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YouTube登録者数134万人!「キングオブ筋肉芸人」なかやまきんに君が人気の理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

世は空前の筋肉ブームである。トレーニングで筋肉を鍛えるのはごく一部のボディビル愛好家だけ、という時代は終わった。今では多くのプロスポーツでウェイトトレーニングが導入されているし、一般の男性だけでなく女性がスポーツジムで筋トレに励む姿も珍しいものではなくなった。

2018年には武田真治らが出演する『みんなで筋肉体操』(NHK)というミニ番組が話題になり、番組内で出てくる「筋肉は裏切らない」というフレーズがユーキャン新語・流行語大賞の候補にも選ばれた。武田をはじめとして、最近では筋肉を売りにするタレントも増えている。

特に、お笑い界では筋肉を鍛える芸人が続々と現れている。直近2回の『M-1グランプリ』で優勝したミルクボーイの駒場孝、マヂカルラブリーの野田クリスタルはいずれも筋肉芸人だ。かつては体を鍛えることに否定的だったダウンタウンの松本人志ですら、現在はボディビルダー並みの筋肉量を誇っている。

そんな中で、筋肉芸人の先駆けとも言える存在がなかやまきんに君である。彼はその芸名の通り、分厚い筋肉とそれを利用した芸だけを売りにして活動を続けてきた。筋肉一筋20年。彼こそは筋肉芸人のパイオニアであり、トップランナーである。

きんに君が2019年9月1日に放送された特撮ドラマ『仮面ライダーゼロ』(テレビ朝日系)に出演したとき、ネットでは大きな話題になった。彼は人型ロボット・ヒューマギアの「腹筋崩壊太郎」という役柄を演じた。

腹筋崩壊太郎は上半身裸で、黒の短パンにサスペンダーと黒の蝶ネクタイのみ、という異様な外見。彼は芸人として遊園地のイベントに出演して、自分の腹筋を吹き飛ばすギャグで観客を笑わせていた。

しかし、悪の組織「滅亡迅雷.net」の策略によってデータを書き換えられた腹筋崩壊太郎は暴走して、人間に牙をむくことになった。

筋肉芸人として活動している彼にとって、今回の役柄はまさにハマり役だった。腹筋を崩壊させるギャグはドラマ内では派手なCGで表現されていたが、やっていること自体は普段の彼とそれほど変わらない。いい意味で派手さと幼稚さのある彼の芸が、子供向け特撮ドラマの世界観に見事にマッチしていた。

最終的には仮面ライダーゼロワンに撃破されてしまった彼のことを惜しむ声は多く、「腹筋崩壊太郎ロス」という言葉もツイッターのトレンドワードになった。

なかやまきんに君は芸人の中でも「キワモノ」というイメージがあるかもしれないが、実は早い時期からその才能を認められて売れていたスーパーエリート芸人でもある。彼は吉本興業のお笑い養成所『NSC大阪』の22期生だった。同期にはキングコング、山里亮太、ダイアンなど才能あふれるメンバーがいた。だが、この中でテレビに出たのが一番早かったのはきんに君だった。

在学中に当時の大人気番組『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)に出演した。筋肉ムキムキ一点突破の斬新なキャラクターは、早い段階でテレビ業界にも評価されていた。その後は、ネタ番組でギャグやネタを披露するかたわら、スポーツ系の番組でも頭角を現すようになった。

『スポーツマンNo.1決定戦』(TBS系)では、芸能人大会で前人未到の4連覇を達成した。彼の筋肉は見掛け倒しではなく、本物の「使える筋肉」でもあることが証明された。

2006年、人気絶頂だった彼は突然、芸能活動を休止して「筋肉留学」に出かけた。筋トレの本場であるアメリカのロサンゼルスに行って、筋肉を鍛えつつ、現地のテレビや映画にも出演しようと考えたのだ。

だが、入学した学校では勉強に追われてトレーニングが疎かになり、アメリカの生活も肌に合わなかった。4年半の筋肉留学から帰ってきた彼の肉体はガリガリにやせ細っていた。「筋肉留学」では苦い挫折を味わうことになった。

だが、そんな苦難を乗り越えて、現在では肉体美を復活させ、ボディビルの大会でも入賞するなどの活躍を見せている。

彼のYouTubeチャンネル『ザ・きんにくTV 【The Muscle TV】』は登録者数134万人(2021年9月19日現在)を超える人気を誇っているし、10月には彼の「筋肉哲学」を伝えるメッセージが多数収録された『なかやまきんに君の【日めくり】パワー! ワード!』(ワニブックス)も発売される。

筋肉芸人が増えた今でも「筋肉と言えばなかやまきんに君」というイメージは定着している。潔く筋肉だけに人生を捧げている彼の芸は、圧倒的に力強くて面白い。「キングオブ筋肉芸人」が真価を発揮するのはまだまだこれからだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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