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『サンデー・ジャポン』で田中裕二の代役MCを務めた上田晋也が輝いていた理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

新型コロナ感染拡大の影響により、タレントがテレビに出られなくなるケースが増えている。レギュラー番組では一時的に代役が立てられることが多い。たとえば、朝の帯番組『ラヴィット!』のMCである麒麟の川島明がコロナ陽性で休業に入った際には、アンタッチャブルの柴田英嗣、アインシュタインの河井ゆずるなどの芸人が日替わりで代役を務めた。

「代役MC」と聞くと思い出されるのが、2021年1月24日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS)である。この日、脳梗塞で入院した爆笑問題の田中裕二の代役として、くりぃむしちゅーの上田晋也がサプライズ出演を果たしたのだ。

田中の相方である太田光は、上田と2人で『太田上田』(中京テレビ)という番組にも出演しており、昔から付き合いの深い盟友である。

番組冒頭、太田が「日本一のMCが来てくれました」と上田を呼び込んだ。太田以外の出演者には、田中の代役として誰が出てくるのか知らされていなかったため、スタジオ中が騒然となっていた。

上田は、初めて仕切る番組とは思えないほど、生き生きとした立ちふるまいを見せていた。上田が得意の「例えツッコミ」を放ち、太田がそれにわざと大げさに感心してみせると「粒立てるな」と釘を刺したりすることもあった。

扱うニュースの内容も出演者の顔ぶれもほとんど変わっていないのに、司会が変わっただけで別の番組のような雰囲気になっていた。

MCとしての上田の強みは、押し引きの加減が絶妙なところだ。基本的には決まった流れに沿って番組を進行させていくのだが、それがあまり冷たい印象を与えない。自分にスキを作り、共演者にイジられると受け身をとったりするので、和やかな雰囲気がかもし出される。

MCの1人である山本里菜アナウンサーから上田に対して「将来、熊本県知事を狙っている上田さんは、何かないですか?」といったイジりが飛び出すこともあった。恐らくこれは台本としてあらかじめ用意されていたものだろう。

イジられる余白を残しながらも、強気に番組を進めていく。ときには「例えツッコミ」を駆使して自分から笑いを取りに行くこともあるが、決してでしゃばりすぎない。生放送の司会を突然任されて、ここまでスムーズにのびのびと仕事をこなしていること自体が奇跡的である。

言うまでもなく、上田は現役の芸人MCの中でも最高峰の実力と実績を誇っている。バラエティ色の強い番組からスポーツ番組や硬い番組まで、幅広いジャンルに対応できる能力を持っている。

司会者というのは普段は目立たない存在だ。特に、上田のように常に数多くの番組を持っているような人は、その存在があまりにも日常に溶け込んでいるため、改めてその存在が脚光を浴びることもない。

上田晋也は司会が上手い。当たり前すぎてもはや誰も意識して考えなくなっていたそんな事実が、代役として出演したこの機会に改めて浮き彫りになった。すごいと思われなくなることが一番すごい。一流の職人の仕事とはそういうものなのだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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