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新型コロナ第5波の感染者に占める重症者の割合が少なくても、医療体制の逼迫が起こりうる理由

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

全国で新型コロナの第5波に見舞われており、特に関東ではこれまでで最大規模の流行となっています。

第5波の特徴として感染者数に占める重症者の割合が少ないことが挙げられますが、だからといって決して安心できるものではありません。

東京都の新規感染者数は第3波のピークを超えさらに増加

東京都の新型コロナ新規感染者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめ より)
東京都の新型コロナ新規感染者数の推移(Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめ より)

7月29日の東京都の新規感染者数は3865人に達し、これは1週間前の7月12日の1978人よりも約2倍の増加になっています。

これまで東京都内の新規感染者数のピークは第3波の2021年1月7日の2520人でしたが、それをすでに大きく上回っており、さらなる増加が懸念される状況です。

デルタ型が4割を超え、アルファ型からの置き換わりが顕著に

東京都におけるL452R(デルタ型)陽性率の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都におけるL452R(デルタ型)陽性率の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

東京都ではこれまで主流であったイギリス由来のアルファ型変異ウイルスから、インド由来のデルタ型変異ウイルスへの置き換わりが進んでいます。

7/12〜7/18の時点で都内でスクリーニングされたウイルスの46.2%がデルタ型であったとのことであり、7/31現在はすでにアルファ型を超えてデルタ型が主流になっているものと考えられます。

アルファ型は従来の新型コロナウイルスよりも感染力が43~90%強いと報告されていましたが、デルタ型変異ウイルスはこのアルファ型と比べてさらに64%感染力が強いとされており、このデルタ型変異ウイルスの占める割合が東京都内で増加すればますます感染者は増加しやすくなります。

「感染者の中心は若い世代」がますます鮮明に

東京都における年代別の新型コロナ新規感染者の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における年代別の新型コロナ新規感染者の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

第4波以降の傾向として、若い世代の割合が増え60代以上の高齢者の割合は減少傾向が続いています。

第3波までは、職場や飲食店などで活動性の高い若い世代から感染者が増加し、流行が後半になるに従って家庭内・施設内・病院内でのクラスターが発生し徐々に高齢者の割合が増えてくるというパターンでしたが、第4波では後半も高齢者の割合が増加することなく、第5波ではさらに高齢者の占める割合は減少し続けています。

東京都の新型コロナ感染者数に占める高齢者の割合と高齢者接種率の推移(首相官邸7月8日資料より)
東京都の新型コロナ感染者数に占める高齢者の割合と高齢者接種率の推移(首相官邸7月8日資料より)

高齢者の感染者が減少している要因の一つとしては、ワクチン接種の効果が考えられます。

東京都における65歳以上の高齢者のワクチン接種率は、1回目のみが70%、2回完了が40%を超えており、接種率が高くなるに従って「新規感染者のうち65歳以上の割合」が減っています。

重症者に占める高齢者の割合は大きく減っている

東京都における年代別の新型コロナ重症者数の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における年代別の新型コロナ重症者数の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

重症者においても、高齢者が占める割合は減少傾向にあります。

第3波では、重症者の大半を60代以上の高齢者が占めていましたが、第4波、第5波と徐々に高齢者の占める割合が減少しており、現在は重症者の半分以下にまで減ってきています。

この傾向についてもワクチンの効果によるものと考えられ、海外でも「入院患者の97%がワクチン非接種者または未完了者」「死亡者の99.5%がワクチン非接種者」と報道されているように、ワクチン接種を完了した人は感染リスクが下がるだけでなく重症化リスクも大きく下がります。

東京都では65歳以上の高齢者の73%が2回目の接種を完了した、とのことでありこうしたことから、高齢者の重症患者は減少傾向にあるものと考えられます。

また、分母である感染者数のうち、重症化する割合が減っているのも「感染者の大部分が若い世代であること」「重症化リスクが高かった高齢者の世代でもワクチン接種によって感染者・重症者が減っていること」が要因と考えられます。

ただし、いくら重症化する人の割合が減ったとしても、分母となる感染者数が現在のように爆発的に増えてしまえば重症者は増えてしまうことから、再び医療体制が逼迫することは自明です。

また、若い世代、特に40代、50代といった働き盛りの世代における重症者の増加が顕著です。

これまでよりも重症化しやすいとされたアルファ型変異ウイルスよりも、デルタ型変異ウイルスではさらに重症化リスクが高くなるとされており、まだワクチンを接種していない人が多いこの世代では、むしろこれまでよりも重症者が増えています。

都内の入院患者数はまもなく過去最多に

東京都における新型コロナ入院患者数の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における新型コロナ入院患者数の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

また、デルタ型が広がる中で、若い世代が感染者の中心であることから、人工呼吸管理やICU入室など「重症」には至らないまでも、酸素投与が必要な中等症患者がこれまで以上に増えることが懸念されます。

東京都では、第3波のときのピークである3,427人に近づきつつあり、7/30時点で3,135人に達し、1日100人ペースで入院患者が増加しています。

数日以内に入院患者数が過去最高となることは間違いないでしょう。

第5波では、重症者数よりもむしろ軽症・中等症患者を含めた入院患者数がオーバーフローすることで医療体制が逼迫する可能性があります。

東京都の新型コロナ入院患者の年齢層の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都の新型コロナ入院患者の年齢層の推移(第56回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

東京都の現在の入院患者も約8割が50代以下の世代になっています。

都内の病院の新型コロナ病床は、これら若い世代の患者で急速に埋まりつつあります。

東京都は新型コロナ病床として5,967床を確保していますが、空床時は別の患者に使用されていることもあり、この約6000床が今すぐに使用できるわけではなく、段階的に使用可能になるものです。

患者増加に向けて、スムーズにコロナ病床の増加ができるよう調整が必要になります。

また、この約6000床で現在の流行がカバーできるのかについても定かではありません。

現在の患者数の増加ペースはかつてないものであり、市民にコロナ疲れ・宣言疲れが出ていて感染経路を断てていないこと、そしてデルタ型変異ウイルスが広がっていることが相まって、緊急事態宣言下においても効果が見えてきません。

各自治体がさらなる病床確保を進めることも重要ではありますが、昨日尾身会長が言及されたように、同時に法改正による強制力を持った都市閉鎖なども検討を進めるべきときに来ているのかもしれません。

第5波を乗り越えることができた後、次に起こる流行の規模を縮小するためには、やはりワクチン接種を進めていくことが鍵になります。

デルタ型変異ウイルスに対してもワクチンの重症化予防効果は保たれていることから、高齢者の次はこれらの40代・50代の世代にいかに速やかにワクチン接種を進めていくかが重要になってくるでしょう。

私たちにできることは、これまでと変わりません。

すでに多くの人が実践している、

・屋内ではマスクを装着する

・3密を避ける

・こまめに手洗いをする

といった基本的な感染対策を継続するようにしましょう。

これから夏休みで旅行や帰省を検討されている方もいらっしゃるかと思いますが、まだワクチン接種が行き渡っておらず、危機的な流行状況である現状においては、中止することもご検討ください。

感染症は人から人へとうつっていきます。

自分自身の感染対策は、あなたの大事な人を守ることにも繋がります。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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