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新型コロナ 新規感染者数のピークは過ぎても、重症者数は今後も増加が懸念される理由

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナの重症者数が増加しており、医療現場での負担が増大しています。

新規感染者数はピークを超えたとの見方が広がっていますが、まだ安心できる状況ではありません。

新規感染者数はピークを超えたとの見方

新型コロナの国内第2波における新規感染者数は横ばいからやや減少傾向となってきました。

先日行われた日本感染症学会学術集会でも、専門家らが

「全国的に見ると(感染拡大は)だいたいピークに達したとみている」

(尾身茂 分科会会長)

「大都市で数万人が死亡し、医療が崩壊するといった最悪のシナリオが起きる可能性は低まってきた」

(押谷仁 東北大教授)

出典:最悪シナリオ「可能性低まった」 新型コロナのシンポで専門家

と発言しており、第2波はなんとか凌げそうだという雰囲気が出てきています。

全国での新型コロナ新規感染者数(「Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめ」より)
全国での新型コロナ新規感染者数(「Yahoo!JAPAN 新型コロナウイルス感染症まとめ」より)

東京都はもう少し細かいデータが閲覧可能ですので、その他の指標も見てみると、

東京都における新規陽性者における接触歴等不明者数(第7回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における新規陽性者における接触歴等不明者数(第7回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における新規陽性者における検査陽性者数(第7回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における新規陽性者における検査陽性者数(第7回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

以上のように「新規陽性者における接触歴等不明者数」「検査陽性率」もピークを超えているように見えます。

この2つの指標が低下していることは、潜在的な感染者も減少していることを示唆しています。

しかし、まだ安心できる状況ではありません。

なぜなら、重症者数はまだピークを超えていないためです。

全国の重症者数はまだ増加を続けている

全国の重症者数は今も増加を続けています。

全国の人工呼吸器使用患者数の推移(ECMO netより)
全国の人工呼吸器使用患者数の推移(ECMO netより)

全国の重症者数は8月22日時点で202名となっており、第1波のピークである312名にはまだ及ばないものの、日々増加を続けておりまだピークアウトする気配がありません。

東京都における重症者数(第7回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
東京都における重症者数(第7回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

この資料は8/18時点のものであり32人ですが、8月22日現在は5名増えて37名となっています。

東京都はこれまでは感染者数に比べて重症者数を低く抑えてきましたが、ここに来てジリジリと重症者数が増加してきています。筆者も都内の医療機関で新型コロナ診療をしておりますが、他院からの重症者の転院依頼が増えてきており、都内での重症患者を受け入れる余裕のある医療機関が減ってきている印象を受けます。

また(医療機関逼迫の鋭敏な指標として一部から絶大な信頼を寄せられている)私のまぶたもこの数日徐々にピクピクし始めており、予断を許さない状況が続いています。

大阪府や沖縄県はさらに深刻な状況が続いており、現地の医療者は大変な状況かと思います。

今後も重症者数が増え続ける理由

新規感染者数はピークを超えたかもしれませんが、まだこれから数週の間は重症者数が増えることに注意しておかなければなりません。

その理由として、

1. 重症者数は新規感染者数の増加から約2週間遅れてピークを迎える

2. 新規感染者のうち、高齢者の占める割合が少しずつ増えてきている

の2つが挙げられます。

重症者数は新規感染者数の増加から約2週間遅れてピークを迎える

1つ目の「重症者数は新規感染者数の増加から約2週間遅れてピークを迎える」については、これまでも再三繰り返してきた話題ですが、新型コロナの典型的な経過として、発症から重症化するまでに時間を要します。

新型コロナ患者の典型的な経過(筆者作成)
新型コロナ患者の典型的な経過(筆者作成)

感染者の8割の方はインフルエンザのような症状が1週間ほど続き、そのまま良くなっていきますが、全体のうち2割の方は肺炎などの症状が増悪し、さらに全体の1割程度が重症化していると考えられます。

新規感染者数と重症者数のピークのずれ(都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップおよびECMO netより筆者作成)
新規感染者数と重症者数のピークのずれ(都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップおよびECMO netより筆者作成)

図は第1波のときの新規感染者数のピークと重症者数のピークの違いを見たものですが、新規感染者数のピークから2週間遅れて重症者数のピークが来ています。

第2波のピークからすでに2週間過ぎているとしたら、そろそろピークを迎える可能性はありますが、今のところはその気配はありません。

新規感染者のうち、高齢者の占める割合が少しずつ増えてきている

新型コロナは年齢が高くなるほど重症化のリスクが高くなります。

東京都モニタリング会議資料によれば、8月19日時点の重症患者数は32名のうち、40代が1名、50~60代が16 名、70代以上が15名となっており、50代以上が97%を占めます。

当初、重症者数が都内で多くなかった理由の一つとして、感染者が20代〜30代の若い世代中心であったことが挙げられます。

しかし、その傾向はなくなりつつあり、徐々に高齢者の占める割合が増加してきています。

東京都内の感染者における年齢層の変化(6/27-7/3と8/11-17との比較 データは東京都より)
東京都内の感染者における年齢層の変化(6/27-7/3と8/11-17との比較 データは東京都より)

この図は第2波の流行初期の6月下旬の1週間と、直近の1週間における感染者の年齢層を比較したものです。

50代以上の年齢層が倍近くにまで増えていることがお分かりかと思います。

これは、当初若い世代から始まった流行が、だんだんとその周辺の人たち(家族など)に広がることによって年齢層が広がってきていることに起因しています。

感染者数そのものはピークを迎えたかもしれませんが、重症化リスクの高い人達が占める割合が増加してきているため、重症化する人の割合は流行初期よりも多くなっていくことが懸念されます。

重症者はすぐには軽快しないため、医療現場への負担は積み重なっていく

一旦重症化した患者さんはすぐには回復しません。

東京都モニタリング会議資料によると、重症者が軽快(人工呼吸器からの離脱)までの日数の中央値は7日となっており、長い人では数週〜1ヶ月以上を要するため、重症者数はだんだんと積み重なっていくことになり、徐々に医療現場の逼迫につながっていきます。

今から2週間後の重症者の数を減らすことは困難ですが、1ヶ月後の重症者は私たちの日々の感染対策の徹底によって減らすことができます。

新規感染者数はピークを超えたということが事実であればとても良いことではありますが、まだ気を緩めても大丈夫な時期ではありません。

このまま新規感染者数を減らし続けるために、周りの家族や大事な人に感染を広げないために、引き続き「手洗い」「屋内でのマスク着用」「3密回避」を続けていきましょう!

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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