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年末年始に移動する人のために 交通機関を使用するときの感染対策のポイントは

忽那賢志感染症専門医
(写真:アフロ)

年末年始を間近に控え、帰省を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

帰省するかどうかは年末年始の流行状況を見て慎重に判断すべきかとは思いますが、どうしても帰省しなければならない方のために移動の際の注意点についてまとめました。

移動による感染のリスクはゼロにはできない

あくまで一般論ですが、旅行は感染症の拡大につながりやすいと言われています。

極端なことを言えば世界中の人が移動をしなければ中国の武漢市から世界中に新型コロナが拡大することもなかったでしょう。

旅行医学の中でも感染症が主要なテーマの一つになっていますし、宿命的に旅行と感染症とは切っても切り離せない関係にあります。

アメリカでの国内旅行による新型コロナの拡散リスク(https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.04.021)
アメリカでの国内旅行による新型コロナの拡散リスク(https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.04.021)

海外でも国内旅行の増加と新型コロナの増加との関連が複数の研究から明らかになっています(1,2,3)。

特に中国の武漢市、アメリカのニューヨーク市など大流行を起こした都市からの移動は感染を国内に広げるリスクとなることが示されています。

実際には移動そのものが感染のリスクになるというよりは、旅行中の食事や移動先での活動内容などが感染に繋がりやすいと考えられますが、移動中での感染事例も報告されています。

では、安全に移動するためにはどのようなことに気をつければ良いのでしょうか?

移動においても「3密」が感染リスクになる

異なる環境による新型コロナ感染リスクの違い(BMJ 2020;370:m3223)
異なる環境による新型コロナ感染リスクの違い(BMJ 2020;370:m3223)

新型コロナがどのような環境で広がりやすいのか、だんだんと分かってきており、

・換気が不十分な屋内で、人と人との距離が近く、大声を発するなどの飛沫が発生しやすい状況(いわゆる3密の環境)

・感染者と長時間一緒にいる

・マスクを着けていない

環境で感染が起こりやすいとされます。

理論的にはこうした「混雑した」「換気不十分の環境で」「マスク装着していない状態で」「大声が飛び交う」状況を避けることが重要になります。

この条件が1つでも当てはまらなければ大丈夫というわけではなく、現実的には1つでも当てはまれば感染リスクはあり、当てはまる項目が増えれば増えるほどリスクが高くなるということになります。

飛行機や新幹線での換気はどうなっている?

帰省の際には新幹線または飛行機で長距離の移動をされる方が多いと思いますが、いずれも十分な換気はされています。

一般的な機内での空気の流れ(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(05)71089-8)
一般的な機内での空気の流れ(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(05)71089-8)

航空機では一般的に客室の空気は2-3分ごとに完全に入れ替わっています。空気を50%は機外に出し、50%再循環させていますが、再循環させる際にはHEPAフィルターを通過させています。

ウイルスもこのHEPAフィルターで捕捉されると考えられています。

また新幹線も6〜8分に1回は空気は入れ替わっているとのことであり、換気の頻度としては十分と考えられます。

飛行機や高速列車での感染事例

イタリアから韓国への航空機内でも、無症候性感染者から1人が感染したと考えられる事例が報告されています。

機内で起こった新型コロナ感染の位置関係(https://doi.org/10.3201/eid2611.203353)
機内で起こった新型コロナ感染の位置関係(https://doi.org/10.3201/eid2611.203353)

この便では乗客全員にN95マスク(ウイルスを含む飛沫の侵入を防ぐことができる高性能マスク)が提供され、ほとんどの乗客は食事時とフライト中のトイレ使用時を除き、N95マスクを着用していたとのことです。

感染源と考えられる人との距離も離れており、トイレの使用による環境からの接触感染が原因ではないか、とこの論文では結論づけています。

したがって、機内でも手洗いの徹底が重要ということになります。

別のイギリスからベトナムへの航空機内での感染事例も報告されています。

機内での感染事例(https://dx.doi.org/10.3201/eid2611.203299.)
機内での感染事例(https://dx.doi.org/10.3201/eid2611.203299.)

この事例では、元々の感染源である人が座っていたビジネスクラス内の座席が近かった人に感染が広がっており、接触感染や飛沫感染もしくはエアロゾル感染が起こった可能性が示唆されます。

また、後方のエコノミー席での感染者については、トイレでの接触感染による感染、あるいは到着前後の空港内で接触した可能性もあると考えられます。

近くの座席からの感染を完全に防ぐことは難しいですが、飛行中のマスク着用、手洗いの徹底、混雑したフライトの回避、そして搭乗前後での人との距離の確保などが重要と考えられます。

では新幹線はどうでしょうか。

これまでのところ日本国内における新幹線での感染リスクについての検討はありませんが、高速列車での座席の位置と新型コロナの感染リスクとの関係について検討した研究があります。

高速列車における座席と感染率との関係(DOI: 10.1093/cid/ciaa1057より)
高速列車における座席と感染率との関係(DOI: 10.1093/cid/ciaa1057より)

これによると、感染者との席が近いほど、そして一緒にいる時間が長いほど感染リスクが高くなるとのことです。

また興味深いことに、感染者が自分の前後の席にいるよりも、左右の席にいる方が自分に感染するリスクが高いようです。

これは、電車に乗っている間は左右の人と話す時間が長く飛沫が飛ぶリスクが高く、また飲み物を買いに行ったりトイレに行くために席を離れたりする際に同じ列の乗客同士が近距離で接することが多くなる一方、前後の席には背もたれが障壁となって飛沫が飛びにくいということが考えられます。

これらのことからは、新幹線や特急列車では、できるだけ横の席が空いている席を選ぶのが望ましいでしょう。

また、(6時間以上など)よほど長時間でなければ前後の席についてはあまり気にしなくても良さそうです。

感染リスクを下げるために移動する時期や時間帯をずらす

以上のことから、できる限り感染リスクの低い旅行をするためには、

・移動中もこまめな手洗いを心がける

・飛沫が飛ばないように、機内・車内ではマスクを装着し、大声は出さない

・飛行機ではなるべく混雑しているフライトを避ける

・新幹線や特急列車ではなるべく隣が空いている席を選ぶ

・移動時間をできる限り短くする

ことが望ましいといえます。

とは言え、帰省ラッシュの時期は空席が少なく混雑していることが多いでしょう。

混雑を避けるには、

・始発便など乗客が少ない時間帯の便を選ぶ

・乗客が多い帰省ラッシュピークの時期を避ける

など、時間をずらすことが重要です。

また年末年始の新型コロナの流行状況によっては、感染拡大をさせないためにも、思い切って今シーズンは帰省を諦めるといった選択肢も考慮すべきでしょう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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