8月6日に国立国際医療研究センターより国内の新型コロナ症例レジストリである「COVIREGI-JP」の中間解析データが発表されました。

全国227施設、約2600例という国内の新型コロナ症例の報告としては過去最大規模の報告から何が分かるのでしょうか?

症例レジストリとは?

まず症例レジストリは何かといいますと、

特定の疾患あるいは特定の手技や手術への暴露など、臨床条件の合致する集団について、体系的に情報を収集する情報基盤である

出典:〔日内会誌 105:2183~2193,2016〕

ということで、特定の疾患の情報を集積するデータベースです。

国内でも様々な症例レジストリがあり、有名なものとしては「輸入感染症レジストリ J-RIDA」などがあります(ホントは全然有名じゃないんですが自分がやってるレジストリなのでどさくさに紛れて紹介してしまいました)。

COVIREGI-JPは国立国際医療研究センター(感染症で有名な病院ですよね)を中心に構築された、日本の新型コロナウイルス感染症の症例データを集積する症例レジストリということになります。

COVID-19に関するレジストリ研究

COVIREGI-JPのホームページ(https://covid-registry.ncgm.go.jp/)
COVIREGI-JPのホームページ(https://covid-registry.ncgm.go.jp/)

元となるデータは、新型コロナ患者の入院診療が行われた全国の医療機関から善意で登録されるものであり、1症例登録するだけでも30分〜1時間くらいかかります。

データをご入力くださった全国の医療従事者の皆さま、本当にありがとうございます。

COVIREGI-JP中間解析の概要

今回メディアセミナーで発表されたのは7月7日までに登録された全国227施設の計2638例の中間解析のデータです。

日本国内でこれだけ多くの新型コロナ症例のデータは初めてのものとなります。

COVIREGI-JP 中間解析の2636人患者の基礎データ(国際医療センター発表資料より筆者作成)
COVIREGI-JP 中間解析の2636人患者の基礎データ(国際医療センター発表資料より筆者作成)

入院までの日数が7日(中央値)、入院日数は15日(中央値)ということです。

新型コロナでは発症からしばらくは発熱、咳など風邪やインフルエンザに似た症状が続き、7〜10日くらいに呼吸苦などが出現してきます。

入院までに7日というのは、ちょうどこの悪化する時期に前後して入院している方が多いということになります。

なお今回の解析は主に第一波の患者が対象になっていますが、現在は濃厚接触者にも積極的に検査が行われていることから、今は入院までの日数はもう少し短くなっているかもしれません。

入院日数についても、現在は「PCR2回陰性確認してから」というルールもなくなり、発症から最短10日で退院できるようになっているので、これも今はもっと短くなっているでしょう。

男性がやや多めですが、これは男性の方が入院を要するような重症度の高い事例が多かったということかもしれません。

7.5%が死亡しています。これについては後ほど考察したいと思います。

国内の新型コロナ入院患者の重症度は?

COVIREGI-JP 中間解析の2636人患者の重症度(国際医療センター発表資料より筆者作成)
COVIREGI-JP 中間解析の2636人患者の重症度(国際医療センター発表資料より筆者作成)

最終的な重症度は、軽症(酸素投与を要しない)62%、中等症(酸素投与を要する)30%、重症(人工呼吸管理やECMOを要する)9%となっています。

例えば中国からの44000人のデータでは、軽症81%、中等症14%、重症5%となっていますが、これは入院例以外のごく軽症な例も含んでいます。

今回の解析の対象となっているのは入院症例であり、ホテル滞在や自宅待機などの軽症で入院を要しないと判断された症例は対象外であることから、感染症全体よりも重症度が高い集団ということになります。

重症化しやすい患者背景は?

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今回の中間解析データでは重症化リスクファクターの詳細な解析はされていませんが、レジストリ全体(2636人)の中で男性、喫煙者が占める割合よりも、重症者(223人)の中で男性、喫煙者が占める割合が多く、また年齢も重症者で高い傾向にありました。

これらの男性、高齢者、喫煙者は海外からの報告でも重症化のリスクと言われていますので、それらの報告に矛盾しない結果と言えます。

ただし男性と喫煙者は交絡している可能性もあります(喫煙者には男性が多いので、見かけ上どちらかのリスクが本来よりも強調されてしまっているかもしれません)。

COVIREGI-JP 中間解析の2636人患者の重症度別の年齢分布(国際医療センター発表資料より)
COVIREGI-JP 中間解析の2636人患者の重症度別の年齢分布(国際医療センター発表資料より)

患者全体と重症度別の年齢分布を見てみると、患者全体を通して20歳未満が少ないことが分かります。

また、20代、30代くらいまでの若い世代では軽症例が多く、高齢になるほど中等症、重症になる頻度が高くなっていることが分かります。

一般的に高齢者では致死率が高く、厚生労働省から発表されているデータでも80代以上の致死率が最も高くなっていますが、このレジストリのデータでは70代、80代以上の年齢層は、50代、60代よりも重症例が少ないように見えます。

これも詳細は今後の解析を待つ必要があるかもしれませんが、高齢者では「ACP(アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)」などで人工呼吸管理を行わないなどの意思決定が行われたことが影響した可能性なども考えられるかと思います。

COVIREGI-JP 中間解析の2636人患者のうち重症者に多かった基礎疾患(国際医療センター発表資料より筆者作成)
COVIREGI-JP 中間解析の2636人患者のうち重症者に多かった基礎疾患(国際医療センター発表資料より筆者作成)

また基礎疾患別では、末梢動脈疾患、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、COPD以外の慢性肺疾患、軽度の糖尿病の患者ではレジストリ全体に占める割合よりも重症者に占める割合の方が多く、重症化のリスクファクターとなっていそうです。

この他、脳血管障害、高血圧、高脂血症、肥満、がんの患者でも同様の傾向がみられましたが、詳細は今後の解析を待つ必要があります。

結局、日本の新型コロナの致死率は低いのか

COVIREGI-JP中間解析データと各国からの報告との致死率の比較(国際医療センター発表資料より筆者作成)
COVIREGI-JP中間解析データと各国からの報告との致死率の比較(国際医療センター発表資料より筆者作成)

今回の新型コロナ症例レジストリの中間解析では、致死率7.5%となっています。

これは他国と比べてどうなのでしょうか。

単純に、中国、アメリカ、イギリスからの入院症例の報告と比べると、日本は致死率が低いように見えます。

しかし、入院の基準や医療体制、対象となっている時期の医療体制の逼迫度など様々な要因が関連するため単純な比較は難しいと言えます。

例えば、日本はしばらくの間は新型コロナと診断されれば入院を原則としており、ホテル滞在や自宅待機が行われるようになったのは第一波の後半からです。そのため、他国と入院例と比べると軽症例が多い可能性はあるでしょう(なお入院していない症例を含めた感染者全体の2020年8月9日時点の致死率は、日本が2.2%、中国が5.3%、アメリカが3.2%、イギリスが15%です)。

単純な比較は難しいものの、可能性の一つとして指摘されているのは基礎疾患を持つ患者が少ないことです。

例えば、糖尿病患者(軽症+重症)はCOVIREGI-JPでは全体のうち16.9%を占めていましたが、先ほどのアメリカ・ニューヨークの報告では患者全体のうち22.6%が糖尿病患者です。

こうした基礎疾患を持つ新型コロナ患者が日本では少ないことや、肥満人口が欧米よりも少ないことが寄与している可能性はあるかもしれません。今後の詳細な解析が待たれます。

こうしたレジストリ研究のデータが明らかになることで、対策を強化すべき集団が明らかになり、今後の重症化の予測や早期治療に繋がりますので、国内の新型コロナの対策に大きく寄与します。

今後も症例情報が集積されデータが公開されていくことで国内の新型コロナ対策が進展することが期待されます。

※筆者は国立国際医療研究センターで感染症診療に従事しており、同僚の多くが本プロジェクトに関わっていますが、私自身は直接関わっていません