「在日」「帰国事業」「日本統治時代」大学生が歴史と向きあった理由 日芸映画祭「朝鮮半島と私たち」

日芸映画学科「映画ビジネス」ゼミ。最後列左から2番目が古賀太教授(著者撮影)

映画祭のラインナップを見て驚いた。

日本統治下時代の朝鮮で1940年に制作された啓蒙映画『朝鮮の愛國日』、在日コリアンの死刑囚を主人公に死刑存廃を問う大島渚監督の『絞死刑』、慰安婦のドキュメンタリー『沈黙―立ち上がる慰安婦』。重いテーマがずらりと並ぶ。

12月8日(土)から14日(金)まで東京・渋谷にあるユーロスペースで開催中の映画祭「朝鮮半島と私たち」。手がけるのは、日本大学芸術学部の現役生徒たちだ。

韓国といえば、K-POPやコスメなど10代を中心とした第三次韓流ブームが盛り上がりを見せる一方で、韓国大法院が新日鉄住金などに対して元徴用工への補償を命じた判決を下し、政治的関係は揺れている。また、日本人拉致問題を抱える北朝鮮と日本は一向に関係改善の兆しがない。

ややもすれば炎上の可能性もあるデリケートな問題だ。では、なぜこのテーマに挑むのか。

 

学生たちに会うために、11月末、東京・練馬区の日本大学芸術学部を訪れた。

本当は何も知らない私たちのために

「『朝鮮半島』が一番いいなと思いました。商業映画業界の人は絶対やらないテーマだから」

日本大学芸術学部映画学科の古賀太教授は経緯を語る。

古賀教授率いるゼミ「映画ビジネス」のメンバーは、3年生14人。映画祭の開催を通じて、テーマの立案から作品の選定、SNSやマスメディアを活用しての広報、会場運営まで、一連の仕事を肌で学ぶ実践的な授業だ。

学生それぞれが1本ずつ提案したテーマを皆で精査し、「#Me Too」「学生運動1968から50年」とともに最終候補に残った「朝鮮半島と私たち」を古賀教授とユーロスペースの北條誠人支配人とともに選んだのは、今年6月半ばのことだった。古賀教授曰く、4月の南北首脳会談と6月の米朝首脳会談で朝鮮半島が注目されていたため、「時事性があり話題になりそう」というのも理由の一つ。「実際の映画館で興行としてやってもらうので、客が入るテーマにしなければ」。一方で、「最近徴用工裁判の結果がまた出ましたよね。怖い感じ、やっぱり危機感もある」とも明かした。

学生たちは、テーマが決まった当時、朝鮮半島についてどのようなイメージを持っていたのだろうか。

「韓国について、かわいい、かっこいいという印象があった」と答えたのは2人。

「南北ともに政治的関係がよくない、反日などネガティブなイメージ」というのが4人。

残りは、「特にイメージがなく、深く考えたことがなかった」という。

「朝鮮半島と私たち」をゼミの企画会議に出したのは、金子絹和子さんだ。授業で『キューポラのある街』を見て、「北朝鮮帰国事業」のことを知り衝撃を受けたのがきっかけだった。

「学校で教わることも、報道の中でも知ることのなかった朝鮮半島と日本の歴史が、映画の中に描かれていたんです」

埼玉県川口市を舞台にした吉永小百合の出世作。高度成長期の庶民とともに帰国事業で北朝鮮に渡る在日コリアンの姿も鮮明に映し出す
埼玉県川口市を舞台にした吉永小百合の出世作。高度成長期の庶民とともに帰国事業で北朝鮮に渡る在日コリアンの姿も鮮明に映し出す

「知らなかった過去に、それまでの自分たちを恥じた」その気持ちが原点となった。

吉永小百合さんのコメントが背中を押した

それぞれの学生が一人で1本(または同じ監督や時期の作品をまとめたもの)の映画を担当する。作品を選んだ理由は様々だ。

『沈黙―立ち上がる慰安婦』担当:保坂和哉さん

「慰安婦というと少女像の撤去の話ぐらいしか知らなかったけど、現在を生きる元慰安婦たちがなぜ今なお抗議をするのか。その意味を考える機会にしたかった」

『にあんちゃん』担当:南端紘光さん

「もともと好きな今村昌平監督が描くマイノリティーに興味があった」

『伽椰子のために』担当:花村優香さん

「在日コリアンの苦悩や葛藤も見えつつ、人間と人間の恋のお話だったので、ラブストーリーとしての面白さに惹かれた」

「日本統治時代の日本人について、韓国人監督がやさしい描き方をしているのに驚いた」 (担当:工藤咲穂さん)
「日本統治時代の日本人について、韓国人監督がやさしい描き方をしているのに驚いた」 (担当:工藤咲穂さん)
『かぞくのくに』「帰国事業は終わったわけじゃない。今も北朝鮮で、あの空の下で生きている在日コリアンがいる」(担当:宮原千波さん)
『かぞくのくに』「帰国事業は終わったわけじゃない。今も北朝鮮で、あの空の下で生きている在日コリアンがいる」(担当:宮原千波さん)

そんな中、ゼミで唯一の韓国人留学生キム・ユナさんは、「すごく不安を感じた」という。

「朝鮮半島にあまり興味がなかったクラスメイトが、こんな重いテーマを扱っていいのかな。私が発言したら、嫌な雰囲気になるんじゃないかな」と。

ゼミ生たちは、朝鮮半島の歴史についての本を読み、駐日韓国文化院や在日韓人歴史資料館に足を運んだ。映画プロデューサーの李鳳宇さんを授業に招き、映画祭についてのアドバイスを受け語り合った。

「勉強しなければならないこと、準備しなければいけないことが多く、果てしない感じがした」(宮原千波さん)

もう一つの壁は、パンフレットやチラシ用のコメントだった。

コメントを俳優や監督に依頼するも、10人以上がNGとの返事。そんな中、手書きのメッセージを送ってくれたのが『キューポラのある街』に主演した吉永小百合さんだった。

画像

映画学科の皆さまが、毎回しっかりしたテーマを見つけ、映画祭を開催して勉強する姿勢に、感心しています。『キューポラのある街』は、1962年の作品です。真冬の川口駅前で、深夜に大勢の人々が朝鮮の歌をうたい、私達の映画を盛り上げてくれました。そして彼らは、帰還船に乗り、故郷に帰っていきました。今、私達は、朝鮮半島の歴史、文化、現在の暮らしをしっかりと見つめ、語り合いましょう。 吉永小百合

「前を向いていける。メッセージを読んで力を得ました」(宮原さん)。

映画祭はスタートに過ぎない

企画から8か月。先週土曜日の開幕後、映画祭は満席の回も出るなど盛況だ。

『パッチギ!』の共同脚本家・羽原大介さんのトークショーでは、撮影の裏側や羽原さんの朝鮮半島に対する考え方など、質問形式で話を聞いた(日芸映画祭提供)
『パッチギ!』の共同脚本家・羽原大介さんのトークショーでは、撮影の裏側や羽原さんの朝鮮半島に対する考え方など、質問形式で話を聞いた(日芸映画祭提供)

ゼミ生たちは準備の過程で、新たな気づきを得たという。

韓国からの留学生キムさんは振り返る。

「クラスメイトがみんな、すごい勉強したり、本を読んだり。朝鮮半島に本気で興味を持ってくれて、だんだんやっていくうちに私も勇気を出して、みんなが真剣になっているから私も頑張ろうという気持ちになりました」

また、花村さんは映画祭の意義について、こう思いを明かした。

「ただ映画祭をやりたくてこのゼミに参加したので、最初はテーマのどうこうよりも映画祭が終わればそれまでだと思っていた。でも、朝鮮半島の問題は、映画祭とともに終わるわけじゃない。どんどん学んでいくうちに知ったり、今回劇場に足を運んでくださった方と共有したりして、やっと自分はスタート地点に立つことができたのかなと感じています」

(日芸映画祭提供)
(日芸映画祭提供)