9名全員の行方不明者届を受けていた警察も座間事件を防げず 不明者発見に向けた活動の実情と限界

(写真:アフロ)

 座間事件では、被害者9名全員の行方不明者届が出されていた。携帯電話の位置情報によると、17歳の2名は、3日以内に相前後して現場から約20メートルの基地局エリアで足取りが途絶えていたという。

 では、なぜ警察は事件を防げなかったのか。捜査の長期化が見込まれるが、いずれこの点に関する検証も求められることだろう。この機会に、警察が行方不明者の発見に向けてどのような活動を行っているのか、その実情や限界などについて触れてみたい。

【発見活動の基本】

 警察は、生活の本拠を離れ、行方が明らかでない者について、法令や国家公安委員会規則警察庁通達などに基づき、その発見に向けた様々な活動を行っている。

 その際の基本原則として、規則は、関係者の名誉や平穏な生活を害さないように配慮することのほか、次の3点を挙げている。

(1) 生命及び身体の保護を図るため、迅速かつ的確に対応

(2) 犯罪被害によるものである可能性を考慮し、事案に応じ、必要な捜査を行う

(3) 関係する警察や各部門が緊密に連携し、警察の組織的機能を十分に発揮

 被害者の生活拠点が東京、福島、群馬、埼玉、神奈川の1都4県にわたり、年齢が15~26歳の座間事件でも、まずはこの基本原則が遵守されていたか否かが問題となるだろう。

【行方不明者届の受理と判定】

 ところで、警察は、行方不明者の親族らから行方不明者届の提出を受け、これを受理した段階で、その発見に向けた活動を始める。

 一般に「捜索願」と呼ばれているものだ。

 もちろん、提出がなくても、凶悪犯の被害にあっていると認められる緊急事態などには、警察自ら独自に動き出すこともできるが、あくまで限られた場合だけだ。

 その上で、警察は、受理の際、親族らから本人の氏名や年齢、性別、身体の特徴、行方不明となった日時や場所、状況、考えられる原因や動機などを詳しく聴取し、写真などの提出を受ける。

 最終的には、それらを全国の警察からアクセスできる警察庁のデータベースに登録し、情報の共有化をはかるわけだ。

 特に重要なのは、警察が次のような「特異行方不明者」に当たる事案か否かの判定を行っていることだ。

「凶悪犯被害者」

 殺人、誘拐等の犯罪により、既に生命、身体に危害が加えられているおそれがあり、または将来危害が加えられるおそれがある者

「福祉犯被害者」

 性別や年齢、性格、素行、言動、前後の状況、家庭環境などの事情から、児童買春などの被害にあうおそれがある者

「事故遭遇者」

 直前の行動、気象、地形などの事情に照らし、水難や交通事故などに遭遇しているおそれがある者

「自殺企図者」

 遺書があること、平素の言動、異性関係、家庭環境、経済状態、近隣住民との関係などに照らし、自殺のおそれがある者

「自傷他害者」

 統合失調症や薬物依存症など精神障害の状態にあること、けん銃や包丁、毒薬など危険物を携帯していること、性格や素行、言動、前後の状況、過去の病歴などに照らし、自身を傷つけ、他人に害を及ぼすおそれがある者

「自救無能力者」

 病人、認知症の高齢者、おおむね13歳以下の年少者など、行方不明者のみで生活する能力がなく、生命、身体に危険が生じるおそれがある者

【特異行方不明者でない場合】

 この判定結果によって、行方不明者の発見に向けた活動の内容が大きく変わってくるので、注意を要する。

 すなわち、本人の意思による一時的な家出や借金苦からの夜逃げなど、単なる行方不明者の場合、次のような一般的な活動を行うだけだ。

● 夜半の繁華街にたむろする少年らへの声かけなど、日々のパトロール、職務質問、少年補導、交通取締りや他事件の捜査などの際、行方不明者の発見に向けた気配りを行うこと

● 他の警察署などに対する問い合わせ

● 警察署の掲示板や警察庁・都道府県警察のホームページなどに行方不明者情報を公表した上で、市民に対する新たな情報提供の要請

● 警察が把握している身元不明死体と行方不明者との対照

● 徘徊している認知症老人など、生活の本拠を離れ、身元が明らかでない「迷い人」を発見した際、行方不明者との対照

【特異行方不明者の発見活動】

 これに対し、特異行方不明者の場合には、そうした一般的な活動のほか、次のような特別な措置をとることとなっている。

● 積極的な情報収集、警察犬を使うなどした探索、各種の捜査、家族らとの密な連絡

● 消防団や山岳会などが出動した広範囲の山林探索など、関係機関や地方公共団体、事業者への協力要請

● 友人宅など立ち回りが見込まれる関係先や見込地域、就業が予想される業種などを絞り込んだ他の警察への手配

● 手配を受けた警察による立ち回りの有無の調査、周辺の探索、関係者への協力要請

● 毛根や歯ブラシなど本人や実親、実子らのDNA型資料を受領し、鑑定の上、警察が管理している変死者などのDNA型記録と対照

【令状を得て行う強制捜査も】

 具体的な「捜査」として、どれくらい深く掘り下げていくかはケースバイケースではあるが、例えば、友人・知人ら関係者の取調べや、行方不明となった現場の遺留品採取、鑑定などが挙げられる。

 また、次のような情報を得て、行方不明者の「点」の行動を次第に「線」の形につなげていくといったことも行う。

● 本人名義の銀行口座に関する入出金状況やATM利用状況、利用場所の把握

● クレジットカードの利用歴や利用店の把握

● スイカやパスモといった交通系ICカードの利用歴や乗降駅の把握

● ポイントカードの利用歴や利用店の把握

● 各行動拠点周辺に設置された防犯ビデオの入手や解析

 パソコンや携帯電話を自宅に置いたままで行方不明となっている場合には、メールなどのデータの解析を行い、考えられる足取りの手がかりを探る。

 携帯電話を持ち出している場合には、裁判官から「差押許可状」という令状を得た上で、いつ、どれくらいの時間、どの電話番号に電話をかけたのかといった記録を、NTTドコモなどの携帯電話会社から差し押える。

 この情報を分析し、電話をかけた相手や受けた相手を特定した上で、会話の内容や行方不明者との接点、前後の行動などに関する取調べを行うわけだ。

【有効な位置情報探索、ただし限界も】

 比較的有効なのは、同じく裁判官から「検証許可状」と呼ばれる令状を得た上で、携帯電話会社が把握している位置情報を入手し、分析することだ。

 これには、次の2つのパターンがある。

(イ) 携帯電話端末と全国に配置された各携帯電話会社の基地局との通信状況から位置を把握

(ロ) 携帯電話端末のGPS機能に着眼し、衛星からの電波を受信して、緯度や経度などから位置を把握

 (イ)は、電波受信の問題からGPSによる把握が比較的困難な建物内や地下、高圧線付近などでも短時間で位置情報を取得できるし、携帯電話側の電力消費も少なくてすむので、バッテリーがほとんど残っていないような場合でも探索が可能だ。

 ただ、設置されている基地局の数やその距離関係に左右されるので、誤差が300メートル以上になる場合もあるなど、「エリア」としての大まかな位置情報しか把握できない。

 他方、(ロ)は、ピンポイントに近い位置情報が得られるが、携帯電話端末にGPS機能が付いていなかったり、その機能をオフにされていたら無理だ。

 また、(イ)(ロ)とも、電源が完全にオフになっていたり、行方不明者自ら、あるいは拉致するなどした犯人が携帯電話を捨ててしまっていれば、把握できるのは最後に通信した基地局の位置情報にとどまる。

【座間事件はどうか】

 座間事件でも、まずは、9名の被害者について、警察が特異行方不明者と判定していたのか否かが問題となるだろう。

 冒頭で述べた17歳の女性2名のほか、最年少である15歳の女性1名、19歳の女性1名、26歳の女性1名、20歳の男性1名については、警察も特異行方不明者と判定していた模様だ。

 先ほど挙げた要件のうち、凶悪犯被害者や自殺企図者に当たると考えたのではないか。

 行方不明者届が出された行方不明者のうち、例年、6割程度が特異行方不明者と判定されているので、むしろ当然の結果とも言える。

 21、23、25歳の女性3名については判然としないが、もし特異行方不明者と判定せず、本人の意思による単なる家出だなどと考えていたのであれば、そうした判定に至った理由や背景、警察が把握できていた情報の内容などについて、検証を行う必要がある。

【ベストを尽くしたのか】

 また、特異行方不明者と判定していたとしても、警察がやるべき捜査をきちんと尽くしていたのか否かも問題となるだろう。

 冒頭で述べた17歳の女性2名については、警察も、位置情報で把握できた基地局周辺の公園やトイレなどを数時間にわたって探索しているようだが、防犯カメラまでは入手していないし、逮捕された被疑者を含め、住民に対するローラー作戦的な聞き込みも行っていない。

 他の被害者についても、一部では先ほど挙げた(イ)の位置探索を実施しているものの、それ以上、詰めの捜査を行っていないようだ。

 被害者らのSNS上でのやり取りのデータやメールでのやり取りのデータをツイッター社やLINE社、ヤフー社、グーグル社などのサーバコンピュータ上から差し押え、解析していれば、共通の接点を持つ相手方として今回の被疑者が早期に浮かび上がっていたものと思われるが、これすらも実施していない模様だ。

 被害者らが被疑者と音声でのやり取りをする際、090や080回線ではなく、LINEのユーザー同士で通話する無料通話やIP電話を使っていた可能性をも考慮し、それらのサービス提供事業者に広く捜査の網をかけていれば、サーバ上に保存されていた通信履歴や交わされた会話の音声データなども把握できていたかもしれない。

 その上で、直ちに被疑者方に捜索に入ることで、それまでに既に死亡していた被害者の遺体を発見でき、あるいは次の被害者が出るのを防ぐことや、早期の検挙も可能だったかもしれない。

【機能不全となっている届け出制度】

 こうした点については、以前から、せっかく行方不明者届という制度があるのに、捜査の端緒として必ずしも十分に機能していないのではないか、といった指摘がある。

 ここで思い起こすのは、1971年の大久保清事件だ。

 わずか2か月あまりの間に、路上で声をかけた女性8名を次々と殺害し、造成地などにその死体を埋めて遺棄したが、その全員について、家族らから警察に捜索願が出されていた。

 検挙に至ったのは、私設探索隊を編成していた被害者1名の兄が妹の自転車に触っている男を発見し、逃走する車のナンバーを覚え、警察に通報するとともに車種から身元を割り出し、仲間とカーチェイスの末にその身柄を確保し、警察に引き渡したからだった。

 座間事件でも、23歳の被害女性の兄が私的に探索を始め、妹のツイッターアカウントで情報提供を呼びかけた結果、今回の被疑者にたどり着いたとのことであり、検挙に至る経緯が似通っている。

 逮捕された被疑者が真犯人か否か、共犯者や協力者の有無、殺人の末の死体遺棄事件か否か、9名全ての事件に関与しているのか否かなど、その詳細については、現在、警察が捜査を進めているところだ。

【限られた予算と人員】

 もっとも、一般に警察が行方不明者の発見に向けた活動を後回しにする事情も分からないではない。

 予算や人員が限られており、目に見える形で既に発生している現在進行形の事件捜査の方にそれらを割く必要があるからだ。

 また、警察が公表している統計警察白書を見ても、家族らから警察に届けが出された行方不明者は例年8万人超、そのうち特異行方不明者が5万人に上る一方で、行方不明の原因が犯罪関係だった事案は0.7~0.8%にすぎない。

 しかも、2016年に限っても、届け出後、警察が行方不明者を発見したり、自発的な帰宅などが確認された事案が全体の約86%を占め、受理から1週間以内に所在が確認された割合も全体の約74%を占めている。

 そうした経験則を踏まえ、特に若年の行方不明者の場合、「そのうちひょっこりと帰ってくるのではないか」などと考えてしまうのも無理からぬものがある。

 それでも、結果論とは言え、これだけの事件が発生した以上、それでは何の解決策にもならない。

 特に、どのような捜査をどの程度まで行うのかという点について、現在のように第一線で探索に当たる警察官の勘や裁量に委ね、線引をあいまいなままにしていれば、また同様の事件が発生することだろう。

 確かに、特異行方不明者のうち、警察が本腰を入れて捜査すべき事案とそうでない事案との線をどこに引くべきかは難しい問題だ。

 それでも、行方不明者の年齢や経歴、性格、行動範囲、前後の状況などを踏まえ、どのような場合に最低限どこまで捜査を行うべきなのか、といった点をガイドラインで明確にしておく必要があるように思われる。

【予防策も重要】

 また、被害者の多くは、ネット上で自殺をほのめかす投稿をしていたとされている。

 そうしたシグナルを早期に発見し、その実行を防止し、自殺介添人のような者が暗躍できないようにするために、警察がSNS上などで交わされる自殺や犯罪に関するやり取りを早期に把握できる態勢が望ましい。

 ただ、警察による常時監視は事実上不可能だし、プライバシー保護の問題もある。

 市民やプロバイダー、ネットサービス事業者などの警察に対する通報制度を確立するとともに、児童ポルノ事案と同じく、サイバーパトロールの強化が求められる。

 現在もそうした制度は一応あるものの、これを徹底し、特に若年層に対して広く周知する必要がある。

【求められる警察の負担軽減】

 他方で、行方不明者探しに向けた警察の負担を少しでも減らし、いかにして今回のような事案に限られた人員、予算を集中させるか、といった点にも改革のメスを入れる必要がある。

 例えば、行方不明者のうち、先ほど挙げた統計で認知症者が占める割合を見ると、11→12→13→14→18%と年々増加している。

 人数にして年間1万5千人超だが、先ほど挙げた「自救無能力者」であり、自動的に特異行方不明者と判定される。

 高齢化社会の深刻化を踏まえると、この数字はますます増えていくはずだ。

 社会福祉と関連する話にはなるが、認知症者の徘徊をいかに防ぐかとか、GPS端末を取り付けるなど、いかに容易かつ早期の発見を目指すかといった点も、行方不明者全体を見据えた時、浮かび上がってくる問題だろう。

 絶対に同様の事件を繰り返させてはならない。

 警察はもちろん、他の関係機関についても、今回のような事件を防ぐために何ができ、何をすべきだったのか、また、改革すべき点はどこなのか、徹底した検証が求められる。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信。唎酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。