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霜降り明星が「次世代のナインティナイン」であると思う理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

霜降り明星は2018年の『M-1グランプリ』で優勝して以来、破竹の勢いで快進撃を続けている。一時期は「お笑い第七世代」と呼ばれる新世代芸人のリーダー格のような存在になっていた。

霜降り明星が『M-1』を制した後、ツッコミ担当の粗品はピン芸日本一を決める『R-1グランプリ』(当時の表記は『R-1ぐらんぷり』)でも優勝を果たした。前人未到の二冠を達成して、その圧倒的な才能を世間に知らしめた。

霜降り明星が活躍しているのはテレビと舞台だけではない。YouTubeでも自身のチャンネルを持っていて、オリジナルの動画を配信しているし、東京と大阪それぞれでラジオの冠番組も持っている。特に『霜降り明星のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)は好調だ。2人の肩の力が抜けたフリートークが楽しめる。

動きの笑いを見せる岡村とせいや

彼らのラジオを長年聴いていて改めて思うのは、霜降り明星こそはナインティナインの正統な後継者ではないか、ということだ。ナインティナインの2人も、上京してから『ナインティナインのオールナイトニッポン』というラジオ番組を長年続けてきた。そこでは、東京のテレビの世界に足を踏み入れたばかりの2人が、仕事の裏話などを赤裸々に語っていた。

多忙な日々を過ごす霜降り明星が話すのも、仕事に関する話題が多い。少し前まで大阪のライブシーンを中心に活動していた2人が、現在では毎日のように収録現場で超大物の先輩芸人や芸能人と顔を合わせている。そこで味わった感動や焦りなどを熱をもって話す2人の姿は実に初々しくて面白い。まさに初期のナイナイのラジオと重なる。

また、ラジオではどちらかと言うとボケ担当の岡村隆史とせいやの方が饒舌にしゃべり、ツッコミ担当の矢部浩之と粗品が聞き役に回ることが多いというのも似ている。

ラジオ以外にも霜降り明星とナイナイには共通点がたくさんある。まず、ボケ担当の芸人が小柄で、動きの笑いを得意としているということだ。岡村とせいやはどちらも汗をかいて必死にもがくタイプで、一生懸命なのにどこか間が抜けているところが人々の笑いを誘う。「天性のコメディアン」という感じのキャラクターを持っていて、何とも言えない華がある。

さらに言えば、ものまねが上手いところも似ている。せいやはラジオでリスナーからの投稿ネタを読むとき、内容に合わせて芸能人の声真似をする。これがなかなか器用で面白い。岡村もラジオで声真似をすることが多い。

学生時代に出会った2組

また、学生時代に出会っているコンビである、という点も2組に共通している。ナイナイは高校のサッカー部の先輩と後輩の関係だった。矢部は後輩だったが、真面目なのにどこか抜けているところがある岡村に注目していて、コンビ結成を持ちかけた。

一方、粗品とせいやは、別々の高校に在籍していたが、学生向けのお笑いコンテストで火花を散らすライバル同士だった。お互いがその存在を認知していた。プロデビューは粗品の方が早かったが、せいやの才能を高く評価していた彼は、せいやを説得してコンビ結成を果たした。どちらのコンビも、ツッコミ担当がボケ担当の才能を認めていたことから始まっているのだ。

『めちゃイケ』で一時代を築いた

2組に共通するもう1つの要素は、既存のお笑い界を変革して、新しい時代を築く役割を背負っているということだ。ナイナイが上京した頃、彼らの先輩であるダウンタウンが破竹の勢いで東京のテレビに進出していた。ナイナイはしばしばダウンタウンと比較され、批判の対象になった。

言葉の笑いを得意とするダウンタウンと、動きの笑いを得意とするナイナイは、そもそも芸風が違うので単純に比較できるような存在ではない。だが、出てきた時期が時期だったため、勝手に「ポスト・ダウンタウン」の役割を期待され、「ダウンタウンに才能では及ばない」などと非難を浴びたりしていた。

だが、ナイナイは孤軍奮闘した。『ぐるナイ』(日本テレビ系)をはじめとするレギュラー番組を成功させて、確かな地位を確立した。特に『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)は、ダウンタウンの笑いとは違う種類の笑いを追求する番組として人気を呼び、一時代を築いた。ナイナイという存在が、ダウンタウン一色だった時代の空気を変えた。

「お笑い第七世代」が時代を変えた

霜降り明星も「お笑い第七世代」という言葉を旗印にして、新しい世代の芸人であることを事あるごとにアピールしていた。それは彼ら自身の想像を上回るほどの反響を巻き起こし、テレビや雑誌でも「お笑い第七世代」というテーマで特集が組まれるようになった。上の世代の芸人にとっては、自分たちが時代遅れだと言われているようでいい気はしなかったかもしれないが、彼らの戦いには大きな意味があった。

霜降り明星が出てくる少し前、お笑い界にはやや閉塞感があった。テレビで主力となっている芸人が軒並み高齢化していたからだ。主に出ているのは30代後半から40代の芸人だった。10~20代の若手芸人が出てきても、その輪になかなか入ることができない。一般企業と同様に、お笑い界にも年功序列の風潮が蔓延していて、新しく生きのいい若手が出てくるのは難しいだろうと言われていた。

ところが、霜降り明星がその流れを打ち破った。『M-1』『R-1』の優勝で実力を証明して、天下取りに名乗りを上げた。これに呼応するように同じ世代の芸人が何組も新たに出てきていて、お笑いシーンは一気に活性化した。

ナイナイと霜降り明星の最大の共通点。それは、時代を背負う者であり、時代を動かす者になりうるということだ。霜降り明星がこれからどうなるかは未知数だが、規格外の大型新人ということで期待が高まるのは当然だ。偉大な先輩であるナイナイがかつて成し遂げたように、お笑い界に風穴を空けて、新しいシーンを作っていってほしい。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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