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Go To トラベル 10月1日から東京も対象に 安全に旅行を楽しむ「ずらし旅」とは?

忽那賢志感染症専門医

10月1日から東京都もGo To トラベルの対象となります。

経済の活発化が期待される一方、感染の拡大も懸念されます。

3密を避け、安全に旅行をするためにはどのような工夫をすれば良いのでしょうか?

東京都では再び新型コロナが増加傾向

東京都の新型コロナ新規患者数(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
東京都の新型コロナ新規患者数(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

10月1日からGo To トラベルの対象となる東京都では、8月1日の427人をピークに新規感染者数が減少傾向でしたが、この1〜2週は減少傾向が鈍化しており、再増加に転じたようにも見えます。

検査陽性率も一時は3.1%まで下がっていましたが、今は再び4%を超えてきており、見かけ上ではなく実際に感染者が増えてきていることを表しています。

新型コロナ新規患者の年齢層の推移(第12回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
新型コロナ新規患者の年齢層の推移(第12回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

また、気になるのは、ハイリスクとされる60代以上の年齢層の比率が、第2波当初は5%に満たなかったものが現在は20%近くまで増加してきていることです。

新規感染者がこのまま再増加していき、年齢層はこのままハイリスク層が多いままであれば、入院患者に占める重症者の増加とそれによる医療機関への負担が懸念されます。

このような状況下で、東京都がGo To トラベルの対象となることで感染を全国に広げてしまうのではないかと心配される方も多いのではないでしょうか。

普通に国内旅行をすると、感染を広げてしまう可能性が

そもそも旅行に感染症はつきものであり「旅行医学 Travel Medicine」という学問の中でも感染症は大きな部分を占めています。

医師にとっても、発熱している患者さんに旅行歴を聞くのは基本中の基本でもあります。

アメリカにおける国内旅行と国際旅行による新型コロナの拡散(https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.04.021)
アメリカにおける国内旅行と国際旅行による新型コロナの拡散(https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.04.021)

世界で最も多い感染者を出しているアメリカでの流行に、国際旅行と国内旅行のどちらが寄与しているのかを検討した結果、国内旅行の方が流行を広げていたという報告があります。

もちろん最初に海外からアメリカに新型コロナウイルスが持ち込まれたきっかけは国際旅行ですが、そこからアメリカ国内に拡散させたのは国内旅行の影響が多かったとのことです。

海外への旅行、アメリカ国内の旅行歴と感染リスク(https://doi.org/10.1093/cid/ciaa599より)
海外への旅行、アメリカ国内の旅行歴と感染リスク(https://doi.org/10.1093/cid/ciaa599より)

また新型コロナ流行初期のサンフランシスコにおける症例の解析では、渡航歴は新型コロナのリスクファクターであり、その中でも国際旅行よりもアメリカ国内、特に当時震源地であったニューヨークへの渡航歴が最大のリスクだったとする報告もあります。

この図で、右に行くほどリスクが高いことになりますので、国際旅行よりも国内旅行、特にニューヨークへの渡航が最大のリスクであると解釈できます。

これを日本に当てはめれば、東京などの都市部への渡航歴が日本国内でのリスクになると言えるでしょう。

しかし、だからといってGo To トラベルを止めるべき、と簡単に言えるものではありません。

Go To トラベルはコロナ禍で落ち込んだ経済を振興するための対策であり、コロナ対策と経済対策はある程度両立させながら進めていかなければなりません。

人と接触しない「ずらし旅」を実践しよう

国内旅行で新型コロナを広げない最大のポイントは「人との接触を減らすこと」です。

人と交わらなければコロナをうつすことも、もらうこともありません。

旅行と言うと人混みの観光地というイメージがあるかもしれませんが、Withコロナ時代の旅行はこの「人と同じ旅行」から脱却する必要があります。

例えばですが、JR東海は「ずらし旅」というキャンペーンを展開しています。

ずらし旅とは、旅する時間や場所、行動をずらすことで人との接触を避け、感染のリスクを極力下げる旅のことで、Withコロナ時代の「コロナとうまく付き合う」旅行形態として注目を集めています。

なおお寺好きである筆者も「ずらし旅」の一つの形を提案させていただきました。

ここでは、具体的なずらし旅の極意をご紹介致します。

旅行の時間をずらす

人が多い時間をずらすことで、人との接触を減らすことができます。

交通機関で移動する場合には、乗客の少ない早朝をお勧めします。

始発の新幹線はガラガラです。

有名な観光地に行く場合も、行く時間帯をずらすことをお勧めします。

例えば、私は奈良が大好きなのですが、奈良の観光地である奈良公園に行く場合、昼間は多くの人で賑わっています。

しかし、夜は人も少なくほとんど人がいません。

夜は東大寺の南大門はライトアップされており、いつもとは違った金剛力士像を拝むことができます。

夜ライトアップされた東大寺南大門の金剛力士像(筆者撮影)
夜ライトアップされた東大寺南大門の金剛力士像(筆者撮影)

旅行の場所をずらす

旅行といえば観光地に行くのが醍醐味ではありますが、自分の趣味をとことん突き詰めた旅行も楽しいものです。

私の「ずらし旅」はお寺の庭園鑑賞になります。

日本庭園は屋外ですし、しゃべることも少なく、人が密になることもない、3密を回避できる旅行です。

特に観光地になっていないような、ひなびたお寺の庭園は、ほぼ貸し切り状態で人と接触せずにじっくりと鑑賞することができます。

滋賀県大津市堅田の居初氏庭園(筆者撮影)
滋賀県大津市堅田の居初氏庭園(筆者撮影)

食事はテイクアウトやデリバリーを利用する

屋内で密集した状態で、マスクを外して会話をすることが新型コロナの感染リスクになります。

これを確実に回避するのは、テイクアウトやデリバリーを利用することです。

Go To Eatキャンペーンでは持ち帰り(テイクアウト)や宅配(デリバリー)も対象となっています。

安全に、飲食店の食事や飲み物を楽しむには、テイクアウトやデリバリーを利用するのが良いでしょう。

Withコロナ時代は自分の旅を楽しもう

新型コロナの流行が始まって9ヶ月が経とうとしています。

この間に、どうすれば感染しにくいかということが分かってきました。

できるだけ感染リスクを抑えながら旅をするためには、誰もがモデルコースのような画一的な旅行をしていては人との接触は避けられません。

Go To トラベルキャンペーンを利用する際は「ずらし旅」を意識しながら、自分だけの旅行を探してみましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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