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子供向けYouTubeチャンネルも大人気! 「一発屋予備軍」小島よしおが生き残った理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

小島よしおと言われて多くの人が連想するのは、海パン一枚の姿で「そんなの関係ねえ!」というフレーズを繰り返しながら踊る奇抜なパフォーマンスだろう。そのギャグで小島が世に出たのは2007年のこと。当初は「一発屋予備軍」などと揶揄されることもあったが、それから15年が経った今でも、彼はしぶとく活躍を続けている。

最近では、自身のYouTubeチャンネル「おっぱっぴー小学校」で公開している子供向けに勉強をわかりやすく面白く教える動画が評判を呼んでいる。浮き沈みが激しいと言われる芸能界で、小島はなぜ生き残ることができたのだろうか?

小島は早稲田大学在学中にお笑いサークルに所属していた。そのサークルから派生して、5人組のお笑いユニットが誕生した。小島もその一員だった。5人はコントグループ「WAGE」として芸能事務所にも所属して、プロデビューを果たした。のちに『キングオブコント』で優勝するかもめんたるの2人もWAGEのメンバーだった。

しかし、メンバーの方向性の違いから2006年にWAGEは解散してしまった。ここで小島は窮地に追い込まれた。なぜなら、メンバーの中でネタ作りを担当していたのは小島以外の人だったからだ。小島は、自分でネタをまともに作った経験もないまま、1人で放り出されてしまった。

それでも、お笑いが好きだった彼はピン芸人として再起を決意。そして、自分の武器は何なのかということを必死で考え抜いて、「そんなの関係ねえ」のネタを生み出した。

文字通り、「細かいことは気にせずに勢いだけで突き進んでいくぞ」という、新たな一歩を踏み出した小島さんの決意が感じられる見事な作品だった。そんな純粋な思いが世間の人たちの心を動かしたのだろう。2007年にこのネタで一躍ブレーク。年末には『ユーキャン新語・流行語大賞』のトップテンにも選ばれた。

あえて子供だけにターゲットを絞る

裸同然の姿で演じる勢い任せのパフォーマンスは、当時から賛否両論だった。彼の面白さを理解できない人からは「どうせすぐ消える」「一発屋になる」などと批判の声が上がっていた。人気に火がついて上り詰めるまでの勢いがすさまじかったからこそ、そこから落ちていくときの反動も強烈だ。そのショックで立ち直れなくなってしまった人は、のちに「一発屋」の烙印を押されてしまう。

しかし、小島はここで奮起した。「なまはげ伝道師」などのさまざまな資格を取ったり、新しいギャグやネタを試したりしながら、次の道を探っていた。そして、「子供をターゲットにする」という戦略を思いついた。もともと、小島の芸風は子供たちから絶大な支持を受けていた。

営業に行ったりすると、客席の中で小島の動きを真似る小さい子の姿を見かけることも多かったという。どちらかと言うと子供に人気があるという現状を踏まえて、徹底して子供に合わせたネタとキャラを作っていくことにした。これはかなり思い切った方針転換だった。なぜなら、前例があまりなかったからだ。

でも、小島はあえてその道を選んだ。

子供向けと銘打った単独ライブを開催して、客席の子供たちの反応を確かめながらネタを練り上げていった。また、子供をライブに連れてくるのは親の役目だ。そんな親たちが自分の子を連れて行きたいと思えるように、好き嫌いせずに何でも食べようというメッセージを込めた「ごぼうのうた」「ピーマンのうた」という歌を作ったりした。ここまで徹底して子供向けにシフトしていったことで、小島は確実に新しい世代の子供のファンを増やしていった。

ピンチをチャンスに変えて成功をつかむ

私が小島に取材をしたとき、彼が「ピンチはチャンスだと思っている」と語っていたのが印象に残っている。ピンチを目の前にしたとき、普通の人なら多少は慌ててしまうものだが、小島は一切動じない。それは、古くなった今までのノウハウを捨てて、新しいやり方で成功をつかむための絶好の機会がめぐってきた、ということにほかならないからだ。

WAGEが解散したときにも、人気が急落したときにも、小島はピンチをチャンスに変えて道を切りひらいてきた。その裏にあるのは圧倒的なポジティブ・シンキング。その前向きな明るさこそが小島の最大の武器なのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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