GPS情報も知らぬ間に!? スマホにまつわる個人情報を捜査当局が手に入れる方法とは

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

スマートフォンに掲載されたGPSの位置情報について、次のような報道が話題だ。

NTTドコモが今月発売するスマートフォンの新モデルから、本人に通知せずに捜査機関に全地球測位システム(GPS)の位置情報を提供できるよう端末上の対応を取ることが17日、分かった。総務省が昨年6月、電気通信事業者向けの個人情報保護指針を改定したことを受けた措置。KDDI(au)、ソフトバンクも対応を検討しており、携帯端末の対象機種が拡大しそうだ。

出典:時事通信

知らぬ間にユーザーの行動が警察や検察に漏らされ、その監視下に置かれる日が来るのか――

そこでこの機会に、捜査当局がスマートフォンにまつわる個人情報をどのようにして手に入れているのか、その実態や問題点について示したい。

【契約者情報】

捜査や裁判の手続について規定した「刑事訴訟法」という法律には、捜査当局にとって実に使い勝手のよい、次のような規定がある。

 

捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。(197条2項)

裁判官の令状を取ることなく、携帯電話会社などを含めた様々な「団体」に対して知りたい事項を問い合わせ、その報告を求めることができるというもので、「捜査関係事項照会」と呼ばれている。

対象となる犯罪には何ら制限がないので、捜査のために必要であれば、世間を賑わす特異重大事件から軽微な事件に至るまで、オールマイティーに使うことができる。

問合せを受けた企業などが拒否しても罰則はないが、ほぼ100%、数日~2週間程度で任意に回答が返ってくる。

犯罪捜査という公的な目的によるものである上、断っても後日令状で事務所を捜索され、差押えをされるばかりか、その対応に社員が割かれ、事務もストップさせられるのが関の山だからだ。

携帯電話会社に対する照会であれば、以下のような情報が郵送で比較的簡単に手に入る。

・ 携帯電話番号、契約年月日、契約者名、その生年月日や住所、代金請求先名(代金支払者)、現に契約中か否か

・ 代金支払方法及びその具体的内容(口座引落しであれば銀行名や支店名、口座番号、口座名義、クレジットカード決済であればカード会社名やカード番号、有効期限、カード名義)

・ MNP(番号ポータビリティ)によって他社に転出したり、他社から転入していれば、その時期や会社名

これらの情報を元に、今度は銀行やクレジットカード会社、MNP転入・転出会社に対して照会を行い、口座開設日や入出金履歴、カード利用履歴などの情報を取り、徐々に捜査対象者の行動を絞り込んでいくわけだ。

【プライバシーポリシー】

ところで、携帯電話各社がこうした回答を行う際、捜査当局から問合せがあったことを契約者に伝え、その同意を得ることなどない。

知らぬ間にその情報が警察や検察に対して伝えられているというのが実態だ。

これを聞いて憤慨するユーザーも多いだろう。

しかし、そもそも携帯電話会社と契約を締結した際、ユーザーはこうした個人情報の利用・提供が含まれた契約約款や個人情報の取扱いに関するプライバシーポリシーを了承したことになっている。

ショップ店員はきちんと説明していないし、ユーザーも受け取った契約約款などろくに見ていないだろうが、いわば“包括的な利用・提供の事前承認”を与えたことになってしまっているのが現実だ。

例えば、NTTドコモでは、次のように規定されている。

当社は、契約者に関する個人情報の取扱いに関する方針(以下「プライバシーポリシー」といいます。)を定め、その定めるところにより個人情報を取り扱います。(Xiサービス契約約款76条

当社は…次の各号のいずれかに該当すると認める場合は、本人の権利利益に最大限の配慮を払いつつ、個人情報を第三者に提供することがあります。

(2) 法令に基づく場合。

(5) 国の機関もしくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある場合。電気通信事業における個人情報の取り扱いについて

KDDIソフトバンクUQコミュニケーションズなどのプライバシーポリシーも同様だ。

というのも、大もととなる個人情報保護法(23条1号、4号)や総務省の個人情報保護に関するガイドライン(15条1号、4号)が、法令に基づく場合などには、あらかじめ本人の同意を得なくても、その者の個人情報を第三者に提供できると規定しているからだ。

捜査当局が照会を行うのは、何らかの犯罪に関係した疑いのある人物やその周辺関係者であり、もし捜査の手が自分たちに伸びていることを知れば、逃走して身を隠したり、証拠を隠滅する可能性が高まる。

そこで、これを未然に防止しようという趣旨も含まれているわけだ。

捜査関係事項照会も、まさしくこれらに当たる。

【通信履歴と発信者情報】

この前提からすると、携帯電話各社が課金などのために把握している各契約者の実際の利用状況についても、同じく捜査関係事項照会で手に入れることができる、という流れになりそうだ。

例えば、その契約者の携帯電話番号から、いつ、どれくらいの時間、どの電話番号に電話をかけたのかといった「通信履歴」「発着者情報」などだ。

しかし、「通信の秘密は、これを侵してはならない」という憲法の規定(21条2項)や、次のような刑事訴訟法の規定によって、ブレーキがかけられる。

強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。(197条1項)

最高裁によると、「強制の処分」とは、「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」を意味するとされている。

この趣旨からすると、契約者名や生年月日、住所といった単なる形式的な情報を超え、個人のプライバシーの領域に深く踏み込むような情報を得る場合には、捜査関係事項照会ではダメだということになる。

すなわち、事前にその必要性などについて裁判官の審査を受け、令状を取った上で行わなければならない。

例えば、先ほどの「通信履歴」であれば、前もって裁判官から差押許可状と呼ばれる令状を取り、情報がほしい携帯電話番号について、いつ、どれくらいの時間、どの電話番号に電話をかけたのかといった記録を携帯電話会社にプリントアウトしてもらっている。

その上で、その“紙”を差し押えるといった手続をとっている。

その際、携帯電話各社は、捜査当局が令状で通信履歴を差し押さえたことを契約者に伝えたり、その同意を得ることなどはしていない。

それがプライバシーポリシーに沿った対応だからだ。

【通話内容】

捜査当局としては、より深く捜査を進めていくため、さらに次のステップとして、個々の電話における通話内容まで察知したい。

しかし、これは憲法の保障する「通信の秘密」にストレートに関わる問題だし、プライバシーの領域に踏み込む度合いも大だ。

捜査対象者のみならず、その会話の相手方からも同意を得ないまま、秘密裏かつリアルタイムに情報の取得が行われるからだ。

さすがに携帯電話各社も個々の通話内容までは記録していないし、プライバシーポリシーでも各社が取得・利用できる個人情報には含めていない。

したがって、先ほどの通話日時や相手方番号などとは違い、捜査当局が令状によって過去の通話内容の記録を差し押えることは不可能だ。

ただ、技術的には、通信線に傍受装置を接続するなどし、現在進行形の通話内容を傍受し、記録することは可能だ。

そこで、捜査の必要性と通信の秘密やプライバシー保護との調整を図るため、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」という特別な法律が制定され、2000年から施行されている。

「通信傍受法」とか「盗聴法」などと呼ばれるもので、厳しい条件の下、捜査当局がリアルタイムに通話内容を傍受できるという仕組みだ(メールやファックスのやり取りを傍受することも可能)。

代表的な条件は、次のようなものだ。

1) 裁判官の審査を受け、「傍受令状」と呼ばれる特別な令状を取る。

2) 組織的な薬物・銃器関連事件や集団密航事件、組織的殺人事件の捜査に限られる。

3) その犯罪の実行に関連する通話だけを傍受する(それ以外の会話は峻別のためにさわりだけ聞くとしても、記録に残さずに消去)。

4) 立会人(例えば電話会社社員)による立会いが必要。

5) 傍受が記録された通信の当事者に対し、原則30日以内、最大で60日以内に事後的な通知を行う。

なお、5月24日に衆院本会議で可決・成立した刑事司法改革関連法には、この通信傍受の拡大も盛り込まれている。

具体的には、2)の対象犯罪が組織性の疑われる放火や傷害、監禁、略取誘拐、強盗、恐喝、窃盗、詐欺などにまで広げられ、一定の要件の下で4)の電話会社社員らによる立会いも不要となるなど、捜査当局にとって一層使い勝手のよいものとなっている。

【GPSの位置情報】

では、スマホのGPSについてはどうか。

すなわち、個人のプライバシーとの関係で、「位置情報」というものをどのようにとらえるべきか。

(1)契約者名や住所といった形式的な情報にすぎないのか、(2)通信履歴といったプライバシーの領域に踏み込んだ情報なのか、さらには(3)通話内容に準じるほどの重大な情報なのか、という問題だ。

基本的にユーザーは電源をオンにしたまま肌身離さずスマホを持ち歩いているので、GPSの位置情報により、ピンポイントの動きが24時間にわたってリアルタイムに把握できる。

公道や公共施設、公的な交通機関だけでなく、自宅やホテルの室内といった私的な空間での動きも把握でき、個人のプライバシーの領域に深く踏み込む情報にほかならない。

その意味で、(1)のように捜査当局が捜査関係事項照会で入手できる形式的な情報とは言えず、(2)や(3)のように裁判官の令状がなければ入手できない情報として分類されるべきだろう。

現に捜査当局は、裁判官から検証許可状と呼ばれる令状を取った上で、携帯電話会社が把握しているGPSの位置情報を入手している。

では、(2)から(3)の間のどのあたりに位置づけられるべきか。

(3)の通話内容に近いものということであれば、通信傍受の場合と同様に、当事者への通知などが求められるだろう。

この点、携帯電話各社のプライバシーポリシーでは、(3)と異なり、取得・利用できる様々な個人情報として「位置情報」を含めている。

実際にプリインストールアプリを経由してその情報を得ており、より(2)に近いものとしてとらえられている。

他方、昨年6月に改正されるまでの総務省のガイドラインでは、次のように規定され、やや(3)に近いものとしてとらえられていた。

電気通信事業者は…捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合において、当該位置情報が取得されていることを利用者が知ることができるときであって裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得するものとする。(26条3項)

そこで、携帯電話各社は、これまで端末のバイブ機能でスマホを振動させたり、通知音を出した上で、画面にも「位置情報が検索されようとしています」といった表示を出し、ユーザーに知らせてきた。

しかし、例えばアジトを転々とする振り込め詐欺の被疑者などの場合には、この告知を見て不審に思い、捜査を察知し、逃走したり証拠隠滅に及ぶおそれが高まる。

捜査当局にとってGPSの位置情報を極秘に入手することは“尾行”や“張り込み”と同じであり、これを捜査対象者に気づかれてしまったら、全く意味がない。

そこで、捜査当局の意向を踏まえ、政府がガイドラインの見直しを決め、総務省もガイドラインから「利用者に対する通知」という条件を削除した。

冒頭に挙げた報道に出てくる新発売のスマホは、こうしたガイドラインの改定を受けたものだ。

販売済みのスマホについても、アプリのアップデートなどによって、同様の対応がなされるはずだ。

それでも、事前に裁判官の審査を受け、令状を取った上で行わなければならない、という大前提には何ら変わりがない。

また、捜査当局が位置情報を入手しようとするのは、何らかの犯罪に関係した疑いのある人物やその周辺関係者にほかならず、その点に関する裁判官の判断も必要だ。

犯罪とは全く無縁の一般ユーザーの行動が捜査当局に筒抜けになるようなことはないので、過度に不安になる必要はない。

【特別な法律の必要性】

むしろ、本質的な問題は2点ある。

1つは、ユーザーがろくに見てもいない契約約款やプライバシーポリシーにより、“包括的な利用・提供の事前承認”がなされたとされ、ユーザーの知らないところで個人情報の利用や提供が行われているという点だ。

クレジットカードや各種保険、旅客運送などの契約約款にも同様の問題があり、現在、消費者保護の視点に立った規制づくりが進められている。

ユーザーの不安を解消するためには、契約約款やプライバシーポリシーについて、ショップ店員による一層丁寧な説明が求められるだろう。

もう1つは、プライバシーの領域に深く踏み込む「位置情報」の性質が、総務省の単なるガイドラインによってコロコロと変わってよいのか、という点だ。

警察が捜査対象者の車両にGPS発信機を取り付け、位置情報を把握するといった捜査も現に行われているが、その法的な性質や裁判官の令状を要するか否かについてですら、裁判所の判断が分かれている状況だ。

GPSという便利な道具の普及によって、現在のように個人の動きがピンポイントで簡単かつリアルタイムに把握できることなど、刑事訴訟法が制定された1948年当時には全く想定されていなかったからだ。

この点、肌身離さず持ち歩くスマホの位置情報を入手することは、よりプライバシー侵害の程度が大きく、捜査当局ですらも裁判官の令状を要すると考えている。

それでも、プライバシー保護とのバランスを考慮すると、通信傍受の場合と同じく、当事者に対して事後的に通知するといった対応を取ることも考えられてしかるべきだろう。

GPSの位置情報をキャッチし、捜査を進めてはみたものの、後になって捜査当局の見込み違いだと分かり、立件・起訴に至らないケースもありうるからだ。

むしろ、「通信傍受法」のように、国会における審議を経た上で、GPS捜査全般に関する特別な法律を作り、具体的な要件を定めておく方が望ましい。

捜査当局にとっても、位置情報の把握によって得られた証拠が将来の裁判で排除され、無罪になるかもしれないといったあいまいな状況よりも、むしろ使い勝手がよくなるのではなかろうか。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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