5月21日、新たにモデルナ社とアストラゼネカ社の新型コロナワクチンが承認されました。

このうちアストラゼネカ社のワクチンについては当面は接種を見送り、引き続き対象年齢などを慎重に検討するという方針が示されました。

現時点では、アストラゼネカ社のワクチンはどのような人に接種すべきなのでしょうか。

ウイルスベクターワクチンとは?

CDC
CDC "How Viral Vector COVID-19 Vaccines Work"より

オックスフォード大学/アストラゼネカ社の新型コロナワクチン(ChAdOx1 nCoV-19、AZD1222)はウイルスベクターワクチンという技術を用いています。

ウイルスベクターワクチンとは、人体に無害なウイルスを「ベクター(運び屋)」として使用し、新型コロナウイルスのスパイク蛋白の遺伝情報をヒトの細胞へと運ぶものです。

ベクターを介して細胞の中に入った遺伝子からスパイク蛋白が作られ、体がスパイク蛋白に対する免疫を作ることで効果を発揮します。

新型コロナウイルスそのものを接種するわけではなく、また接種することによってヒトの遺伝子が書き換えられることもありません。

ChAdOx1 nCoV-19はチンパンジーのアデノウイルスをベクターとして使っています。

このチンパンジーアデノウイルスはヒトには無害であり、また体内では増殖できないようになっています。

ヒトのアデノウイルスは多くの人が免疫を持っているためベクターとして使えないため、チンパンジーのアデノウイルスが用いられていますが、一度ワクチンを接種してしまうと、このチンパンジーアデノウイルスに対しても免疫ができてしまうため、2回以上は接種できないと考えられています。

3つの新型コロナワクチンの比較

ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3つの新型コロナワクチンの比較(https://doi.org/10.7326/M21-0111を筆者改変)
ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3つの新型コロナワクチンの比較(https://doi.org/10.7326/M21-0111を筆者改変)

この表は、すでに2021年2月に承認されたファイザー社の新型コロナワクチン、今回アストラゼネカ社のワクチンと同時に承認されたモデルナの新型コロナワクチンと比較しています。

ファイザー社とモデルナ社のワクチンは同じmRNAワクチンというプラットフォームであり、接種間隔、保存条件、アナフィラキシーの頻度など多少の違いはありますが、効果や副反応においては概ね同等と考えられます。

どちらも発症予防効果90%以上と極めて高い「ぱねえ効果」を示しており、また重症化も防ぐことができます。

約20〜35万人に1人くらいの頻度でアナフィラキシーが起こることがあり、特に薬剤などにアレルギーのある方、アナフィラキシーの既往のある方で起こりやすいことが分かっています。いずれもmRNAワクチンの成分であるポリエチレングリコール(PEG)が原因と考えられており、PEGにアレルギーのある方は原則として接種できません。

アストラゼネカ社の新型コロナワクチンも同様に2回接種が必要であり、1回目から4〜12週空けて2回目を接種します。

発症予防効果は70.4%と報告されており、mRNAワクチンの90%以上と比べると見劣りするかもしれませんが、十分な効果があります。

また重症化を防ぐ効果も報告されています。

mRNAワクチンと比較した場合のメリットとしては、温度管理が2〜8度の冷蔵で良く、mRNAワクチンのような冷凍での管理が不要という点にあります。

低温管理での長時間の搬送が困難な地域では活躍の場がありそうです。

現在、世界中で広がっている変異株ですが、このうち南アフリカ由来の変異株(B.1.351)やインド由来の変異株(B.1.617)はワクチンの効果が低下することが懸念されています。

実際に、南アフリカ変異株が主流となっている南アフリカ共和国で行われた臨床研究では、アストラゼネカ社のワクチンの効果は大きく下がっていました(一方で、mRNAワクチンの方は、変異株の影響は多少はあるものの、大きくワクチンの効果が低下することはなさそうです)。

さらに、アストラゼネカ社のワクチン接種後に血栓症を起こした事例が海外で報告されています。

これらの方々は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)という血を固まりにくくする薬剤であるヘパリンの使用後に起こる病態によく似ており、脳静脈洞、門脈・脾静脈・肝静脈などに血栓が見られること、そして多くが50歳未満の女性であることが特徴です。

このワクチンを誘因とした血栓性血小板減少症の発生率は、10万回の接種につき、おそらく1例程度と見積もられています。

どのような人にアストラゼネカ社のワクチンが推奨されるか

アストラゼネカ社のワクチンについては当面は接種を見送り、引き続き対象年齢などを慎重に検討するという方針が示されました。

これは、現時点では的確な対象がどのような人なのか判断が難しいということだと思われます。

「70%でも効果は十分」と言われても、一方で「こちらには90%以上のワクチンもあります」と言われると、あえて70%を選ぶ人はいないでしょう。

また、血栓症の問題についても10万人に1人と極めて稀であり、致死率2%の新型コロナが予防できることを考えれば接種する意義はあると考えられます。

欧州医薬品庁も「稀な血栓症よりも予防効果というメリットの方が上回る」という声明を発表しています。

それでも、「アストラゼネカ社のワクチンはちょっと・・・」と思われる方もいらっしゃるかと思います。

では、アストラゼネカ社の新型コロナワクチンが推奨されるのはどういった方でしょうか?

間違いなく推奨される対象としては、

・mRNAワクチン接種後にアナフィラキシーを起こした人

・PEGにアレルギーのある人

といったmRNAワクチンが接種できない人でしょう。

こうした方々にとっては、アストラゼネカ社のワクチンは大事な選択肢となるでしょう。

また、

・薬剤アレルギーのある人

・アナフィラキシーの既往のある人

といったmRNAワクチンでアナフィラキシーを起こしやすい人にとっても、相対的にアストラゼネカ社のワクチンの方が安全性が高くなるでしょう。

アストラゼネカ社のワクチンが承認されたことは、こうした方々にとって非常に大きな意味があります。

また、流行状況によって、アストラゼネカ社のワクチンは意義が変わってくるとも考えられます。

欧州医薬品庁は、高い流行状況、低い流行状況でそれぞれアストラゼネカ社のワクチンを接種した場合の影響について検討しています。

低い流行状況のときの、年齢別にみた防げる新型コロナ死亡者数と血栓症の事例(EMA Annex to Vaxzevria Art.5.3 - Visual risk contextualisation)
低い流行状況のときの、年齢別にみた防げる新型コロナ死亡者数と血栓症の事例(EMA Annex to Vaxzevria Art.5.3 - Visual risk contextualisation)

これによると、低い流行状況(毎月の感染者が10万人あたり55人)のときには、特に若い世代ではワクチン接種によって防げる新型コロナによる死亡者数よりも血栓症の事例の方が多くなるため接種のメリットよりもデメリットが上回ると考えられます。

高い流行状況のときの、年齢別にみた防げる新型コロナ死亡者数と血栓症の事例(EMA Annex to Vaxzevria Art.5.3 - Visual risk contextualisation)
高い流行状況のときの、年齢別にみた防げる新型コロナ死亡者数と血栓症の事例(EMA Annex to Vaxzevria Art.5.3 - Visual risk contextualisation)

また、高い流行状況(毎月の感染者が10万人あたり886人)のときには、30代であってもワクチン接種によって防げる新型コロナによる死亡者数の方が血栓症の事例よりも多くなり、年代が上がるほどメリットの方が上回るようになります。

このように、特に高齢者においては、新型コロナの国内での流行状況によっては接種するメリットが大きくなります。

ファイザー社、モデルナ社のmRNAワクチンが十分に確保されている状況においては、ほとんどの方にとっては、より効果の高いこの2つのワクチンを接種する方が良いと思われますが、今後の流行状況やワクチンの在庫によっては、年代を絞ってアストラゼネカ社のワクチン接種を進める、という方針も検討されるべきでしょう。