検察が刑事裁判で行っている「証人テスト」って、どんなもの?

(写真:アフロ)

証人尋問に先立ち、検察側が証人と打ち合わせを行うことがある。「証人テスト」と呼ばれるものだ。その実態について触れてみたい。

【証人テストの根拠】

刑事訴訟規則には、「証人の尋問を請求した検察官又は弁護人は、証人その他の関係者に事実を確かめる等の方法によつて、適切な尋問をすることができるように準備しなければならない」という規定がある(第191条の3)。

その準備の一環として証人尋問の前に行われるのが、「証人テスト」と呼ばれる証人との打ち合わせだ。

本来は法廷での証言が不慣れな証人から限られた尋問時間の中で十分な証言をしてもらうための手続であり、弁護側も弁護側証人については現に行っており、かつ、行うべきものと言える。

【様々な事件で検察が行ってきた証人テストの一端】

ただ、贈収賄事件のように関係者の供述が立証の柱となっているような事件では、検察も特に証人テストに気を使う。

自らの尋問事項をあらかじめ書面で用意するばかりでなく、弁護側や裁判所から出されるであろう尋問の内容まで想定した上で、証人と複数回にわたって入念な打ち合わせを行う。

多くは「問い」と「答え」という形で用意している尋問事項を順次尋ね、その返答を求めて内容を確認していくといったやり方だ。

こうした尋問事項書は、ワープロソフト「一太郎」や表計算ソフト「エクセル」などを使って作成する場合が多い。

その中で、検察にとってプラスの返答につながる尋問をいかにクローズアップさせるか、どのような設問の順序や組立て、山場の作り方が最も効果的かなどを検討する。

また、被告人の有罪立証や悪性立証に向けてマイナスの返答につながる尋問をいかに公判に出さないようにするか、仮に弁護側の尋問によって出さざるを得ないとしても、あらかじめ検察の尋問の中で何らかの合理的な説明を付けさせることでマイナスを少しでも減殺できないかといった点を検討し、尋問事項の改訂を進める。

場合によっては、証人に対し、「その点は、こちらから尋ねることはない。弁護側から尋ねられた場合には答えてもらうことになろうが、弁護人の質問をよく聞き、聞かれたことに限って答えるように注意されたい」といった指示を与えることもある。

捜査段階の供述調書と食い違った証言をしそうな証人については、その理由を吟味した上で、調書の内容に従って記憶喚起を図ったり、一から事情を聞き、再び自白を得るといった対応をすることもある。

「テスト」とは呼ぶものの、記憶喚起の作業はまさしく「取調べ」そのものであり、捜査段階の検察官の取調べで被疑者や参考人が警察での供述調書やそれまでに別の検察官が作成した供述調書と全く違うことを言い出した時、どのように対応するのかといった問題とも類似している。

そうした作業の結果、それでも証言を変えそうにない証人の場合には、法廷での証言態度や証言内容が信用できないものであるということを強調する一方、いかにして捜査段階の供述調書の方をより信用性のある証拠として裁判所に採用させるべきかを検討・準備する。

事案によっては尋問事項書のドラフトを幹部に上げて決裁を受ける必要もあるし、証人ともども「問い」と「答え」の内容を覚えこむくらいまでリハーサルを繰り返す場合もある。

過去には公判担当検事が尋問事項を覚えきれないという証人に対して尋問事項書の写しを渡していたケースが問題とされたこともある。

もちろん、事案の内容や証人、担当検察官などによってケースバイケースだし、中には捜査と全く違ったスタンスで真摯に公判に臨もうとする検察官もいる。

他方、多忙や手抜きでろくに証人テストをやらず、公判を乗り切ろうとする腹の座った検察官もいる。

ただ、先ほどのような多数回にわたる念入りな証人テストを見ると、もはや供述調書や他の証拠に基づく記憶の刷り込みに近くなってしまっているのが実態だ。

【検察による証人テストの問題】

問題の根底にあるのは、実質的には先に述べたとおり取調ベと同様のやり取りが行われている上、公判証言に時期が近く、捜査段階での取調ベ以上に証人に与える影響が大であるにもかかわらず、証人との具体的なやり取りが外部から見える形で記録として全く残されていないという不透明さだ。

証人が証人テストの中で新たに思い出した事実を供述し始めた場合、確かに検察にとってプラスに働くものであれば、証人尋問の中に盛り込んだり、別に供述調書を作成して証拠化を図るだろう。

しかし、それがマイナスに働くものであれば、よほどの重要証言(と検察が考えるもの)でもない限り、往々にしてそのまま「黙殺」されてしまう可能性も残る。

検察は、わざわざマイナスの事実を自らの尋問の中に積極的に盛り込もうとしないし、弁護側や裁判所が問題に気づかず、彼らの尋問にその話題が出てこなければ、真相はそのまま闇から闇となってしまう。

【問題の抜本的解決策】

現在、裁判員裁判対象事件や特捜事件など一部の事件の取調べで取調べの録音録画(可視化)が試行されているし、近く一部事件での可視化が義務付けられる見込みだが、基本的には逮捕勾留された被疑者に限られている。

しかし、事件の中身や被疑者・参考人といった対象者を問わず、任意・強制段階や起訴前・後といった時期を限定せず、証人に対する証人テストも含め、およそ検察官が誰かを取り調べる手続については、その全過程を録音録画し、証拠として保全しておくべきだろう。

これにより、事件関係者の供述の中から都合のよい部分のみを切り取って供述調書にしたり、証言させたりするといった恣意を防止するとともに、供述の押し付けなどを防ぐこともできる。

本当に任意の供述がなされているのであれば、こうした全面可視化の実施により、不当な言いがかりから現場の第一線に立つ捜査官らを守ることもできる。

特に証人テストの場合、既に捜査当局が十分に捜査を尽くして起訴した後の話であるし、公開の法廷で証言することが前提となっている手続である以上、捜査段階の取調べに比べると、全面可視化による弊害も乏しいはずだ。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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