K-POPはなぜ「日本語」でも歌うのか BTS新アルバムは世界中で大ヒットを記録

(写真:Splash/アフロ)

BTSのニューアルバム『MAP OF THE SOUL : 7 ~ THE JOURNEY ~』が異例のヒットを飛ばしている。

80以上の国・地域のiTunesトップ・アルバム・チャートで1位、米国ビルボードワールドアルバムチャート2位を獲得。さらに、オリコンのデイリーアルバムチャート7日連続首位をキープ。いまやワールド・スターともいわれるBTSであれば、納得の結果かもしれない。

だが、このアルバムで彼らが歌っているのは、日本語。つまり「異例」というのは、韓国人による日本語曲が世界中の国・地域で勢いを見せていることだ。

BTSが7月15日、2年3か月ぶりにリリースした、4枚目の日本フルアルバム。ファンの間では、「韓国語に慣れているので、日本語で聴くのは違和感がある」(高校生・女性)、「韓国語のほうが好き。魂から歌っている感じで迫力がある」(50代・女性)と、原語にこだわりを持つ人も。しかし、BTSのみならず、BLACKPINKやTWICEなど日本でメジャーデビューしているK-POPアーティストのほとんどが日本語曲をリリースしている。

なぜ韓国の歌手は日本語で歌うのか。そして海外の人たちはどのように受け止めているのか。K-POPの日本語曲を手がける現場の人と、欧米の音楽関係者に聞いてみた。

(アルバムリード曲『Stay Gold』。日本オリジナルの楽曲で、85の国と地域のiTunesトップソングチャートで1位に。YouTubeには英語の字幕が設定されている)

韓国語だとためらう放送局も

「やっぱり、嫌韓派の方たちがいるのは事実です。韓国語の歌を流すと、すごく顕著に反応がでてくるので、ためらう放送局もあります」

こう明かすのは、作詞家のもりちよこさん。アニメ『ケロロ軍曹』主題歌や映画『アラジン』実写版の日本語歌詞など幅広いジャンルを手がけるもりさんは、パク・ボゴムの『愛しい人』やZE:Aの『Watch Out!! ~熱愛注意報~』など、韓国アーティストの日本語バージョンの歌詞も多数作ってきた。

「テレビ出演の機会を得やすい、CMやドラマに曲が使われるタイアップが取りやすい。日本でプロモーションするためには、日本語がある程度の条件になっていると思います」

音楽コンテンツの売り上げのうち、約76%を音楽ソフト(CD・ビデオなど)が占める日本(注1)では、「売れるアーティスト=CDが売れる」こと。その成功の方程式の前提となる強力なツールが、テレビでのプロモーションだ。特に老若男女の視聴者を対象とする地上波では、日本語で歌うのが暗黙の了解になっているという。

「カラオケで人気を得るのも大事。とにかくより多くの人に聞いてもらうためには、韓国語がわからない人にも気に入ってもらえるようにPRしていくことです。韓国語は人気があるとはいえ、学校でみんなが習う英語に比べたら、はるかにマイナーな言語。だから日本語で口ずさめる曲を作るんです」

(2004 年にリリースされたBoA14 枚目の日本盤シングル『メリクリ』)

歴史をひも解けば、『釜山港へ帰れ』のチョー・ヨンピルや「演歌の女王」と称されたケイ・ウンスクなど、日本語で歌った韓国の歌手は1980年代から存在した。だが、ポピュラー音楽で日本進出した元祖といえば、2001年にデビューしたBoAだろう。韓国のSMエンターテインメントが練習生として育成したBoAを、エイベックスが「現地化戦略」で日本語で歌うJ-POP歌手としてデビューさせた。当時、作詞のコンペに参加し、最終審査まで残ったもりさんは、こう振り返る。

「韓国ではすでにすごく人気があると聞いていたけれど、日本ではほぼ無名。今よりも韓国の音楽を知っている人も少なかったし、韓国語がわかる人がいなかったので、日本語は必須だったんですね」

(もりさんが日本語バージョンの歌詞を手がけたヒョンビン主演のドラマ『シークレット・ガーデン』の挿入歌、『その女』)

2000年代前半には、ドラマ『冬のソナタ』の大ブレイクを機に、韓国ドラマの主題歌に日本語歌詞をつけた曲も人気に。ファンたちの間で合唱曲として歌われたりもした。以後、東方神起がJ-POPとして売り出し、幅広い層の心をつかむ。そんななか、K-POPブームに火がついた2010年頃からは、KARAのベスト盤が全曲韓国語詞にもかかわらずオリコンウイークリーチャートで2位を記録したり、少女時代の韓国語ミニアルバム『HOOT』も同チャートで初登場2位にランクインしたり。韓国語で楽しむファンも増えてきた。

だが、その後もSEVENTEENやTOMORROW X TOGETHERなど、韓国で広く人気を得ているのはもちろん、日本でもすでにファンを獲得しているグループが、日本語曲で日本デビューするケースがあとを絶たない。

「K-POPはファン層も厚いし、もう日本語の曲はなくてもいいんじゃないかなって。本心ではそう思うんです。でも、権利関係などのビジネスを考えると、まだまだ作られていくのでしょう」(もりさん)

(TOMORROW X TOGETHERの日本デビューシングル『MAGIC HOUR』のリード曲『9と4分の3番線で君を待つ (Run Away)[Japanese Ver.]』)

費用対効果が大きい日本語歌詞

日本語曲には2種類ある。作詞作曲含め日本で製作する「日本オリジナル」と、韓国ですでにリリースされている曲に日本語詞を乗せる「日本語バージョン」だ。

「日本オリジナル」は「内国曲」、つまりJ-POP扱いとなり、原盤権という大本の部分を日本のレコード会社や事務所が持つことになる。よって、日本デビュー前からすでに厚いファン層を擁する韓国アーティストの日本オリジナルを作れば、日本側は大きな利益を見込むことができる。

(2019年7月にリリースされたBTSの日本オリジナルの楽曲『Lights』。シングル『Lights/Boy With Luv』は、日本レコード協会の2019年7月度「ゴールドディスク認定」でミリオン作品として認定された。『MAP OF THE SOUL : 7 ~ THE JOURNEY ~』にも収録されている)

一方、「日本語バージョン」は、韓国側にも大きなメリットだ。

「韓国ですでにリリースされている曲に日本語歌詞をつけるのは、費用対効果が大きいんです」

こう語るのは、芸能事務所メジャーナインジャパン代表取締役のキムさんだ。ボーカルデュオVIBE(ヴァイブ)やソロシンガーBEN(ベン)など実力派シンガーを多数擁する韓国のMajor9の子会社として、昨年末に日本で設立。現在、所属するアーティストの日本語バージョンのリリースを準備している。

日本語と韓国語は語順が似ている上に、感性も近いためにニュアンスを出しやすい。すでに原曲があるので、オリジナルで一から曲を作るよりも、完成度も保証されている。日本語で歌詞をつけたほうが日本市場参入の可能性がぐんと広がるのであれば、チャレンジしてみよう、というわけだ。

「これまでに日本で成功している韓国の大手芸能事務所のなかには、会社設立当初、韓国よりも日本での売り上げのほうがずっと大きかった会社も少なからずある。日本での成果を足場に、韓国での事業を成功させるというパターンです」

米国に続いて世界第二の音楽市場である日本は、心変わりの早い若いファンが多い韓国と比べてファンの年齢層が広く、アーティストが兵役に行っても待ち続けるなど忠誠心が高いことでも有名だ。日本進出にあたり、そんな熱心なファンに響く曲を提供したいとキムさんは考えている。

「特にバラードは、歌詞がとても大切。原語のこまやかな表現にぴったりの日本語詞で、幅広い人たちに曲の世界観をじっくり味わっていただければと願っています」

(『Blood Sweat & Tears/血、汗、涙』のオリジナル(上)と日本語バージョン)

BTSの『MAP OF THE SOUL : 7 ~ THE JOURNEY ~』は、「日本オリジナル」と、韓国語でリリースされたアルバム収録曲の「日本語バージョン」で構成された13曲。日本オリジナルの『Stay Gold』と『Your eyes tell』は、それぞれドラマ『らせんの迷宮~DNA科学捜査~』(テレビ東京)の主題歌と映画『きみの瞳が問いかけている』のテーマ曲に選ばれ、TBS系『CDTVライブ!ライブ!』やNHK総合『SONGS』などテレビ地上波の多数の番組でメンバーが歌を披露した(注2)。アルバムは、初動3日で51万枚、週間で58万枚を売りあげ、週間アルバム・セールス・チャート「Billboard JAPAN Top Albums Sales」でも1位に。まさに成功方程式の王道を行く形だ。

海外でも、BTSメンバーのJUNG KOOKが作曲に関わった『Your eyes tell』が、iTunesランキングで100を超える国と地域で首位を獲得。『MAP OF THE SOUL : 7 ~ THE JOURNEY ~』は全英アルバムチャートでも日本発売のアルバムとしては歴代最高の56位を記録。冒頭でも書いたように、日本発のアルバムとしては異例の快挙を遂げている。

ところで、すでに世界中にファンがいるBTSがこのタイミングで日本アルバムをリリースしたのは、なぜだろうか。『BTSを読む』の著者であり、長年BTSとK-POPを研究してきた音楽評論家のキム・ヨンデさんは、次のように分析する。

「新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって中止になったワールドツアー『MAP OF THE SOUL TOUR』で、6月28日から9月2日にかけて日本で開催を予定していた12公演に合わせたのだと思います。ただ理由は、それだけではないでしょう。BTSはデビュー当時から日本語でアルバムをリリースしていて、日本市場に対してずっと関心と愛情を寄せています。いまや日本語戦略をとらなくても十分成功できますが、依然として日本は日本だけの情緒や大衆の要求がある上に、コンサートツアーを開催する場合、曲を一緒に歌うことで音楽の訴求力をさらに高められるため、日本語アルバムを地道にリリースするのだと思います」

言語を超え響く希望のメッセージ

韓国のアーティストが日本語で歌い、世界を席巻する――。

ロサンゼルス在住の日本人でプロデューサー・作曲家のmasa ashさんは、アメリカでの受け止め方をこう見る。

「アメリカでは、言葉がわからない歌詞に対して、抵抗という感覚はないと思います。BTSの曲はフックとなる部分は英語で口ずさめるようにしているので、要所は押さえているし。韓国も日本もアジアというくくりで好きな人も多いので、韓国語、英語、日本語の3か国語でも歌えるんだ!と、いい意味でのサプライズを感じるのではないでしょうか」

また、BTSを研究する学者のための国際会議「BTS会議」を主催したイギリス・キングストン大学のコレット・バルメイン教授は言う。

「実はヨーロッパでは、テレビゲームやアニメなど日本の文化がすでに深く入り込んでいるため、一般的に日本語はむしろ韓国語よりも受け入れられやすいと言えます。ただ、結局のところ、重要なのは音楽のクオリティ。BTSの曲には希望のメッセージがある。だからこそ、この困難な時期に私たちすべてに特別に響くのだと思います」

「コロナ禍が続き世界中が大変な時期だけど、ファンの方々に活力を与えたい」と、次はすべて英語歌詞の新曲を8月21日にデジタルシングルで配信すると発表したBTS。もはや世界の音楽市場は、ストリーミングが売り上げ全体の56.1%を占める時代(注3)。音楽は国や言語を瞬時に超え、加速度的にユニバーサルなものになっていく。BTSの新たな試みは、さらに多くの人たちの心をとらえるはずだ。

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(注1)一般社団法人 日本レコード協会調べ

(注2)『SONGS』では、日本オリジナル曲『Stay Gold』と『Black Swan』(韓国語)を披露した

(注3)国際レコード産業連盟調べ