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新型コロナ第5波を振り返って 過去最多感染者数と低下した致死率 今後取るべき対策は?

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

全国の多くの地域で新型コロナウイルス感染症の過去最大の流行となった第5波は、現在収束しつつあります。

緊急事態宣言が解除される今、第5波を振り返り、今後の取るべき対策について検討します。

過去最大の流行となった第5波

2020年1月から2021年9月までの新型コロナ新規感染者数の推移(厚生労働省オープンデータより筆者作成)
2020年1月から2021年9月までの新型コロナ新規感染者数の推移(厚生労働省オープンデータより筆者作成)

2021年6月下旬頃から始まった第5波は、全国では8月20日に過去最多となる25851人の新規感染者数を記録し、それ以降は減少に転じました。

9月下旬現在も、減少の速度は落ちることなく順調に新規感染者数は減少しています。

2020年5月から2021年9月までの新型コロナ入院患者数の推移(厚生労働省オープンデータより筆者作成)
2020年5月から2021年9月までの新型コロナ入院患者数の推移(厚生労働省オープンデータより筆者作成)

全国での新型コロナ入院患者数は過去最大を記録し、一時は20万人を超え、第5波の新型コロナの累計入院患者数においては80万人に達しました。

よく新型コロナと比較されるインフルエンザの1シーズンの入院患者数が15000人〜20000人ですので、第5波での新型コロナ入院患者数は例年のインフルエンザの入院患者の50倍近いということになります。

現在の流行によっていかに医療機関に負荷がかかっているかお分かりいただけるかと思います。

東京都における新型コロナ感染者の療養状況の推移(第63回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における新型コロナ感染者の療養状況の推移(第63回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

また、第5波では感染者数の爆発的な増加によって自宅療養や宿泊療養となる方も過去最多となりました。

一時、東京都内だけで4万人を超える自宅療養・宿泊療養者がいました。

医療機関のキャパシティを超えて感染者が発生したため、この中には、酸素投与などを要するため本来は入院が必要であった方も含まれています。

自宅やホテルなどで酸素投与が行われる事態となり、残念なことにご自宅で亡くなられる方も多く発生しました。

第5波はなぜ収束したのか?

全国、首都圏、関西圏における実効再生産数の推移(第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-2より)
全国、首都圏、関西圏における実効再生産数の推移(第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-2より)

ある時点において1人の感染者が全感染期間に感染させる人数の平均値を意味する実効再生産数は、首都圏・関西圏、そして全国でも7月の下旬にピークを迎え、この後、緩やかに低下しています。

つまり、この7月下旬の時期までは流行が加速し、これ以降は減速したことになります。

そして実効再生産数が1を切った8月中旬以降に新規感染者数は減少傾向となりました。

ではなぜ7月下旬以降、流行は減速したのでしょうか。

東京都では7月12日から緊急事態宣言が出ていましたが、宣言によって減少傾向に転じたわけではなさそうですし、8月2日から埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府も追加で宣言の対象になった時期よりも前から減少しています。

ただし、緊急事態宣言がなかった場合は流行がさらに加速したり、減速が鈍くなっていた可能性がありますので、一概に緊急事態宣言に効果がなかったとは言えません。

7月下旬には4連休がありましたので、この時期に普段会わない人とも会い感染機会が増えたということで実効再生産数がピークになったのかもしれません。

4連休後は、感染者急増や医療逼迫の情報・報道などがメディアなどを通じて多くの人の目に触れることで行動変容が起きたというのが最も考えられる原因です。

東京と大阪における実効再生産数と娯楽施設での移動率の推移(第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-3より)
東京と大阪における実効再生産数と娯楽施設での移動率の推移(第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-3より)

京都大学の西浦博先生は、東京や大阪において、娯楽施設(レストラン、カフェ、ショッピングセンター、テーマパーク、博物館、図書館、映画館など)の人流(特に移動率)と一致して、実効再生産数が推移しており、7月下旬以降に低下していることを指摘されています。

これに加えて、ワクチン接種者が経時的に増加しており、新型コロナウイルスに対して免疫を持つ人が増えてきていることも影響しているでしょう。

第5波では重症化率・致死率が大きく下がっている

2020年5月から2021年9月までの新型コロナ重症患者数の推移(厚生労働省オープンデータより筆者作成)
2020年5月から2021年9月までの新型コロナ重症患者数の推移(厚生労働省オープンデータより筆者作成)

第5波では、重症者数も過去最多となりました。

新規感染者数のピークであった8月20日から2週間ほど遅れ、重症者数は9月4日にピークとなる2223人を記録しました。

ちなみに、第4波では新規感染者数のピークは5月8日の7233人、重症者数のピークは5月26日の1413人でした。

単純計算では、第5波は第4波と比べて新規感染者数に占める重症者数の割合が減少していることになります。

例えば私が住んでいる大阪府では、第4波では55318人の感染者のうち1757人が重症化しました(重症化率:3.2%)。

一方、第5波では(9月24日時点のデータでは)95218人の感染者のうち942人が重症化しました(重症化率:0.99%)。

重症者は遅れて増えますので、第5波の重症化率はもう少し高くなる可能性がありますが、第4波と比べて大きく減少することは間違いなさそうです。

日本国内における新型コロナ新規感染者数と死亡者数の推移(筆者作成)
日本国内における新型コロナ新規感染者数と死亡者数の推移(筆者作成)

また、第5波では致死率(感染者に占める死亡者の割合)も大きく減少しています。

それぞれの流行における全国の致死率は以下の通りです。

第1波(〜2020/6/13):5.4%

第2波(6/14〜10/9):1.0%

第3波(10/10〜2021/2/28):1.8%

第4波(3/1〜6/20):1.9%

第5波(6/21〜9/24時点):0.2%

第59回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議 資料より

第4波では感染者のうち1.9%の方が亡くなられていましたが、第5波では0.2%と大きく低下しています。

死亡者数についても新規感染者数から少し遅れて増加することから、もう少し致死率が高くなる可能性はありますが、ざっくりと、新型コロナに感染して亡くなられる方の割合が第4波の10分の1になったということになります。

なぜ重症化率・致死率が大きく下がったのか?

東京都における新規感染者数、重症者数、死亡者および高齢者のワクチン接種率の推移(第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料2-4より)
東京都における新規感染者数、重症者数、死亡者および高齢者のワクチン接種率の推移(第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料2-4より)

第5波で主流となったデルタ株は、これまでの新型コロナウイルスよりも重症化しやすいと考えられています。

それでも第5波の致死率が大きく低下している最大の要因は、ワクチンによるものと考えられます。

第5波では、これまでの流行と比較して高齢者における重症者が大きく減っていますが、これは高齢者での高いワクチン接種率が寄与しているものと考えられます。

東京都では9月13日時点で2回目ワクチン接種率が85.5%に達しています。

東京都における新型コロナ重症者の年代別の推移(第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料2-4より)
東京都における新型コロナ重症者の年代別の推移(第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料2-4より)

図は東京都における重症者の年代別の推移を見たものですが、第4波まで最も多かった60代・70代以上が重症者に占める割合は第5波では大きく減っていることが分かります。

ワクチン接種がここまで進んでいなかったら、考えるだけでも恐ろしいですが、第5波による被害は計り知れないものになっていたと思われます。

加えて、第5波では抗体カクテル療法が承認され、重症化リスクの高い患者に早期に投与され重症化を防ぐことができた症例も多く存在するでしょう。

今後の新型コロナ対策はどのようにすべきか?

ワクチン未接種者と接種者の重症度の内訳(重症度の割合はイメージであり緻密な計算によって基づくものではありません:筆者作成)
ワクチン未接種者と接種者の重症度の内訳(重症度の割合はイメージであり緻密な計算によって基づくものではありません:筆者作成)

今回の第5波を経て、ワクチン接種者では重症化が起こりにくくなることが改めて示されました。

ワクチン接種が進むに連れて、ますます重症化率は減ってくるものと思われます。

希望者への接種を引き続き進めていくことが重要ですし、今後のブースター接種についても検討が行われています。

今後の感染者数の推移については変異株の出現や、ワクチンの感染予防効果の低下など不確定要素があること、また緊急事態宣言などの政治判断が関わってくるため予想が困難です。

これまでの傾向からは、新規感染者数は第5波を上回る感染者数を想定した準備が必要となるでしょう。

重症化率が減り、新規感染者数が増えることが想定されることから、軽症・中等症の病床数の需要がさらに増えることが予想されます。

重症化率が下がっても感染者数が大幅に増えれば重症者数も増えますので、重症病床の確保も引き続き重要事項ですが、今後の対策としては、これまで以上に軽症・中等症の病床数の確保が望まれます。

現在、各都道府県で整備されている酸素センターや大規模療養施設などは、この軽症・中等症の増加に備えるための重要な対策と言えます。

徐々にヒトは新型コロナを克服しつつある

新型コロナの今後の展望(三菱総合研究所 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20210322.html の図を参考に筆者作成)
新型コロナの今後の展望(三菱総合研究所 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20210322.html の図を参考に筆者作成)

100年に一度と言われる感染症による災害が始まって1年半が経過しました。

当初はなすすべもなく、多くの方が亡くなりました。

しかし、治療薬やワクチンが開発され、第5波以降は致死率が大きく下がりヒトにとっての新型コロナの相対的な脅威度は徐々に下がりつつあります。

今後はさらなる治療薬の開発やワクチン接種を行いつつ、行動制限の解除についても議論が行われていきます。

ゆっくりとではありますが、ヒトは新型コロナを克服しつつあると言えるのではないでしょうか。

とはいえ、第5波でも過去最多の感染者数によって医療機関や保健所は逼迫してしまいました。

また致死率が10分の1になったとしても、感染者数が10倍になってしまえば同じだけの方が亡くなってしまうことになります。

今後も感染者数をできる限り抑えるために基本的な感染対策は継続する必要があることは(少なくとも当面は)変わりません。

ワクチン接種後も「屋内ではマスクを装着する」「3密を避ける」「こまめに手洗いをする」といった基本的な感染対策を遵守するようにしましょう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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