最高裁が令状なしのGPS捜査を違法と断定 今後の犯罪捜査に与える深刻な影響とは

(ペイレスイメージズ/アフロ)

警察が捜査対象者の車両に密かにGPS端末を取り付け、その位置情報を把握するGPS捜査。最高裁は、その法的論争に決着をつけた。しかも、今後の犯罪捜査に深刻な影響を与える厳しい内容だった。公開されている判決文(詳細はこちら)を踏まえ、その理由を示したい。

【GPS捜査のパターン】

警察はその実績などを公表していないが、密かなGPS捜査により、広域を点々と移動する連続窃盗グループなどの所在を検索し、移動状況を把握する中で、確たる証拠をつかみ、検挙に至った例は数多い。

こうしたGPS捜査には、次の4パターンがある。

(1) GPS捜査で得た証拠を正面から使わざるを得ず、裁判でもGPS捜査の実施やそこから得た情報などをオープンにせざるを得ない場合

(2) それ以外の証拠で十分に立件可能だったが、捜査段階で捜査対象者にGPS端末を発見され、GPS捜査の実施がバレてしまったことから、結果的に裁判でもその実施状況などをオープンにせざるを得なくなった場合

(3) 上手くバレないままGPS捜査を終えたが、それ以外の証拠で十分に立件可能であり、GPS捜査の実施やそこから得た情報などを表ざたにしないままで終わっている場合

(4) GPS捜査を行っても立件に至る証拠が得られず、内偵段階から先に進めず、捜査の実施そのものが水面下に沈められた場合

捜査対象者に気づかれないように注意しつつ、密かにその生活圏内に近づき、行動を内密に把握する、といった観点からすれば、尾行や張り込みと全く同様だ。

現に警察は、GPS捜査をそれらの延長線上のものと見ており、捜査人員や予算が限られる中、そうした古典的な捜査手法に代わる有効な手段だととらえてきた。

その上で、基本的に路上を走行する車両の位置情報を把握するだけであり、個人のプライバシーの領域に深く踏み込むわけではないとして、尾行や張り込みと同様、裁判官の令状は不要である、という立場を堅持してきた。

検察も同様のスタンスだった。

今回の事件でも、警察は被告人や共犯者らの承諾はもちろん、裁判官の令状も得ない状態で、約6か月半にわたり、被告人らの19台の車やバイクにGPS端末を取り付け、その位置情報を把握していた。

ただ、被告人の仲間がバイクを修理に出した際、GPS端末の取り付けに気づかれてしまい、裁判でその実施状況を少しずつオープンにせざるを得なくなった。まさしく、先ほどの(2)のパターンだ。

【捜査当局の見解を全否定した最高裁】

そもそも、GPSという便利な道具の普及によって、個人の動きがピンポイントで簡単かつリアルタイムに把握できることなど、刑事訴訟法が制定された1948年当時には全く想定されていなかったことだ。

そこで、(1)や(2)のような事件の裁判では、必要な令状を得ていない違法捜査によって集められた証拠で立件、起訴されたのではないか、などと争われてきた。

各地の裁判所の判断は、これまで10件ほどに上るが、最終的には有罪の結論を導きつつも、GPS捜査に対する見方が様々だった。

今回の一審、控訴審も、被告人を窃盗罪などで有罪とする結論自体は変わらなかったが、大阪地裁は令状なしのGPS捜査を違法とし、高裁は今回のケースだと重大な違法性なしと判断するなど、全く異なっていた。

これに対し、最高裁は、まず次のとおり、GPS捜査と尾行や張り込みとの関係について、警察・検察の見解を全否定した。

「GPS捜査は…その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする」

「このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴う」

要するに、古典的な尾行や張り込みと違い、密かに対象者の車両にGPS端末を取り付けるなど、個人のプライバシーの領域に深く踏み込む捜査方法だ、というのが最高裁のGPS捜査に対するとらえ方だった。

【憲法から結論を導く】

しかも、令状なしのGPS捜査を違法と断じた最高裁の理由付けは、次のとおり、憲法規定の解釈にまでさかのぼっており、全く文句のつけようがないものだった。

「憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれる

「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる」

「現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべき」

この点、犯罪捜査や刑事裁判のルールを定めた「刑訴法」、すなわち刑事訴訟法には、次のような規定がある。

「捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」(197条1項)

1976年の最高裁の判例によれば、「強制の処分」とは、「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」を意味する。

逮捕や勾留、捜索や差押え、検証などがその典型例であり、いずれも裁判官の出す令状が必要だ。現行犯逮捕や逮捕に伴う捜索差押えなど、ごく限られた場合のみ、令状なしの手続が許されているだけだ。

では、警察が密かに行うGPS捜査は、裁判官の令状が必要な「強制の処分」なのか。

これまでの裁判では、もっぱらこの刑訴法のレベルで議論されてきたが、最高裁が最高法規である憲法まで持ち出し、その原理原則論に基づいて決定的な判断を下した意義は、極めて大きい。

【千葉県警方式】

では、裁判官の令状を取りさえすれば、警察は今後もGPS捜査を行うことができるのか。

この点、令状なしのGPS捜査を違法とする各地の裁判所の流れを踏まえ、「念のため」ということで、千葉県警が2016年に行ったGPS捜査では、裁判官から「検証許可状」と呼ばれる令状を得た上で実施された。

刑事訴訟法が規定する様々な令状の中で、「検証」が最もGPS捜査の性質に合致していると考えられたからだ。

警察が携帯電話会社から契約者のGPS情報を入手する際と類似したやり方だ。

ただ、千葉県警のケースでは、GPS端末を取り付ける際、私有地に無断で立ち入らないことや、捜査に支障がなくなった時点で捜査対象者に装着の事実を知らせるといったことが条件となっていた。

【「検証許可状」でもダメ】

しかし、今回の最高裁判決は、次のとおり判断し、こうしたやり方すらも事実上否定した。

「GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の『検証』と同様の性質を有するものの、対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、『検証』では捉えきれない性質を有することも否定し難い」

「検証許可状の発付を受け、あるいはそれと併せて捜索許可状の発付を受けて行うとしても、GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある」

GPS捜査は、被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状呈示を行うことは想定できない。刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており、他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る」

【立法措置を要求】

その上で、最高裁は、ダメ押しとして、次のとおり新たな立法措置の必要性にまで言及するという異例の態度に出た。

「実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられるところ、捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし、第一次的には立法府に委ねられている

「仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば…裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが、事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは、『強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない』と規定する刑訴法197条1項の趣旨に沿うものとはいえない」

「GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の『この法律に特別の定のある場合』に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある

「GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい

ここまでハッキリと言われてしまうと、警察・検察としても完全にお手上げだ。

【裁判官全員一致の結論である上、補足意見も厳しい】

しかも、今回の最高裁判決は、裁判官5人の小法廷ではなく、裁判官15名の大法廷で審理され、かつ、全員一致の結論だったことから、その重みも計り知れない。

岡部喜代子裁判官(民法学者・元裁判官)、大谷剛彦裁判官(元大阪高裁長官)、池上政幸裁判官(元大阪高検検事長)による以下のような補足意見が付けられているが、これを見ても、法制化までの間のGPS捜査を肯定しつつ、極めて重大な犯罪の捜査のためなど、特別な事情、慎重な判断を要求しており、クリアするのは到底困難だ。

「本来的に求められるべきところとは異なった令状によるものとなる以上、刑訴法1条の精神を踏まえたすぐれて高度の司法判断として是認できるような場合に限定されよう」

ごく限られた極めて重大な犯罪の捜査のため、対象車両の使用者の行動の継続的、網羅的な把握が不可欠であるとの意味で、高度の必要性が要求される」

「令状の請求及び発付は、法廷意見に判示された各点について十分配慮した上で行われなければならないことはいうまでもない」

ごく限られた特別の事情の下での極めて慎重な判断が求められる」

結局、今の刑事訴訟法の下では、冒頭で挙げた(1)のパターンのように、警察がGPS捜査を行い、そこで得た証拠を裁判で使うようなことは、事実上不可能になった、と言わざるを得ない。

GPS捜査の実施が発覚することで、違法捜査のそしりを免れなくなったからだ。(2)も同様だ。

もちろん、(3)(4)のパターンのように、バレないように実施するというやり方がなおも続けられる可能性は否定できない。

それでも、今回の最高裁判決を前提とすると、もしバレたら警察の組織的な責任が問われる大問題に発展するわけだから、さすがに警察としても躊躇(ちゅうちょ)することだろう。

【残された解決すべき問題】

現に警察庁は、今回の最高裁判決を踏まえ、全国の警察本部に対し、GPS端末を使った捜査を控えるように指示する通達を出した。ただ、それで全ての問題が解決したわけではない。過去の清算も必要だからだ。

まず、GPS捜査の違法性を巡り、現在も進行中のいくつかの裁判があるが、これに少なからず影響を及ぼすことだろう。裁判所は他の証拠で有罪とするだろうが、少なくともGPS捜査で得た資料や情報などを証拠として使うことは認めないはずだ。検察自らその証拠請求を取り下げることも考えられる。

また、全国に目を向けると、冒頭で挙げた(3)(4)のケースのほか、暴力団事件や公安事件など、現在も内偵のために密かにGPS捜査を実施している事件があるのではなかろうか。

捜査対象者の車両から速やかにGPS端末を取り外さなければならず、彼らにその実施状況などを告げ、了承を得る必要があるだろう。既に終わった捜査ではあるが、(3)(4)のケースについても、事後的とは言え、同様だ。

彼らから国賠訴訟を起こされた場合には、その対応にも苦慮することだろう。

他方、国会審議を経た上で、早急にGPS捜査全般に関する特別な法律を作り、令状の名称や形式、裁判官による許可基準や条件など、GPS捜査を可能とする具体的な要件を定めておく必要がある。

限られた捜査員で悠長に尾行や張り込みをやっていては、昼夜を問わず車両を使って広域移動するような組織犯罪の犯人グループを取り逃がす結果となってしまうからだ。

この点、そもそも犯罪者のプライバシーを保護する必要などないし、今回の最高裁判決は犯罪者を利する結果となるもので、巧妙化する犯罪の取締りが困難となることから、あまりにも踏み込みすぎではないか、といった見方もあるだろう。

ただ、肌身離さず持ち歩くスマホの位置情報を入手することは、尾行や張り込みよりもプライバシー侵害の程度が大きく、捜査当局ですらも裁判官の令状が必要だと考え、現に令状を得てきた。

また、位置情報をキャッチし、捜査を進めたものの、後になって捜査当局の見込み違いだと分かり、立件に至らないケースもあり得る。冒頭で挙げた(4)のようなケースだ。

これを踏まえると、むしろ最高裁の判決は当然の流れと言えよう。(了)

(参考)

1 拙稿「GPS情報も知らぬ間に!? スマホにまつわる個人情報を捜査当局が手に入れる方法とは」はこちら

2 拙稿「なぜ栃木女児殺害事件の裁判で「Nシステム」を証拠として使うことが異例中の異例の事態なのか」はこちら

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信。唎酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。