霜降り明星が「ポスト平成」のスター候補である理由

3月15日、私の著書『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)が出版された。「ビートたけしバイク事故」「タモリ『笑っていいとも!』終了」など、14の事件を題材に平成のお笑い史を振り返るという内容だ。

昨年8月には『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』 (イースト新書) という著書も出ている。この本では『とんねるずのみなさんのおかげでした』『めちゃ×2イケてるッ!』終了などを切り口にして、現在のテレビバラエティとはどういうものか、それは今後どうなるのか、ということについて書いた。

この2冊はちょうどお互いを補完し合う内容になっていて、両方で1つの「平成テレビ論」を形成している。2冊を読むことでテレビとお笑いの過去・現在・未来が見えてくるのではないかと思う。

これらの本の執筆を通して、平成のお笑いについて改めて思うところがあった。平成が始まった1989年頃と平成が終わろうとしている2019年の現在を比べてみると、お笑い界の空気は全く異なっている。その最大の違いは、テレビに出る芸人の数が爆発的に増えたことと、その中の上下関係がはっきりしたことである。

1989年時点のお笑い界はもっと混沌としていた。昭和の終わりにお笑い界を席巻したのは、タモリ、ビートたけし、明石家さんまの「お笑いビッグ3」だった。彼らの出ている『笑っていいとも!』『オレたちひょうきん族』は時代を象徴する大ヒット番組だった。

だが、平成に入る頃には、そんな彼らの勢いにも陰りが見えていた。さんまは女優の大竹しのぶと結婚したことで守りに入るようになり、人気が急落。『オレたちひょうきん族』も1989年10月に終了してしまった。

彼らに代わって台頭してきたのが、とんねるず、ウッチャンナンチャン、ダウンタウンの「お笑い第三世代」である。彼らは若い世代に絶大な支持を受けて、天下取りに名乗りをあげていた。また、彼ら以外にも志村けん、山田邦子などがゴールデンに冠番組を持っていた。

このぐらいの時期までは、下の世代の芸人は上の世代を打ち倒してのし上がろうとしていた。たけしやさんまも、ライバルであるドリフや萩本欽一に対抗心をむき出しにして、その笑いを否定しようとしていた。『オレたちひょうきん族』の人気が絶頂期にあった1984年にはさんまが雑誌の取材でこんなことを言っていた。

"お笑い"ちゅうもんをわかってない番組が多い思いますわ。見てられまへんで。そんなんばっかりやから"ひょうきん"がウケルんちゃいますか。欽ちゃん(萩本欽一)の番組にしてもそうですわ。なんで、あれだけ視聴率がいくんやろか。萩本さんの偉大なんは認めますけど、どう考えても"ひょうきん"のほうがオモロイですわ。

出典:『週刊ザテレビジョン』1984年4月27日号/角川書店

先輩芸人にこの程度の噛み付き方をするのは当時は普通のことだった。出始めの頃のとんねるずやダウンタウンも、上の世代の芸人に噛み付き、その笑いを否定しようとしていた。そうしなければいつまでも自分たちの時代が来ないという危機感もあったのだろう。

平成に入ると、ダウンタウンが勢力を拡大して、覇権を確立した。その後、下の世代の芸人はどんどん出てくるようになったが、先輩に堂々と歯向かうような人は出てこなくなった。

同じ世代の芸人同士の関係も昔ほどピリピリしていない。ひな壇番組などが増えて、テレビに出る芸人は互いに助け合うシステムが確立されている。表面上で対立しているように見せる場面はあっても、基本的には誰もが仲良く和気あいあいとするのが普通になってしまった。

目上の人に噛み付くような芸人はほとんどいない。西野亮廣が岡村隆史を批判した件、中田敦彦が松本人志の発言を批判したとされる件など、たまにそういうことがあると、まるで大犯罪のような扱いを受けてしまう。

そんな平成時代に起こったのが、さんまが後輩芸人から「お笑い怪獣」と呼ばれるようになったこと、そしてタモリが「タモさん」と呼ばれるようになったことだ。どちらも目上の芸人に対する無条件の敬意の表れである。格差はもう固定化されていて、下剋上は起こらない。いや、起こしてはいけないのだ、という風潮が蔓延している。

そんな平成が終わろうとしている今、新世代の旗手として登場したのが霜降り明星だ。彼らは20代半ばという若さで『M-1グランプリ』優勝を果たし、そのわずか3カ月後にツッコミ担当の粗品は『R-1ぐらんぷり』でも優勝を果たした。『M-1』『R-1』の二冠は史上初の快挙である。

お笑いコンビというものは、お互いの信頼関係や仲の良さについて公言しないことが一般的だった。だが、霜降り明星はそれを隠さない。2人ともお笑いに対する姿勢がピュアで、照れもなく熱いことを言ってお互いを励まし合っている。上の世代にないこの感覚は新鮮だ。

礼儀正しいお笑い優等生である彼らは、決して上の芸人に噛み付くような真似はしない。だが、彼らは取材などでも「同世代の芸人で新しいものを作っていきたい」などということを語っている。また、芸人だけではなく、同世代のミュージシャンやユーチューバーとも一緒に何か仕掛けていきたい、とも言っていた。自分たちの世代で世の中を盛り上げていきたいという気概があるのは頼もしい。

平成が終わろうとしている今ようやく「新世代」を背負って立つ芸人が出てきた。いつの時代も新しい文化を作るのは若者である。お笑い界でもそれができないはずはない。平成の次の時代は、彼らの時代になるだろう。