風邪の免疫が新型コロナの重症化を防ぐ、という仮説

(写真:アフロ)

新型コロナウイルスは風邪の原因ウイルスであるヒトコロナウイルスと同じベータコロナウイルス属ですが、風邪の免疫が新型コロナの重症化を防ぐのではないか、という知見が集まりつつあります。

ヒトコロナウイルスと新型コロナウイルス

ヒトに感染するコロナウイルスの種類(筆者作成)
ヒトに感染するコロナウイルスの種類(筆者作成)

私たちヒトにとって、これまで最も感染者が多かったコロナウイルスは「ヒトコロナウイルス」という4種類(229E、NL63、OC43、HKU1)のウイルスでした。

これは、いわゆる風邪の原因となるウイルスであり、世代や地域によって違いはありますが、風邪の原因の10〜30%を占めるウイルスであると考えられています。

その後、2000年代に入り重症急性呼吸器症候群の原因ウイルスであるSARS-CoV-1、2010年代に入り中東呼吸器症候群の原因ウイルスであるMERS-CoVが発見され、そしてご存知の通り2019年12月に中国の武漢市で見つかった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は現在、世界中に拡大しています。

ヒトコロナウイルスと新型コロナウイルスは近縁にある

渡辺登喜子. 日本医師会COVID-19有識者会議より 一部筆者加筆
渡辺登喜子. 日本医師会COVID-19有識者会議より 一部筆者加筆

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、コロナウイルスの中でも「ベータコロナウイルス属」に属します。

このベータコロナウイルス属には、重症急性呼吸器症候群の原因ウイルスであるSARS-CoV-1だけでなく、風邪の原因ウイルスであるヒトコロナウイルス4種類のうち、OC43とHKU1も属しています。

つまり風邪を起こすヒトコロナウイルスと新型コロナウイルスは近縁にある、ということになります。

子どもは新型コロナに罹っても重症化しにくい

新型コロナの年齢毎の重症化リスクと症状の頻度の違い(厚生労働省 新型コロナ11の知識およびhttp://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6914e4より)
新型コロナの年齢毎の重症化リスクと症状の頻度の違い(厚生労働省 新型コロナ11の知識およびhttp://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6914e4より)

そもそも小児では新型コロナウイルスがヒトの細胞内に侵入するための入り口であるACE2受容体の量が少ないことから感染そのものが成立しにくい、とも言われていますが、感染したとしても重症化しにくいことが分かっています。

アメリカでの新型コロナ感染者の成人と小児の臨床症状を比較した報告では、発熱、咳、息切れなどほとんどの症状の頻度が成人よりも低く、成人に比べて子どもは症状が乏しいことが分かります。

また、日本でのこれまでのデータでは、90歳以上と比べて10歳未満は156倍、10代は390倍重症化リスクが低いことが明らかになっています。

なぜ小児で重症化しにくいのかについては諸説ありますが、そのうちの仮説の一つとして「ヒトコロナウイルスによる交差免疫」説があります。

年齢別にみた1年間に風邪を引く回数(Lancet. 2003 Jan 4;361(9351):51-9.)
年齢別にみた1年間に風邪を引く回数(Lancet. 2003 Jan 4;361(9351):51-9.)

さて、大人になるとだんだん風邪をひきにくくなる気がしませんか?

その実感は間違っておらず、実際に年を経るごとに風邪をひく回数は減っていきます。

つまり子どもたちはしょっちゅう風邪を引いており(年5,6回)、その中にはヒトコロナウイルスによる風邪もおそらく含まれています。

つまり「子どもたちが新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくいのは、ヒトコロナウイルスに日頃から感染しているからではないか」という仮説が浮かび上がってくるわけです。

前置きが長くなりましたが、それを検証した研究がいくつか出てきていますのでご紹介致します。

風邪に罹る新型コロナが重症化しにくくなることを示す臨床研究

もし子どもの頃のヒトコロナウイルスへの感染が新型コロナの重症化を防いでいるとすれば、小さな子どもと頻繁に接している成人でも新型コロナの軽症化がより頻繁に起こる可能性があるのではないか、という仮説のもとにドイツで調査が行われました。

新型コロナから回復した1186人のうち、6.9%が10歳以下の子どもと頻繁かつ定期的に接しており、23.2%が自分自身に小さな子どもがいたとのことでした。

集中治療をうけ重症化した患者では、これら小さな子どもと頻繁に接触した人が少なかった、とのことです。

つまり小さな子どもと接する機会が多い人の方が重症化しにくかった、ということになります。

アメリカの健康保険の記録を解析したところ、過去1年間(新型コロナが流行していなかった2019年3月〜2020年2月)までの間に、風邪(急性副鼻腔炎、気管支炎、咽頭炎など)と診断された人は、そうでない人と比べて2020年3月から7月までの間に新型コロナと診断されるリスクが20%以上低かった、という研究もあります。

風邪の原因はヒトコロナウイルスだけではないので、風邪と診断された人たちの中にはヒトコロナウイルス以外のウイルスに感染した症例も多く含まれていると考えられますが、約10-30%はヒトコロナウイルスによるものであり、ヒトコロナウイルスによる風邪を引いた人で新型コロナに対する交差免疫を示したことから、新型コロナの感染リスクが下がったのではないか、という結論になっています(なお、18歳以下の若い世代ではこの影響は見られなかった、とのことですが、これは病院で診断されているかどうかにかかわらず若い世代は常にヒトコロナウイルスを含む風邪の病原体に暴露しているためではないか、と考察されています)。

さらに、ヒトコロナウイルス4種類のうち、特に新型コロナウイルスに近縁であるOC43とKHU1に対する抗体を調べて重症化との関連を見た研究もあります。

新型コロナウイルス感染症患者 60 例を対象にOC43抗体とHKU1抗体を調べたところ、重症患者ではOC43抗体・HKU1抗体の陽性者が少なく、軽症者では抗体陽性者が多かった、とのことです。

このことから、ヒトコロナウイルスOC43、HKU1に感染し免疫のある人は、新型コロナウイルスに感染した場合も重症化しにくい可能性がある、と結論されています。

風邪に罹ると新型コロナは重症化しにくい「かもしれない」

ということで、風邪の原因ウイルスであるヒトコロナウイルスに対する免疫が新型コロナの重症化を防ぐのではないか、という知見が集まりつつあります。

これらの研究は、もしかするとヒトコロナウイルスの免疫が新型コロナウイルスにも部分的に有効であることを示唆しています。

しかし、だからといって「ヒトコロナウイルスに感染すれば新型コロナに罹らなくなるじゃん」と安易に考えるのは危険です。

なぜなら風邪もインフルエンザも新型コロナも症状はよく似ていますので、風邪に罹ろうとして症状のある人に接触して、新型コロナに罹ってしまった、ということにもなりかねません。

また風邪に感染したとしても、それがヒトコロナウイルスによるものかどうかは特殊な研究以外では証明しようがありません。

そもそも「風邪に感染したら新型コロナに重症化しにくくなる」とこれらの研究だけで結論づけるのはまだ早いでしょう。

それよりもより確実に新型コロナの免疫をつけることができるワクチン接種が今後控えていますので、それまでは「手洗い」「咳エチケット」「屋内でのマスク着用」「3密を避ける」といった感染対策を引き続き徹底するようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)