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新型コロナ対策分科会の提案する新たな「レベル分類」 これまでとの違いは?

忽那賢志感染症専門医
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

第5波を経て日本は現在新型コロナの新規感染者数が非常に少ない状態が続いています。

新型コロナウイルス感染症対策分科会はこれまでのステージ分類に変わって、新たに「レベル分類」を提案しました。

新しいレベル分類の具体的な内容や、分類が変更になった背景について解説します。

従来の「ステージ分類」で用いられていた指標は?

今から1年以上前、2020年8月に分科会は感染拡大の進行状況を4つのステージに分類しました。

旧ステージ分類(2020年8月 新型コロナウイルス感染症対策分科会発表)
旧ステージ分類(2020年8月 新型コロナウイルス感染症対策分科会発表)

このように、従来のステージ分類は主に「新型コロナの流行状況」を把握するための分類ということになります。

また、当時の分科会はこのステージの移行を判断するための6つの指標を示しました。

①病床の逼迫具合

②療養者数

③PCR検査の陽性率

④新規感染者の報告数

⑤直近1週間とその前の1週間の比較

⑥感染経路不明割合

このうち、①と②は医療提供体制の指標であり、③〜⑥は流行状況の指標です。

これまでは、新規感染者の患者数など流行状況の指標が重視されていたということになります。

新しい「レベル分類」の概要は?

新しい「レベル分類」の概要(作成:Yahoo!JAPAN)
新しい「レベル分類」の概要(作成:Yahoo!JAPAN)

新しい「レベル分類」は、医療提供体制を基準としてレベル0〜4までの5段階に分かれています。

いずれのレベルにおいても求められる基本的な対策として、

(1)ワクチン接種率の更なる向上及び追加接種の実施

(2)医療提供体制の強化(治療薬へのアクセス向上を含む)

(3)総合的な感染対策の継続

①個人の基本的感染防策

②検査体制の充実及びサーベイランスの強化(国の感染状況把握のための抗体検査等)

③積極的疫学調査の徹底(感染源調査及びワクチン・検査の戦略的実施等)

④様々な科学技術の活用(QRコード、COCOA、健康観察アプリ、CO2モニター等)

⑤飲食店の第三者認証の促進

があり、これに加えてレベル2以上になると医療提供体制の逼迫具合に応じて保健所の体制強化、病床確保、緊急事態宣言などの対策が行われることになります。

今回の「レベル分類」は新規感染者数などの流行状況に関する指標がなくなり、医療提供体制を重視したものになります。

また具体的な数値も特に示されておらず、地域での状況に合わせて設定できるよう各自治体に委ねられています。

「ステージ分類」から「レベル分類」に変更となった背景は?

日本国内の新型コロナワクチンの累計接種者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナワクチン接種状況より)
日本国内の新型コロナワクチンの累計接種者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナワクチン接種状況より)

このように分類は変更されましたが、私たちが行うべきことに大きな変わりはありません。

ここでの「個人の基本的感染防策」とは、これまでのように屋内ではマスクを着用し、3密を避け、こまめな手洗いをすることであり、加えて2回目の接種から8ヶ月が経った方はブースター接種が推奨されます。

では新規感染者数を指標にすることを止めたことにはどういった背景があるのでしょうか。

これまでのステージ分類は、ワクチン接種が始まる前に設定されたものであり、まだ新型コロナの正体が十分に分かっていない頃に作られたものです。

この頃は感染者の中に占める重症者の数が多く、感染者数の推移がそのまま医療提供体制に大きく影響していました。

2021年11月18日時点で、日本における2回のワクチン接種率は76.3%に達し、治療薬の選択肢も増えてきたことで、第5波では過去最大の感染者数となったものの、感染者に占める重症者の割合や死亡者の割合は大きく減少しました。

このため感染者も軽症の人が多くなり、これまでよりも感染者数そのものが医療提供体制に与える影響は相対的に減少してきています。

このため、感染者数を指標とする意義が薄れてきたことが背景にあります。

2回のワクチン接種を完了した後しばらくの間は感染予防効果が高い状態が続きますが、半年以上経過すると(特にファイザー製のmRNAワクチンでは)大きく感染予防効果が落ちてくることが分かっています。

日本国内でワクチン接種を完了した人の多くはまだ感染予防効果が高い時期であり第5波以降感染者が少ない状態が保たれていますが、今後は集団としての感染予防効果が落ちてくることから海外のように再び感染者が増加することが懸念されます。

とはいえ、かつて2%を超えていた日本国内における新型コロナの致死率は、第5波を経て大きく低下してきています。

新型コロナの脅威はこれまでよりも相対的に後退していることから、今回の「レベル分類」への変更は、今後の日本の新型コロナ対策は感染者がある程度増えたとしても医療逼迫が生じない水準に感染を抑えつつ、日常生活の制限を段階的に緩和していくことにかじを切ったものと考えることができます。

重症化する人が減ったとはいえ、感染者が爆発的に増えてしまえば医療提供体制の逼迫は起こりますし、今後のブースター接種の進捗が滞るようであれば再び高齢者の重症者は増えることが危惧されます。

そういったことを避けるためには、ブースター接種の推進や検査体制の充実、病床確保などを進めながら、段階的に緩和していくことが重要と考えられます。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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