入国規制緩和による新型コロナの拡大を防ぐためにはどうすればよいのか

(写真:REX/アフロ)

10月から、入国制限が緩和され10月から入国制限が緩和され中長期の在留資格を持つ外国人に新規入国を認めることになりました。

入国制限措置 10月1日から全世界対象に緩和 限定的な範囲で

2019年には3000万人の外国人観光客で賑わっていた観光業界の振興のためには入国者制限の緩和は必要なものだと思われますし、オリンピック・パラリンピックの開催のためには来年に向けて入国者を増やしていかざるを得ない状況です。

しかし、海外からの入国者増加は、新型コロナ感染者の流入に繋がる可能性があります。

新型コロナ感染者の流入を防ぎつつ、入国者を拡大していくためにはどのような戦略が望ましいのでしょうか。

現在の入国条件は

日本の現在の入国条件は以下のようになっています。

全ての国・地域から入国される全ての方には、入国の前後で以下の対応をお願いします。

□検疫所長が指定する場所(自宅など)で入国(検体採取日)の次の日から起算して14 日間待機する滞在場所を確保すること

□到着する空港等から、その滞在場所まで公共通機関を使用せずに移動する手段を確保すること

□入国後に待機する滞在場所と、空港等から移動する手段を検疫所に登録すること

加えて、入国した日の過去14日以内に入管法に基づく『入国拒否対象地域]』に滞在歴のある方については、以下のことをお願いしています。

□新型コロナウイルスの検査を受けること

□検査結果が出るまで、原則、空港内のスペース又は検疫所が指定した施設等で、待機すること

*到着から検査結果判明まで1~3時間程度ですが、再検査をするなど状況によっては到着の翌日に判明する場合があり、その後、入国の手続きになります。

厚生労働省 水際対策の抜本的強化に関するQ&A 「問1 具体的に、入国の前後でどのようなことが求められることになりますか。」より

つまり、現在ほとんどの国からの入国者に対して、入国時に新型コロナの検査(PCR検査または抗原検査)を行い、その後14日間の経過観察が行われています。

現時点では、輸入例が増加しているという情報はありませんが、今後入国者が増加することで感染が拡大するリスクはないのでしょうか。

第1波は欧米からの輸入例が感染拡大の原因の一つだった

第1波は3月下旬から感染者が増加しましたが、その原因の一つとして海外からの輸入例の増加が挙げられます。

2020年1月~3月の新型コロナ輸入例の推移(押谷仁教授 COVID-19への対策の概念 2020年3月29日暫定版より )
2020年1月~3月の新型コロナ輸入例の推移(押谷仁教授 COVID-19への対策の概念 2020年3月29日暫定版より )

日本政府は3月9日から中国・韓国からの入国制限、3月21日から欧州各国、エジプト、イランなど計38カ国からの入国制限を開始しました。

しかし、3月末の時点で輸入例は週あたり60例に達しており、こうした海外からの輸入例が第1波の感染拡大の原因の一つであったことが指摘されています。

第2波がまだ収束していない現状で、入国制限を緩和していくことで再び国内での感染が広がることは避けなければなりません。

フランス領ポリネシアでの新型コロナ患者数の推移(Our World in Dataより筆者作成)
フランス領ポリネシアでの新型コロナ患者数の推移(Our World in Dataより筆者作成)

実際に、7月15日から観光客の入国制限を解除したフランス領ポリネシア(タヒチ島で有名です)は、それまではほぼ感染者ゼロで推移していましたが、8月以降に感染者が増加しています。

フランス領ポリネシアは、入国者に対し国際線出発前3日以内に実施されたRT-PCR検査の陰性証明書と、到着日から4日後の自己検査キットによる検査実施が求められています。

つまり2回の検査を実施しているにもかかわらず、輸入例を抑えることができていないという状況です。

海外からの持ち込みを防ぐことは非常に難しいことが分かります。

入国前と入国後すぐに検査をしても輸入例を完全には防げない、ということは1月末に日本政府主導で武漢市に滞在する日本人をチャーター便で帰国させた際の知見からも理解できます。

武漢チャーター便で帰国した566名の転帰(Emerg Infect Dis. 2020;26(7):1596-1600.を筆者改変)
武漢チャーター便で帰国した566名の転帰(Emerg Infect Dis. 2020;26(7):1596-1600.を筆者改変)

チャーター便1~3便で帰国した566人の転帰をまとめた国立感染症研究所・国立国際医療研究センターからの報告によると、入国時のPCR検査で陽性が判明したのは7名でしたが、その後14日間の経過観察中に4人が陽性と判明し、さらにホテルなどで14日間経過観察した後に行われたPCR検査で1人が陽性になっており最終的には11人が新型コロナと診断されました。

つまり、入国時のスクリーニング検査では全体の60%程度しか検出できず、14日間の経過観察中に症状が出た場合に追加検査をすれば全体の90%が、さらに14日間の経過観察終了時にルーチンでPCR検査を行うことでようやく100%となります(ただし、PCR検査の感度は100%ではありませんので、この11人以外にも診断されていない新型コロナの人がいた可能性は残ります)。

現在の日本の検疫体制では、最後の1人は見逃してしまうことになります。

ただし、14日間の経過観察終了時にPCR検査が陽性になった人は、初回が偽陰性で2回目に陽性になったとすると、すでに入国14日目の時点で感染性はほぼないと考えられるため、PCR検査を行っても行わなくても感染拡大には影響しないと考えられます。

発症した日からの日数と感染性との関係(Clinical Infectious Diseases, ciaa1249より)
発症した日からの日数と感染性との関係(Clinical Infectious Diseases, ciaa1249より)

なぜなら、新型コロナの感染性(人にうつすかどうか)は、ほとんどの人で発症から10日までと言われていますので、初回のPCR検査が偽陰性であったとしても、14日間の経過観察中にこの感染性のある10日間を過ぎてしまうと考えられます。

しかし、14日間の経過観察終了時点で感染性があるパターンもありえます。

感染者が入国する3つのパターン(筆者作成)
感染者が入国する3つのパターン(筆者作成)

新型コロナ感染者が入国するパターンを場合分けしました。

1のパターンは、すでに入国時に発症している場合です。入国時のPCR検査で陽性になる可能性が高いと思われますし、偽陰性であったとしても14日間の経過観察中に感染性はなくなります。

2のパターンは、入国時には潜伏期で、入国して数日以内に発症する場合です。この場合は、入国時のPCR検査で陰性になったとしても14日間の経過観察中に感染性はなくなります。

3のパターンは、入国時には潜伏期で、入国後10日くらい経ってから発症するパターンです。この場合は14日間の経過観察が終わった後も感染性があるまま国内を移動することになります。

新型コロナの潜伏期は中央値5日ですが、最大14日とされていますので、非常に少ないながらも3のパターンもあり得るということになります。理論上は現在の日本の検疫体制では3のパターンからの感染拡大は防ぐことはできません。

入国時の検査をどこまで厳しくするべきか

入国時の検査をどこまで厳しくするのか、の指標としては、

・自国の新型コロナの流行度

・入国者の国の新型コロナの流行度

の2つから判断すべきと考えられます。

例えば、武漢チャーター便のときのように、「入国時PCR + 14日間の経過観察 + 経過観察終了時PCR」を行えば100%に近い症例を捕捉することは可能であると考えられます。

人口100万人あたりの新規コロナ患者数 2020年10月17日時点(Our World in Dataより)
人口100万人あたりの新規コロナ患者数 2020年10月17日時点(Our World in Dataより)

しかし、例えばベトナムや台湾、ニュージーランドのように日本よりも感染者が少ない国からの入国者にそこまで厳しい検査を行うことは非常に効率が悪いと言えます。

また、アメリカ合衆国のようにすでにどこの国よりも感染者が多く発生している国が、他国からの入国者を厳しく制限しても焼け石に水と言えるでしょう。

このように、入国時にどこまで厳しい対策を取るのか、については入国者の国と日本との新型コロナの流行度の違いを考慮して、ある程度段階的に対応を分けるのが効率の上では良いだろうと考えられます。

しかし、例えばタイのようにほとんど新型コロナ症例が発生していないとされている国からも、空港検疫では検査陽性例が多く発生しているという事例もあり、その国のサーベイランス体制や症例数を鵜呑みにすることにも一定のリスクがあり、悩ましいところです。

一方で、どれだけ検査体制を厳しくしたとしても、潜伏期や検査の偽陰性の問題がある以上は、輸入例を100%防ぐことはできません。

いずれにしても日本国内の状況と、各国の流行状況とを見ながら、輸入例の報告数をモニタリングしながら緩和条件や検疫体制を慎重に判断していく必要がありそうです。