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25年ぶりテレ東特番MCも話題に! 司会者としての中居正広の魅力とは?

ラリー遠田作家・お笑い評論家

10月31日、テレビ東京で『中居正広のただただ話すダーケ』という番組が放送された。この番組で中居は、25年ぶりにMCとしてテレビ東京に出演することになった。

車座になった出演者たちが「お互いの下の名前を言えるか」「昨日の夕食に何を食べたのか」といった他愛もないテーマについてゆるい雰囲気で語り合う異色のトーク番組だった。中居はバラエティ番組でMCとして仕切り役を担うことが多いのだが、この番組ではあえて力強く仕切るような態度を見せず、ゲストが話しやすい空気を作ることに徹していた。

『NHK紅白歌合戦』で史上最年少MCに

2016年12月にSMAPが解散して以来、中居は個人単位で芸能活動を続けている。その大半はMCの仕事だ。今でこそ、バラエティから朝の情報番組まで幅広い分野でジャニーズアイドルがMCを務めるのは珍しいことではなくなったが、中居はその先駆者だった。

それ以前のジャニーズアイドルは「王子様」のような手の届かない存在とされていたため、MCとしてバラエティ番組などの中心的な存在になることはなかった。初めてバラエティ番組に本格進出したアイドルであるSMAPのリーダーだった中居は、MC業を自らの使命として、腕を磨いてきた。

1997年には初めて『NHK紅白歌合戦』の司会を担当して、テレビMCの頂点に上り詰めた。この時点で中居はまだ25歳。男性では史上最年少の紅白司会という快挙だった。

温かさと冷たさを使い分けるMC術

バラエティ番組のMCとしての中居の立ちふるまいを見ていると、温かさと冷たさの両方を感じられる。

温かさとは人間味にあふれた部分だ。これは、中居のヤンキー的な人付き合いの手法によるものだろう。ヤンキーの世界や体育会系の世界では、上下関係が絶対的なものである。

中居は芸能界でも先輩と後輩をはっきり区別して、先輩には礼儀をわきまえつつ、あえてやんちゃな部分を出して甘えてみせる。そして、後輩にはあえてスキを見せながら強気に振る舞うことで親しみを感じさせるのだ。

例えば、笑福亭鶴瓶と絡むときの中居は実に生き生きしている。鶴瓶が言いよどんだり弱みを見せたりすると、すかさずツッコんだりイジったりする。これは一見すると強く出ているように見えるが、実際には全面的に相手を信頼して甘えているのだ。だから頼られる先輩の方も悪い気がしない。これまでにも中居は、タモリ、石橋貴明、松本人志など、そうそうたる顔ぶれの先輩たちとバラエティ番組で絡んできている。そこではかわいい後輩として上手く立ち回っている。

ただ、後輩と絡むときにはまた別の一面を見せる。同じ事務所の後輩にはバラエティでも容赦なく冷たく当たり、徹底的にイジり倒す。自分よりキャリアの浅い芸人に対しても、強気でガンガン攻めていって、運動部の先輩のような調子でからかってみせたりする。

2012~2019年に放送されていた『ナカイの窓』(日本テレビ)では、日替わりサブMCというシステムが採用されていて、MCである中居の隣には毎回違った芸人が出ていた。山里亮太、近藤春菜、陣内智則などがこの番組でサブMCを務め、中居にイジられてきた。

『ナカイの窓』では、中居が主導してときに芸人に対してきついドッキリを仕掛けることもあった。でも、それは愛情の裏返しでもある。裏番組に出ていた山里が復帰するときには、中居が怒っていると聞かされていた山里が恐る恐る中居に歩み寄ると、中居は笑顔になって山里を抱き締めた。その瞬間、山里は感極まって目に涙を浮かべていた。

一方、中居には一種の冷たさを感じることもある。冷たさというのは決して悪い意味ではなく、番組を進行させるMCには不可欠の能力だ。出演者やスタッフの言うことを全部聞いてそれに従っていたら、番組はまともに進んでいかない。MCにはそれらの取捨選択をする権限があり、そこが腕の見せどころなのだ。

視聴者の立場で内輪ノリを許さない

今の時代、芸人がバラエティ番組を席巻していて、その場では芸人同士の内輪ノリが支配的になっている。でも、中居はあえてそこに加わらず、ときには冷たく突き放すことがある。なぜなら、それこそが見ている人にとってはリアルだからだ。芸人同士のノリよりも、MCとしての職務を優先する。彼は冷たいのではなく、テレビを見ている人に温かいだけなのだ。

中居は、シリアス系の番組のときには襟を正して、締まりのある進行をする。一方、バラエティ番組で場の雰囲気がゆるんでいるときには、あえて強気に振る舞って活を入れることもある。そのさじ加減が絶妙なのだ。彼はこれからもMCを自らの職務として、テレビという戦場で生きていくのだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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