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アキラ100%、バイきんぐ――「SMA芸人」が強い3つの理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

2月28日に行われたピン芸日本一を決める大会『R-1ぐらんぷり2017』で優勝したのは、SMA(Sony Music Artists)所属のアキラ100%だった。実は、昨年の同大会で優勝したハリウッドザコシショウもSMAに所属している。また、最近テレビで活躍しているバイきんぐの2人も同じだ。また、『R-1』では、今年も決勝に進んだマツモトクラブをはじめ、キャプテン渡辺、おぐ、AMEMIYAなど数多くのファイナリストを輩出してきた。

SMAはもともと奥田民生、CHEMISTRY、木村カエラなどのアーティストが所属する音楽系の事務所として知られてきた。お笑い部門を始めたのは2005年であり、ほかのお笑い系事務所に比べると後発である。実際、一昔前までは、吉本興業、松竹芸能、ワタナベ、ホリプロなどの大手と比べると、芸人の質・量ともに後れを取っているところはあった。

ところが最近では、『R-1』でも2年連続で優勝を果たすなど、目覚ましい活躍をする芸人が徐々に増えてきている。今なぜこんなにもSMA芸人は強くなったのか?

その理由は大きく分けて3つあると考えられる。1つは「来る者拒まず」の独特の育成システムだ。大手事務所では、自前の芸人養成所を運営している。そこでは、ネタ見せなどの授業が行われ、芸人志望者たちが切磋琢磨して芸を磨いていく。そして、その中で結果を残した者が正式に事務所に所属できることになる。

一方、SMAには養成所がない。芸人たちはオーディションを受けて、それに受かれば所属することが許される。間口が広いのでいろいろな人が気軽に入ってくることができる。SMAの芸人の中には、他の事務所からの移籍組も多い。他の事務所をクビになったり、事情があって辞めたりした芸人が、SMAの門を叩く。だから、SMAの芸人の中には芸歴が長く、年齢が高い人も大勢いる。新興の事務所の割には芸人同士のつながりは深く、経験も蓄積されている。彼らの中には「ここを辞めれば、もうあとがない」という意識がある。そう思ってハングリー精神を発揮して、芸に磨きをかけていくことで日々成長している。

2つ目の理由は、SMAが「Beach V(びーちぶ)」という自前の劇場を持っている、ということだ。大手事務所であっても、自前の劇場やライブハウスを持っているところは実はそれほど多くない。SMAには「びーちぶ」という劇場があり、ここで毎日ライブが行われている。立地は、東京メトロ有楽町線千川駅から徒歩30秒。駅に近くて利便性はいいが、周辺は住宅地で、商業施設はほとんどない。都内にあるお笑いの劇場はその大半が新宿、中野、渋谷、下北沢などの歓楽街にあることを考えると、千川は異境の地だ。

SMAの芸人は、ここを拠点として自らの芸を磨いている。それが彼らを鍛えることにつながる。なぜなら、SMA芸人は年齢が高いし、会場もアクセスしやすい歓楽街から離れているので、観客にも若い人が少ないのだ。私自身、何度か足を運んでいるが、新宿などで行われている一般的な若手芸人のライブとは明らかに客層が違う。概して、若いお客さんはよく笑うし、リアクションもいい。しかし、それに比べて年齢層が高いとどうしても空気が重くなりがちだ。

また、ある芸人はこんな噂話を聞かせてくれた。びーちぶという会場は、音楽のライブハウスから改築されているので、壁が音を吸収しやすくなっているというのだ。だから、芸人の声も聞き取りづらいし、たとえ観客が大笑いしても笑い声が芸人に届きにくい。つまり、たとえウケていてもそれが舞台の上にいる芸人には実感しづらいのだ。これが事実ならば、相当過酷な環境であるに違いない。

だからこそ、彼らは「ウケた」という手応えを得るために、より大きな笑いを起こそうと必死になる。そのことでSMA芸人は鍛えられるので、声も大きくなるし、笑わせる力も高まっていくというのだ。どこまで本当の話かは分からないが、複数の芸人から似たような噂は聞いたことがあるので、舞台に立つ芸人の間では実感としてある程度は共有されている話なのだろう。

さらに、3つ目の理由として、ソニーの芸人は甘やかされることがない。大手事務所では、自社で番組を制作していたり、先輩芸人がテレビでMCを務めたりしている。だから、そこに同じ事務所の若手芸人が出演するチャンスがめぐってくることがある。しかし、SMAの芸人にはそのような優遇措置が一切期待できない。そのため、彼らは、『M-1』『R-1』などの賞レースをテレビに出るための唯一のチャンスと考えて、そこに全精力を注ぎ込む。そして、一発逆転に望みをつなぐのだ。

思えば、ハリウッドザコシショウもアキラ100%も、裸一貫で舞台に立ち、自らの肉体をさらけ出し、恥も外聞も捨てて笑いを取る独特のスタイルで優勝を果たしている。あれが雑草育ちのSMA芸人のやり方だ。『キングオブコント』優勝をきっかけにテレビに出始めて、SMA芸人の中でも一番の出世頭となったバイきんぐの小峠英二も「なんて日だ!」に代表される力強いツッコミが持ち味だ。あの独特すぎるツッコミ芸も、びーちぶという特殊な環境の中でガラパゴス的に進化して生まれたものなのだろう。SMA芸人の快進撃はまだまだ続きそうだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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