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千鳥が驚き、ダウンタウンが絶句した「地下ライブの帝王」ランジャタイが意外とテレビ向きな理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

数年前にお笑いライブを見ていて気になった芸人がいた。おとなしそうな2人の男が普段着のような服装で舞台に上がり、片方が自分の妄想の世界に入り込み、奇声をあげて舞台を跳ね回る。もう一方は棒立ちのままでそれを見守りながら状況説明を加えていく。

特殊すぎる彼らの漫才は、当時は当たり外れが激しい印象があった。ウケるときは爆発的にウケるのだが、空気をつかめずにウケないまま終わってしまうことも多かった。

だが、彼らは頑なにその芸風を変えなかった。自分たちの漫才スタイルを貫いているうちに、少しずつウケ具合のムラがなくなり、大ウケすることが増えてきた。

奇抜な漫才に審査員は困惑

そして昨年末、彼らはついに『M-1グランプリ』の決勝の舞台にこぎつけた。地下ライブの世界で密かに人気を誇っていたランジャタイがついに地上に名乗りを上げたのだ。

一昨年の『M-1』では、型破りな漫才を見せたマヂカルラブリーが優勝して「あんなのは漫才ではない」と批判する人が続出していたが、ランジャタイに比べればまだまだかわいいものだった。

『M-1』決勝の大舞台でランジャタイが見せたのは、ボケの国崎和也の耳の穴から猫が入り込んでいくという奇抜な設定の漫才だった。ツッコミの伊藤幸司は猫と格闘する国崎を温かく見守っていた。

ランジャタイの暴走に審査員一同は頭を抱えた。この奇抜すぎる漫才をどう評価すればいいのか、審査員の間でも評価が分かれた。事務所の先輩でもあるサンドウィッチマンの富澤たけしは「決勝だぞ、お前ら」と一喝し、松本人志は「見る側の精神状態によりますよね」とコメントした。

国崎はネタの前後にも終始ふざけた態度をとっていて、隙間なく小ボケを連発。手製のオール巨人の等身大パネルを持ち込んでボケるなど、『M-1』という大会そのものをおちょくるようなパフォーマンスで強烈な印象を残した。

悪ふざけの極みのように見える彼らの漫才だが、年々爆笑が起こる確率が上がっていたのは、国崎の演技力や表現力に磨きがかかっていたからだろう。

バラエティ番組でもやりたい放題

その後、ランジャタイをバラエティ番組で目にする機会も増えてきた。伊藤は『相席食堂』のロケでボブカットの髪の毛をバッサリ切り落とし、角刈りになってMCの千鳥を驚かせた。国崎は『ダウンタウンDX』でほかの芸人が話したのと全く同じ話を2回繰り返して、ダウンタウンをあきれさせた。

テレビで萎縮して持ち味を出し切れない若手芸人も多い中で、地上波のテレビでも堂々と「地下ライブ」のノリを貫くランジャタイは、意外とテレビ向きの芸人なのかもしれない。

ランジャタイの笑いを楽しむコツは、ブルース・リーの言葉を借りるなら「考えるな、感じろ」。一度ハマったら抜け出せない蟻地獄のような笑いがあなたを待っている。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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