捜査を行う事件では、首吊りや飛び降りによる自殺者が出る。

 むしろ「自殺者が出る事件は本物だ」と言われるほどだ。

 もちろん、自責の念、周囲からの重圧、事態の拡大を防ぐ、刑罰や社会的地位の喪失をおそれて、過酷な取調べから逃れるため、抗議の意思など、“死”という究極の選択に至るには、様々な動機や背景があるだろう。

 普段の元気な生活ぶりからして「まさかあの人が」といったケースだと、警察の捜査で事件性なしと判断されても、なお「本当は他殺だったのではないか」といった陰謀論まで巻き起こる。

 いずれにせよ、捜査中の事件で自殺者が出た場合、特捜部では冷静さを保ち、粛々と捜査を進めるのが基本だ。

 それまで固かった関係者の口が緩み、全容解明に向けて事態が大きく進展することもあり得るからだ。

 確かに、残された関係者の中には、「死人に口なし」を好都合として、自殺者に責任を被せて逃れようとする者が出てくる。

 自殺したのがキーパーソンであればあるほど、全容解明も困難となる。

 他方で、「故人に申し訳ない」「明日はわが身」「組織は守ってくれない」「1人で抱え込んでいても虚しいだけだ」といった様々な思いから、進んで供述をしようと考える関係者も出てきて、流れが大きく変わる。

 取調べ室の空気もそれまでと一変するし、取調べでも関係者が抱くであろうそうした思いを踏まえ、「この機会に真相を語り、故人の無念を晴らしたらどうか」といった説得を行う。

【“弔い合戦”の様相も】

 それこそ、自殺者の登場で捜査が“弔い合戦”の様相を呈するようなこともある。

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前田恒彦

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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