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ずん・飯尾和樹、阿佐ヶ谷姉妹……見るだけで癒やされる「ゆるふわ中年芸人」が人気の理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

ずんの飯尾和樹は、外見も至って普通のアラフィフ中年芸人だ。「ぺっこり45度」「忍法メガネ残し」「屈伸ついでにレディー・ガガ」などの脱力系ギャグの使い手としても知られる。

現在、そんな飯尾の勢いが止まらない。バラエティ番組での活躍はもちろん、総務省やメルカリなどのCM出演の仕事も多く、役者としても数々のドラマに出演している。4月からは日本テレビの朝の情報番組『ZIP!』の水曜パーソナリティに就任することも発表された。いまやテレビで見ない日はないほどの人気ぶりなのだ。

同じくアラフィフ枠の女性芸人としていま注目を集めているのが阿佐ヶ谷姉妹である。阿佐ヶ谷姉妹は、その名の通り阿佐ヶ谷在住の渡辺江里子と木村美穂のコンビ。血はつながっていないが、見た目が似ていると言われることも多く、少し前までは同じアパートの一室で共同生活を送っていた。

彼女たちの売りは「おばさんキャラ」である。ネタを演じたりバラエティ番組に出たりするときには、見た目や言動が一般的な「おばさん」のイメージそのままであることを巧みに利用して笑いを取っている。4月からはテレビ朝日で彼女たちの冠番組『阿佐ヶ谷ワイド!!』も始まる。

昨今のお笑い界では「第七世代」と呼ばれる若い芸人が次々にスターになっていった。見た目も華やかな若手芸人には、若者を中心に多くの人の注目が集まりやすい。

一方、飯尾や阿佐ヶ谷姉妹のような「ゆるふわ中年芸人」には、第七世代の芸人のような若さや華やかさがあるわけではない。なぜ彼らのようなゆるふわ中年芸人がいま支持されているのだろうか? それを解くためのキーワードは「優しさ」と「日常感」である。

視聴者は「癒やし」を求めている

今の地上波テレビの視聴者の多くは、テレビに癒やしを求めている。現在、視聴者の大半は高齢者であり、刺激的なものを見たいとは思っていない。エンターテインメントとして過激なものや下品なものを求める人は、地上波以外の場所でいくらでもそれを楽しむことができる。

お笑い界にもその影響は及んでいる。最近、人気を博しているのは、人柄の良さで知られるサンドウィッチマンや、相手を否定しない「優しいツッコミ」の使い手であるぺこぱなどである。いずれも面白さに加えて優しさが評価されているタイプの芸人なのだ。

さらに、出口の見えないコロナ禍によって、人々が癒やしを求める風潮はますます強くなっている。他人をいじったり傷つけたりすることがなく、言葉遣いや発言にも品があり、見ているだけで心が温かくなるようなゆるふわ中年芸人は、今の時代にこそ必要とされている存在なのだ。

ささやかな日常に喜びを見出す

また、飯尾と阿佐ヶ谷姉妹に共通するのは、一般人には手の届かないスターというイメージが全くなく、庶民的な暮らしをしているのを公言していることだ。阿佐ヶ谷姉妹の2人は、いまだに阿佐ヶ谷の庶民的なアパートの隣同士の部屋で暮らしており、近所で買い物をして料理をするような生活をしている。

コロナ禍で外出自粛やリモートワークが多くなり、多くの人は家にいる時間が増えた。そのことによって、当たり前の日常の価値に改めて気付いた人もいるのではないか。

平凡な日常を心から楽しんでいる彼女たちの姿を見ていると、私たちが当たり前のように過ごしている日々の中にも、ささやかな幸せや喜びが隠れているということが実感できる。

誰もが「おじさん」「おばさん」と呼ばれる時代

かつての日本で「おじさん」や「おばさん」に悪いイメージがあったのは、若者の人口が多く彼らに存在感があったからだ。超高齢社会を迎えている現代では、いまや国民の大半がおじさんやおばさんと呼ばれる存在になっている。

その与えられた属性を無理に否定するよりも、おじさんやおばさんとしてどう前向きに生きるべきかが問われる時代になった。飯尾や阿佐ヶ谷姉妹はその模範解答の1つである。

ゆるふわ中年芸人は、超高齢社会に不安を抱え、コロナ禍に疲弊した日本人の心を癒やす一服の清涼剤なのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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